第20話

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2020/11/17 16:32
あれから1ヶ月後 _______。

私は今病院にいる。
春高予選の前から急に体調を崩し
春高予選に行く前に倒れてしまった。

検査の結果、再発しているとのことだった。
完全に治すために1年は絶対入院しないといけなくなった。
これ以上部員のみんなに迷惑をかけられない。
私は退部届を出した。
北 信介
北 信介
愛生…
病室には北くんがいる。
私が退部届を出したと聞き、来たのだろう
西山 愛生
西山 愛生
ごめんね、本当はもっと支えたかった
涙が止まらない。
そんな私を抱きしめてくれた。
北 信介
北 信介
1年か…
西山 愛生
西山 愛生
長いよなあ〜
久しぶりやわこんな長い入院
北 信介
北 信介
そっか…
なんかあったら言うんやで?
西山 愛生
西山 愛生
ありがとう
彼は部活があるため帰った。

(…なんで…なん…)
西山 咲穂
西山 咲穂
愛生…
西山 愛生
西山 愛生
ママ…
母は何も言わずにただ抱きしめてくれた。
私はずっと泣いていた _______。

_____________________

1日だけ外出許可が降りた
11月上旬。

私は学校に行った。
街を歩くと私の大好きな
金木犀の香りに包まれていた。

(ええ匂い…やな…)

校門の前で北くんを待っていた。
実は北くんに話があると言われてここにきたのだ。
今日は部活がないから、授業終わったらすぐ校門に行くと連絡が来た。

(話ってなんやろ…)
北 信介
北 信介
ごめん、お待たせ
西山 愛生
西山 愛生
あ、うん…
で、話って?
北 信介
北 信介
どっか座ろっか
彼はそう言って
私を近くのカフェに連れてきた。

多分、電話じゃだめな用事だったんだろう
西山 愛生
西山 愛生
北くん?話ってなに?
北 信介
北 信介
__________ よっか。
西山 愛生
西山 愛生
ん?
北 信介
北 信介
…俺ら、別れよ。
唐突に告げられた彼からの別れ話。
理解が出来ずに、数分黙ってしまった。

頭の中で整理していたけど
理解が追いつかなかった。
西山 愛生
西山 愛生
え?何言うてんの…?
北 信介
北 信介
……ごめん
いま前を向いたら…きっと…
俯いてるけど、涙が溢れる。
西山 愛生
西山 愛生
なんでなん…嫌や……
北 信介
北 信介
愛生
西山 愛生
西山 愛生
もっとちゃんと理由言うてくれな
嫌や!やっと…
両想いなれた思てたのに……
私は顔を上げた。
目の前にいる彼は、涙を流しながら
ただ、「ごめん…」と言った。

(泣かれたら、これ以上は聞きにくいやんか…)

北 信介
北 信介
ごめん……っ…
西山 愛生
西山 愛生
……分かった…別れよう。
もう、病院も来やんでいい。
1ヶ月ちょっとありがとう
北くんが追いつけない場所まで
ただひたすら、走った。
自分の病状が悪化してもいい、と
その時は思ってしまったのだ。
どれだけ好きでも、私の想いは
全然届かなかったのか。
残念だ。悲しい。胸が痛い。

ただ、ひらすらに走ることしか
できなかった。
止まったら、倒れるって分かってた。

自分の息が乱れていく。
足も重くなっていく。
目の前も霞んでいく。

(北くんなんか…大嫌いや…!)

_______ 北くんが私を振った
本当の理由が知れるのはもう少し先の話だ。

_____________________

1月_______
私はテレビで春高を見ていた。
兄が出る最後の試合なのだ。
現地では見れないので
せめてテレビで見たいと思い
毎日春高を流している。

メンバーを見ると
1年は北くん以外全員がベンチメンバーになっていた。
(北くんだけ…おらん…)

兄は取材に答えていた。
アナウンサーの
"この勝利は誰に伝えたいですか?"という質問に対して
"今は闘病中の大切なマネージャーに伝えたいです"と言っていた。

私は部を離れた身。
それなのに、"まだ所属している"
みたいな言い方をしていた。

春高はベスト8で敗れた。
あと3回勝てば日本一だったのだ。
私はそれで十分だったのに
兄と悠真から
"日本一にしてやれなくてごめん"と
連絡が来た。

私は、"部を離れた身"なのに _______

試合後、兄から電話があった
西山 愛生
西山 愛生
もしもし…
西山 春馬
西山 春馬
愛生、ごめんな
西山 愛生
西山 愛生
なんで謝るん?
西山 春馬
西山 春馬
日本一…っ、なれんかったわ……
西山 愛生
西山 愛生
……ええのに。
兄は泣いていた。
日本一の約束は私だけじゃなく、
彩美ちゃんともしていたらしい。
兄にとってはとても重圧だったのかもしれない。
そんなお願いを私はしてしまったのだ。
西山 愛生
西山 愛生
あの日の約束なんて、忘れてもよかってんで
西山 春馬
西山 春馬
そんなこと…出来るわけないやろ…
西山 愛生
西山 愛生
…ありがとう、お兄ちゃん
西山 春馬
西山 春馬
え?
西山 愛生
西山 愛生
私のこと、誘ってくれて
兵庫一にしてくれて
全国ベスト8にしてくれて
私がそう言うと彼はもっと泣いた。
兄の性格だから、
全員の前では絶対泣かないことを
私は知っている。
だって、16年間兄の後ろ姿をずっと
ずっと見てきた妹だから。

"お兄ちゃんは、いつもかっこいいよ"
"ほんまありがとう"

わたしはそう言って電話を切った。

病気が完治したら
一番に感謝を伝えに行こう。

そう思って、闘病生活を続けた。

_____________________

あれからどれくらい時間が経ったんだろう。

たまに外出許可をもらっても
外に出ることはなかった。
外に出れば、色んなことを思い出すから。

容体が悪化して、これ以上学校に行けそうもなく、学校を辞めることになった。
これはもう、仕方ない。やむを得なかった。

入院がもう1年伸びるかもしれないと
言われた時点で辞めると決めていたのだ。

もう1年伸びると言われた、17歳の誕生日。
悲しくて、ずっと寝ていた。

夜起きると、ベットのそばにあるものが置かれていた。

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