もう1日目が終わろうとしている。
今日1日北くんと話せていない。
(北くんどこおんねやろ…)
階段を上っていたら、上に北くんがいた。
私がそういうと彼は私の手を引いて
外に向かっていた。
彼はそう言って笑った。
いつもは無表情な彼が珍しく笑った。
綺麗だった、胸が高鳴った。
ああ、私はやっぱり…北くんが好きなんだ
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北くんと一緒に回る時間がとても楽しかった。
少しの時間でも一緒にいることができてよかった。
1日目が終了し、私は兄と帰る。
それは私が一番よく分かっている。
悠真が今も私のことを好きなのも
近くにいれば、よく分かる。
私は自分の口から告白したことがない。
悠真の時だって、そう。
悠真から告白してきたのだ。
(…私も言わなあかんよな……)
兄と話して、自分の弱さに気づかされた。
臆病なことにも。
振られるのが怖いのはみんな一緒なはずなのに。
自分ひとりだけが怖いと思い込んでしまっていた。
伝えよう、北くんに。
言いたいこと、自分の気持ち、全て。
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2日目。
今日は一般公開なので
昨日よりも賑わっている。
他校の生徒や自分の親が来るからだ。
私たちはもうすぐで劇の開幕時間。
私は衣装に着替え
千佳にメイクをしてもらっていた。
演目は「シンデレラ」
誰もが知っているこの話を
私たちなりに演じる。
私はシンデレラ。相手の王子様役は北くんだ。
舞台袖に北くんがいた。
(うわ!めっちゃ似合っとる!)
一瞬でも目が合えば
セリフを忘れそうになる程、かっこよかった。
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劇は成功した。
セリフを噛むこともなく、
みんなミスなく幕を閉じた。
彼は照れ臭そうにそう言って
舞台の片付けをしに行った。
不器用なとこも昔と変わらない。
そこも可愛いなと思った。
そう言って千佳も舞台裏の片付けを手伝いに行った。
私は制服に着替えようと思い、教室に向かう。
彼は顔を赤くしてそう言った。
私から誘おうとしていたのに
北くんが誘ってくれた。
後夜祭。
私は、気持ちを伝えようと思った。
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2日目も終わり、校内や体育館
全ての場所の片付けを終え
後夜祭がスタートする。
北くんと教室で会ってから
グラウンドに降りた。
私は恥ずかしくなって俯いた。
グラウンドの真ん中には
人が大勢集まっていた。
私たちは花壇の近くのベンチに座ることにした。
そう言って渡されたのは
私の好物のアイスココアだった
やっぱり北くんは優しいなと感じた。
少し気まずくなってしまった。
北くんは私と悠真が付き合っていたことを
知っていたから。
私が「北くんが好き」という言葉を
口に出す前に
ドーンっと大きな音が響いた。
花火が打ち上がったのだ。
好きな人と2人で見る
花火はとても美しく綺麗だった。
北くんに呼ばれ、彼の方を見ると
真剣な眼差しで私を見ていた。
そして、急に視界から消え
体が温かくなった。
北くんに抱きしめられたのだ。
彼から言われた「好き」という言葉。
ずっと聞きたかった言葉。
嬉しくて視界がぼやける。
彼は少しだけ強く抱きしめてきた。
北くんの鼓動が早いのが分かる。
(緊張してんや…)
私は勇気を出して言おうと思った。
今、言うしかない。と。
北くんが"愛生"と呼んでくれた。
とても嬉しかった。
その日から私たちは付き合うことになった。
この幸せが長く続くと、この時は思っていた。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!