北くんを気になり始めてから
隣の席で授業を受けるのが本当に楽しかった。
ああ、私この人のこと大好きなんだ
と思うようにもなった。
麻弥に声をかけられてびっくりした。
ぼーっとしてしまった。
麻弥は私の手を引いて
屋上のドアの前に行った
(なんでそんなこと聞くんや?)
彼女が言った、さっきの言葉の続きに
私は何も言えなかった
彼女は恥ずかしそうに俯いて話した。
(麻弥が、北くんのこと…)
何を言えばいいか分からなかった。
ただ、彼女の背中を押してあげないといけない…と思った。
彼女のために諦めよう…。
親友のためなら、諦められる。
そう思って
私は無意識に北くんを避けるようになった。
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麻弥が私にあのことを打ち明けてから
1週間が経った。
北くんとの会話も少なくなった。
私は、推薦入試の時期が迫ってきていて
少し焦っていた。
夜の3時ごろまで毎日勉強をしていた。
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入試1ヶ月前______
笑って誤魔化した。
実は少しだけ体が重く感じる。
私はあまり風邪をひかない方だが
今日は体に力が入らない。
うん、と言って麻弥は自分の席に戻った。
(北くんとどうなってんやろ…)
ずっと気になっている。
私の横顔を見て北くんは気づいたようだ。
なるべく話をしないでおこうと思っていた。
そんな私にも話しかけてくれる北くん。
心配してくれる北くん。
無理矢理笑って誤魔化した。
チャイムが鳴り、挨拶をするために立った。
少しだけフラついた。
立ちくらみだろうか…
(あぶな…)
頭が痛い。視界がぼやける。
(倒れたら体調悪いんバレる…)
私は机にもたれて立った。
挨拶をしてすぐに座り頭をおさえる。
(ガンガンする、最悪やわ…)
彼の優しさを感じる
心が温かくなる優しさだ。
でもな、北くん。
私は麻弥を応援するために諦めなあかんねん。
そんなんされたら、もっと好きになってまうやろ
だから、避けてんねんで。
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授業が終わった。
なんとか1日乗り切った。
麻弥は用事があるから先に帰った。
教室には私ひとり。
少しだけ勉強をして帰ろうと思って残った。
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幸せな夢を見た。
北くんと手を繋いで一緒に歩く夢だ。
このまま夢が覚めなければいいのに…
誰かが私を呼んでいる…
でも、誰か分からない…
目が覚めた。
麻弥に呼ばれたのかと思った。
でも、麻弥は先に帰ってるはず…
そう思って左を向くと
北くんが心配そうな顔で私を見ていた
(私…そっか…寝ててんや…)
時計を見ると17時を過ぎていた。
そろそろ帰らないとママが心配する。
彼は忘れ物を机の中から取り出し鞄に入れた。
私も机の上に出していた教科書やノートを片付けて、立つ。
フラッ…
フラついてしまった。
立ちくらみがひどい…
(今日くらいええやんな…。好きな人と帰らして…。今日だけでええねん…)
私も北くんも自転車で通学している。
一緒に帰るのは初めてだ。
(なんかドキドキする…)
初めて好きな人と帰る。
それだけで特別な日になった。
北くんは私の漕ぐスピードに合わせて走ってくれた。
最近話せていなかったので
他愛もない話ができて嬉しかった。
幸せな時間ももう終わり。
家の近くまで来てしまった。
少し寂しかった。
もっと続けばいいのにって思った。
(うそ、顔に出てた…ん…?)
笑って誤魔化す。
まだ一緒に居たいとは言えなかった。
彼は手を振って、行ってしまった。
後ろでドサッという音が聞こえた。
振り向くとそこには…
麻弥がいた。
私と麻弥の家は近所なのだ。
用事を済ませて家に帰ってきたみたいだ。
麻弥はとても怒っていた
麻弥は怒鳴ってしまったことを謝ってくれた
誤解をさせてしまった私もちゃんと説明して
誤解が解けたので良かった。
これからは気をつけよう。
北くんが好きということも
麻弥には言わないでおこう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。