私は、目を真ん丸にした。
キューさんが見えるのは私だけだと思っていた。私以外にも見える人がいたの……??
別に驚きもせずに思った通りという顔をしながら、その男は俯く。
話はそれだけだった。
私は、再び前を向いた。先生の話が頭に入らなかった。
何故?何故??……何故??
授業も終わり、後ろの男は何もなかったように立ち上がり…友達だろう?所へ向かう。
聞くなら、今だ。聞くなら今しかない。
なんて言おうか?何故見えるのですか?って言おうか…。
そうやっていつも通り…おどおどしていたら、その人との距離は離れていく。
あーあ、またか。
心のどこかでそんな私を憎たらしく見ている自分がいた。
『私は、変わられない。』
ポンッ…!
背中に何かが触れる音がした。それでバランスが崩れ、自然と体が前へ。
気がつけば、男の服の裾を掴んでいた。
バッと、すぐに手を離す。
言うなら今だ!!頑張れよ、私。
私の声が少し大きかったらしく、周りの人が私を見る。
顔がだんだん赤くなっていくのが分かった。
右手を掴まれたかと思うと、グイグイとどこかに連れていかれる。
振り返ると、キューさんは何故か拍手している。
拍手してるんじゃない!!!…と心の中で叫んだ。
【階段の踊り場】
誰にもいなくなる所まで来るとやっと手を離してくれた。
この雰囲気どうしようか。と困惑している私に早速語り出す目の前の人。
そういう人本当にいるんだ……。
テレビとかの中だけの話だと思っていた…。
そう言われても私の目には何にも映らない。
ど、どー言う意味?
彼は、ちょっとため息をついてから口を開いた。
グサッ。胸を刺す音がした。
言っといて、なんでもその言い方はないんじゃ……。
何を言おうかと迷っていると、目の前に居る人はだんだん顔が怖くなっていく。
こりゃ、早く言え。と思っている顔だ。
これは、早く言わないとやばい。
男の人は、俯く。
うわぁ、嫌な奴だ。
じゃ、終わりです。と言って戻るのか?
それだったら、今までのままだ。
キューさんの謎も1人で解くのか?目の前の人も、キューさんが見える。
それだったら、協力してくれたら、もっと早く色んなことが分かるんじゃないか?
私は、知っている。キューさんが時々悲しそうな顔をすることを…。なんも思い出せなくて…苦しんでるのかな。
ならば、助けてあげたい。でも、私だけでは物凄く時間がかかるだろう。
だったら、今やることは1つ。
《そこで終わらせるな。》
彼は、じっと、私だけを見つめる。
太陽の光でピアスが反応し、光る。
そして、出た答えはー。
私、てっきり妖怪の何かと思っていた。
違うんだ。だったら何の種類の生き物?
手を出してきた。握手をしろ。という意味だろうか。
私も手を差し出し…、元気よく握った。
近藤さんは、ふっと優しくわらった。初めて見た彼の笑顔だった。
こんな風に優しく笑えるんだ……。
【ちょい足し】
さっきとはまた違う、鳥肌が立つような笑顔で近藤さんは言った。
完璧に思っていたことをすらりと当てて行ったことが何よりも鳥肌が立った。
私…そんな顔してた…?
苦笑いで誤魔化すしかない。なんだってこれからも関わる人だから。
なんて言おうか。考えていた私は、この言葉が耳に入らなかった。
【ちょい足し終わり】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。