私は、北くんは変わってしまったのだと感じた。
あの優しい北くんが。変わったのだ。と。
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インハイ、春高予選の結果は全部
悠真から聞いた。
たまにお見舞いに来てくれる
部員の皆にも話を聞かせてもらった。
ただ、北くんだけは来なかったのだ。
1月の春高。
正セッターに侑くん、オポジットに治くんが起用され、1.2年生主体のチームとなった稲荷崎。
赤城くんも大耳くんもアランも悠真も全員メンバー入りしていたのに、北くんはベンチでマネージャーをしていた。
(…え?)
もしかして
選手からマネージャーに転向したとか?
それならみんなそういうはずだった。
でも誰一人、転向したとは言っていない。
北くんの実力は他のみんなに比べたら"普通"かもしれない
でもやるべきことはちゃんとやっている。
そんな彼なのに、何故、メンバーに選ばれないのだろう。
わたしには分からなかった。
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1年伸びると言われた入院。
わたしは一生懸命治療して
半年早く退院することができた。
高卒認定試験を受けるために
わたしは勉強し始めた。
実家に戻ると兄がいた
そう言ってわたしをぎゅーっと強く抱きしめる
1年前、春高でベスト8になった時のお礼を伝えると、「愛生のおかげやからな」と笑って答えてくれた。
そんな兄は、体育教師になるために
今大学に通っている。
もちろん、大学でもバレーボールを続けている。
それがとても嬉しかった。
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まだ冬の匂いが残る3月のはじめ。
私は久しぶりに練習を見に行くことにした。
もちろん、一人では行きづらいので
兄と一緒にだ。
入り口に行くと、制服を着た学生が近づいてきた
悠真はとても嬉しそうに話していた。
その後ろから宮兄弟が近づいてくる。
ケンカをする宮兄弟を止める悠真
とても賑やかになって嬉しかった。
春高後、新チームになって
キャプテンが変わった。
私の予想では
常にコートに立ってる悠真やアランが
キャプテンだと思っていたが
悠真はあの人の名前を言った。
彼らと話しながら体育館に向かった。
顧問の先生にも久しぶりに会い
楽しく話した。
赤城くんや大耳くん、アランも話しにきてくれた。
そんなみんなに差し入れを渡そうと思った。
今日は手作りのマドレーヌ。
(みんな喜んでくれるとええなあ…)
北くんとお兄ちゃんが話している声が聞こえた。
少しだけ北くんの声が震えていた。
(え、好きな人…?)
だからあの花を _______
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北くんが誕生日の時にくれた
プリザーブドフラワー。
その中に入っていた"ペンステモン"の花言葉は
「貴方に見惚れています」だった。
別れてからも、北くんは私のことを想ってくれていたことを知り、涙が出た。
北くんにその言葉をそのまま返したかった。
"私も貴方に見惚れていますよ"と言いたかった。
北くんにちゃんと、伝えよう。
私の想いを。私の気持ちを。
全て __________________
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!