「ーーーーーーーーー。」
「ーーーは、ーーーーーーす。」
「次はーーーーーーーー。」
線路の上を走る音と、アナウンスの声が耳に入り…重たい瞼を開く。
ちょっとだけ周りを見回すと…全部埋まっている席。
窓の向こうには真っ暗で灯りをつく街が見えた。
あぁ、電車に乗っていたんだった。
手に持っていたスマホのボタンを押すと、シンプルな画像と共に時間が出てきた。
【 19時 24分 】
「次は、○○駅です。ドア付近の方は気をつけてください。」
もう降りる駅…!?起きてよかった…。
スマホを鞄に入れて降りる支度を済ませると、立ち上がりドアへ向かう。
ドアのガラス辺りに私の顔がぼんやりと映る。
ただいま、20歳で大学生。……生きている理由が分かりません。それが悩みです…!
電車が走る速さが駅に近づくにつれて少しずつ遅くなって…そして、歩くペースと同じぐらいになって…
ギィーーー!という音と共に電車は止まる。
定期を取り出して改札を通り…アパートへ足を動かした。
年季が入っているスニーカーを見つめながら…今更そんなことを考えていた。
「あぁ、生きている価値なんてないんじゃないかな?」って……。
小さい時は、夢があったけれど…大きくなるにつれて自然と消えていった。
いや、現実というものを見て一つ一つ捨てて行った。
中学生、高校生…。普通に勉強にして過ごして…
何も考えずに大学へと進んできた結果がこれー。
静けさが広まる夜に…小さな声で呟いた。
別に苦しいわけじゃない。『死にたい!』という訳でもないが…『生きたい!』でもないんだよね。
やりたいことがないから。夢がないから。
生きていても……楽しくないから。
そういう理由で…そう思うのは、間違ってると言うのは分かってる…分かっているんだけどなぁ…。
…
アパートに着き、鍵を開けると…電気をつけずに中へ入り込んだ。
窓の向こうに一つ街灯があるからなのかそんなに真っ暗じゃない。
目も慣れてきたらほとんどのものは見える。
そういう面でこの部屋で良かったといつも思う。
お腹の虫の鳴き声も無視して…そのままベッドに崩れ倒れるのように横になって
目を閉じて静かに眠りに落ちた。
…
…
その時は気づかなかったけれど…
私以外に、【何者か】がこの部屋にこっそりと入り込んでいましたー。
ザザザッ……。
ザザッ………………。
【静かに布団をかける音】
ザザッ………。……キュー??
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!