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第1話

桜の花が咲く頃に
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2019/06/17 07:00
人物設定

◎ジェシカ=アベラール

アベラール王国の王女様。ずっと本ばっかり読んでいて誤解されがちだが天真爛漫で元気いっぱいであるが最近はその性格を隠して大人しい人物を演じて居る。一人称は僕であり双子の姉がいてあまり会えないがとても大切に思っている。

◎サンドラ=アベラール

ジェシカの双子の姉であり黒いリボンと黒い洋服が特徴である。

◎クリス=アベラール

ジェシカとサンドラの兄で煙草をよく吸っている。

◎ロディ=アベール

公爵の息子。ジェシカの婚約者だがあまりジェシカのことを快く思っていないが親には逆らえない為諦めている。本当に好きな人と結婚したいと思って居る。




 カーン、カーン、カーンと3時を告げる鐘が鳴り響く午後の黄昏の時間。僕、ジェシカ=アベラールは王宮の庭園で本を読んでいた。白い椅子に座って神話や童話の本を読めるこの時間は至福の時間といっても過言ではないだろう。使用人が入れてくれたお茶を飲むために本を閉じて机の上に置くとタイミングをみはらったのかと思えるほどタイミングがぴったりに誰かの声が聞こえる。

「リア、こんにちは。」

振り返らずに僕は返事をする。

「こんにちは、クリスお兄様。今日もいい天気ですね。」

「さすがジェシカ。声だけで分かるんだね。」

優しい声に煙草の匂い。これほど分かりやすい人物が他に居るであろうか。

「それで兄上様一体何の御用でしょうか?わたくしにわざわざ会いに来るのであればかなり重大な事ですよね?」

そういうと苦笑いをして兄上様は話す。

「話がはやくて助かるよ…といってもただ単に会いたくて来たという場合はジェシカは考えないのか?」

僕は少し考えたふりをしたがすぐに答えを口にする。

「兄上様は忙しいでしょう?だから庭園にはあまり足を運ばれませんし。何か大切な事でもない限りここには来られないかな…と考えまして」

「当たりだ。まあ重大な事と言ってもそこまでではないのだがな。サンドラがお前を呼んでいたからすぐに行ってやって欲しい。少し寂しがっていたぞ。」

僕はすぐに返事をした。

「わかりました。それではすぐに行って参ります。」

「おう!いってこい。」

そうして僕は双子の姉であるサンドラの元へ向かうことにした。…いきなり時間は飛び、あれから数分後、僕は庭園から歩いて僕の姉であるサンドラの部屋に来ていた。

「失礼致します。ジェシカです。」

一言声をかけて扉を開けるとそこはいつものお姉様のお部屋だった。

「あら、ジェシカいらっしゃい。いきなり呼び出して悪かったわね。そこに座っていいわ」

指定された席に座りお姉様の顔を覗く。僕とそっくりな顔をキョトンとさせているお姉様は僕にはないような魅力を持っていた。いつでも冷静でいて暖かくて優しい声、それでいてとても賢くて…。見ているだけでも魅力が伝わってくる。

「そんなに人の顔を見つめてどうしたの?」

不意に声をかけられて少しだけ驚いてしまうがそれを悟られないように笑顔で返す。

「何でもないですの。それよりも僕に用事とは何ですか?」

御姉様は一体何の用があるのかをとりあえず聞いてみる。

「そうね…単刀直入に言うわ。あなた城下町に行った事はあるかしら?」

「い…いえ僕は一回も行った事はありません。それがどうされたのですか?」

どうしてこんなこんなことを聞くのだろうか?別に城下町に行った事がなくてもいいのではないか?とは思うのであるが用件を聞き出す。

「それで…要件は何ですか?」

「ジェシカ、城下町に行ってみない?もちろん私と一緒にだけど。」

城下町…?僕は一回も行った事はないが色々な物語を読んでいると大層にぎやかだと聞いたことがある。とても行ってみたい‼

「それは本当なのですか!?」

「ジェシカ落ち着いて本当よ。使用人には内緒だけどね。」

使用人に内緒…いい響き!

「お姉様ありがとうございますの。それでいつ行くのですか?」

あまり長くは居られないだろうがなるべく長く町のなかに居たいなんて考えながら恐る恐る日程を訪ねる。

「ああ、それなら明日いく予定よ」

明日!?また唐突な話だが今日中にたまっている仕事を片付けてしまえば大丈夫であろう。僕は首を振ってお姉様に返事をする。

「是非、連れていってください。」

「そう、分かったわ。それじゃあ明日の朝五時に使用人の目を盗んでここに来てちょうだいジェシカ。」

「わかりました、お姉様。」

「それじゃあ、今の話は内密にね。」
「はーい、分かったのですお姉様。」

返事をして体を後ろに向ける。

「それではお姉様、また明日お会いしましょう」

「それじゃあね、ジェシカまた明日会いましょう」

扉を開けて外へ出た。ああ、明日はとても楽しみだと考えながら僕は歩き始めるた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 あくる日の朝、五月蝿い目覚まし時計の音で目を覚ました。時計を確認すると大体四時くらいで使用人達の声も聞こえず静かだった。そこで僕はベットから起き上がり超特急で着替える。昨日の夜に洋服は置いてあったので使用人に囲まれてわさわさ着替えさせられる事はない。そして着替え終わると今度は部屋の片隅に置いてあったバッグを取る。中にはお気に入りの本や水筒、お財布等が入れてある。…これで準備は大丈夫そうだ。そう思ったがもう一度辺りを見回す。他に必要なものがないか確認するためだ。一通り辺りを見回しても必要そうな物はもうなかった。これで本当に準備はおしまいである。

「よし、行くか!」

そんなことを呟き、私は一人で部屋の外へ出る。そこから隣の部屋であるお姉様のお部屋をノックした。

「失礼致します、お姉様ジェシカです。」

声をかけると扉が開く。そこからお姉様が顔を覗かせていた。

「ジェシカね。私は準備、終わっているわ」

お姉様は荷物をちらっと見せてくれる。荷物の量はたいして変わらないがその手には何か握られている。これは…剣かな?

「あ…そうそう行く前にジェシカにこれ渡しておくわね。」

「?」

僕は顔をキョトンとさせる。何故剣などを渡すのだろうか?確かに剣には多少の覚えがあり対人戦でも負けたことはないから別に使用用途が分からない訳ではないが何故今なのだろうか?

「町って治安が悪いから護身用よ。ベルトを使って腰に着けてね。」

そういい渡される。そのすぐ後にベルトを使い腰に着けるとお姉様は笑顔で話しかけて来る。

「それじゃあ行きましょうか!」

「はい!お姉様」

僕達は部屋を出て、廊下を歩き始める。こうして僕達のドキドキでわくわくな険が始まったのであった。廊下を進んで、城を抜け出していつの間にかワイワイガヤガヤと楽しそうな声が沢山聞こえてきて、たくさんの出店が出ている町のなか。僕と御姉様は人混みに紛れてゆっくりと道を進んでいる。少しでも手を話すと離れてしまいそうで御姉様の手をぎゅっと握りしめる。しかしそんな状態とは裏腹に気分は高揚していた。

「御姉様…人が沢山いますね!とっても楽しそうです。」

そういうとしかめっ面で御姉様は言葉を返してくる。

「そうね…まさかここまでとは思わなかったわ。あまり遠くへ行かないでちょうだい。はぐれたら大変よ」

本当にその通りだと思う。人が多すぎてはぐれたらもう会えなそうだ。

「わかりました。御姉様」

僕は返事をして足を動かし進む、進む、とにかく進む。そして御姉様の後ろについて色々な景色を見て回るが全く飽きる気配はなく、とても面白い。しかし先の人の流れが変だ。そう思った刹那、お姉様と道が別れてしまう。
「あ…御姉様!?」

必死に声をあげるがその努力も無駄で少しずつ御姉様が小さくなっていく

「ジェシカ!」

そのまま人の流れに押し出されてお姉様を完全に見失ってしまった。これから一体どうすれば良いのだろうか…見渡す限り、人、人、人。何処を見ても人だらけであり僕は深いため息を付く。ワイワイ騒ぎながら話し、楽しそうなグループやカップルや家族が目に見えるが僕はポツンと一人きりで逆にむなしくなってしまう。

「ねぇ、君。さっきからぼうっとしてどうしたの?」

不意に話しかけられて後ろを振り向くと知らない青年がたっていた。体がこわばり、無意識に剣のつかを握りしめてしまう。

「そこまで警戒しなくていいよ。僕の事知っているかい?」

よくよく顔を見ると、知っているような気がするがなにかが引っ掛かって思い出せない。

「その感じって僕の事を知らないのかな?じゃあ自己紹介するね。」

僕は顔を??にさせて色々疑問に思うが目の前の彼?は気にしない様子で話続ける。

「僕はロディ=アベール。公爵の息子であり、この国の王女の婚約者でもある身だ。君は一体誰なんだい?」

名前を聞いて、そしてその笑顔を見てはっとする。そういえばこの姿は本でみたことがある。ロディ=アベール。その人は聞いての通りこの町の公爵の息子であり、王女…つまり僕の婚約者である青年だったのだ。まあ、簡潔に今の経緯を話そうと思う。人混みの中を歩いていたら御姉様とはぐれてしまった。そして婚約者に会い、相手は僕に気がついていないのと名前を聞かれたが僕は何も話していない。そして現在に至るのであった。

「ねぇ…君はもしかして喋れないの?」

「別に…そんな事はありませんわ。」

そっけない態度で僕は答える。

「だったら何で名前を教えてくれないの?」

「…わたくしはリア=エリエージュです。これで満足でしょうか?」

とっさに考えた偽名と一人称を使い、私は応答する。

「ふーん…君リアって言うんだ。宜しくね、リア。」

「こちらこそ宜しく御願い致しますわ」

そう挨拶すると彼は訝しげな目でこちらを見てくる。

「そのしゃべり方…もしかしてブルジョア階級だったりする?」

いきなりそんなことを聞かれるが即否定する。

「わたくしはそんな階級ではありません。」

「…まあいっか!君面白いね。公爵の息子である僕が話しかけているのにそこまで強固な態度を貫くなんて…気に入ったよ。もし君がよければこの町を案内させてもらってもいいかい?」

助かるかも…王女なのに僕は全く町の風景を知らないし…せいぜい窓から覗いた事のあるくらいだしね。

「え…えぇ…出来ればそうさせて頂きたいものです」

そういうと彼は人懐っこい笑顔で

「じゃあ決まり!僕に着いてきて」

と言ってきた。

「分かりました。それでは宜しくお願い申し上げます。」

僕もお礼をしっかり言う。

「宜しくね!」

そうしている間に人通りが少なくなった。やがて、僕はロディに連れられる形で町を走り抜けるのであった。そしてロディに連れられてさまざまな所へ行き、さまざまな物を見た。例えば出店だったり、雑貨屋等私にとって珍しい物ばかりであり驚く度にロディに笑われてしまった。しかし、嫌悪感等はなく釣られて私も笑ってしまう位彼との会話は心地よかった。

「…ねぇリア、少し相談にのってもらってもいい?」

なんの前触れもなく真剣そうな顔つきで話始めるロディ。私は少し時差があったがこくんと頷く。

「ありがとう。それじゃあ言うけど、僕には婚約者がいるんだ。」

…うん、知ってるよ。だって僕だもん。

「へぇ…一体どのような方なのですか?」

知らなかったように振る舞うとロディは露骨に嫌そうな顔をして話始める。

「…ジェシカ王女君も知っているでしょ?この国の第二王女様であって稀代の才能を持った王女様。」

!?え…そんな風に呼ばれていたの?私は別の意味で驚くが彼は表情を別の意味で解釈していた為静かに微笑んで僕に話しかける。

「僕はね、その人が大っ嫌いなんだ…」

ロディはそのまま話を続けているが僕自身は軽く硬直して、こんなことを考える。

(正体明かせなくなっちゃったじゃん!)

そんなどうでもいいことを考えながら僕は混乱してしまい、何も返答できないまま硬直してしまうのであった。

「どうしたの?リア。何か僕おかしいことでもいった?」

顔を覗かれながら颯爽とした笑顔を向けてくるロディ。私は少し顔をひきつらせながら答える。

「何でもないですわ。ロディがそれほど毒舌だなんて…少しだけ驚いてっしまっただけですわ。おきになさらず。」

そのまま表情を変えないがロディは意外みたいで、表情を驚いたような表情へ変えてもロディは落ち着いたトーンではなす。

「ふーん…そんなに意外だった?そんなに僕って真面目に見えた?」

私は元に表情を戻して話す。

「いえ、別にそんな意味ではないですが…気にしないでくださいまし」

「まあいいよ。ジェシカ王女が嫌いなのはみんな知っているだろうしね。別に何もおかしくないさ。」

いやいや本人は知らないよ。というか普通に不意討ちはやめてほしい。

「まあね。それでさ、そんなことはどうでもいいんだ、そんなことよりほら、着いたよ。ここが僕のおすすめの場所なんだ。」

いきなり話を切られて少し顔をムーっとしながらも私は視線を横から前へと向けると、そこには信じられないような光景が広がっていた。

「ね?綺麗でしょう?君なら気に入ると思ったよ。」

そんな声など全く聞かずに私は周りを見回していた。草花が生い茂って蝶が舞っている。川のせせらぎが聞こえて青い空に白い雲が綺麗に見える。

「ははっ。そんなに気に入ったかい?君は見るからに自然が好きそうだったからちょっと案内してみたんだ。」

「…自然が好きそうって何ですか…確かにそうですが」

「なんか雰囲気がふわふわしていたんだよね。いかにも自然だ~って感じ」

「そうですか」

私はフワッと笑いかけるとロディの顔が少し赤くなる。何かあったのだろうか?

「ごめん、何でもないんだ。ちょっとね。」

「?とりあえず分かりましたわ。それじゃあ一緒に色々なところを見に行きませんか?」

「分かった!じゃあ行こう!」

彼と一緒に青空の下、駈け始める。だけど何かわすれているとような…まあいっか!…このときの私はそう、すっかり姉上の存在を忘れていたのであった。なんやかんやあってあれから数時間後、澄んだ青色だった空はいつの間にかオレンジが混じってそして空は完全にオレンジに染まっていった。

「ねぇリア?君はお家に帰らないで大丈夫なの?」

「いや…不味いかもだけど今日くらい別にいいです。家に帰ったってろくな事はないし。…帰りたくないですわ」

「ふーん…何か家庭に事情を抱えていると見た。どう?リア。」

別に家庭の事情なんか抱えていないけど…それでも母と呼べる存在は私に無関心で父と呼べる存在は私を愛してくれているけど所詮娘なんて道具でしかない。だから抱えていると言えば問題を抱えているのかな?僕の狭い視点ではよく分からない。

「別に…わたくしではよくわかりませんわ。でも家で自由がないと言えばないですね。だからかな…」

「リア…まあもしも寂しかったらさ、また僕に会いに来てよ?リアは面白いし優しいし。あ~あ~、婚約者がリアなら良かったな…」

いきなり神妙な表情を作るロディ。一体どうしたのだろうか?

「ねえリア、もしも僕が君に好きだっていったらどう反応する?」

「…嬉しいかも知れませんが、もしも王国側にバレたらロディの存在が危うくなりませんか?仮にも王女様の婚約者なのでしょう?火遊びはほどほどに。」

「…そっか。じゃあ君のおうちの近くまで送るよ。」

そこで何かが引っ掛かる。

「あ…待ってください…何か忘れていますの。」

そう、ようやく僕は御姉様の存在を思い出せたのであった。そこでロディにその事を伝える。

「ロディ、そういえばわたくしは御姉様とはぐれて迷子になっていたのですわ…なぜ忘れていたのでしょう。」

ロディの顔をまじまじ見ると表情が明るくなっていく。

「ふ…ははは!君って案外そういう面もあったんだね。おっちょこちょいでとっても面白いよ。いいよ、御姉様を一緒に探してあげる。じゃあ一緒に行こうか?」

「…何から何までありがとうございます、ロディ。」

お礼をいい、僕はロディと一緒にまた、町へ繰り出し我が姉、サンドラを探しにいくのであった。


「御姉様~一体何処にいらっしゃるのですか~いらっしゃるのであれば返事をしてください~」

声が枯れるほど僕は叫び、御姉様を探す。結局あれからロディと一緒に町へ降りて、御姉様を探しにいっているが、一向に見つからない。

「ねぇ、リア。お姉さんと何処で離れたの?」

いきなり質問されるが僕は間を開けずに答える。

「…分からないです。何しろこの町に来たのは初めてですわ…」

「そうなのか…それじゃあ、裏路地とか探してみる?もしかしたら居るかもよ?」

裏路地か…あの御姉様なら普通にありそう。猫とかに誘われて裏にいって迷っていたり…

「そうですね。出来れば御願いしたいのです。ロディ、案内してくれますか?」

「別にいいよ、じゃあ僕に着いてきなよ。」

「ありがとうございますの。」

 ロディとの会話を切り、また歩き出す。朝や昼みたいな活発さはなく、逆に今の時間帯は親子連れが多いという印象だ。まぁ周りを観察しながら着いていっただけで見所も何もない為、ここは割愛させて頂くとしよう。そんなわけで、結局何もなく裏路地に着いたわけである。

「ねぇリアこんなかんじでかなり人が少ないどころかいないんだけど、それっぽい人を見つけたら教えてね。」

「はーい」

曖昧に返事をして、周りの景色に視線を集中させる。特に何も目立ったものはなく、別に変わったことなどないと思ったが…いや待って?何か音が聞こえるような気がする。

「なんか聞こえない?まるで誰かが歩いて来ているような気がするけど、君のお姉さんじゃない?」

いいや、この音は複数にんで歩いているおとであって御姉様の足音ではない。そんなことをロディに伝えようとするけどその声は遮られる。

「おお、こんなところに王女様がいるじゃないか、奇遇だな。こんな盗賊の王に何かようなのか?」

その声を聞いて私は焦る。ロディにバレるかもしれないということと、一瞬知り合いかと思ったがこの顔は知らないし盗賊の王、という単語を聞き、私は直感的に鞘に納めていた剣を抜き叫ぶ。

「ロディ!後ろに下がって!」

そういうと、自称盗賊の王は落ち着いた声色で言う。

「おうおう、別に手荒な真似をしなければ何も悪いことはしないぜ。ちょっといたいかも知れないが」

すぐに返答し、隙を与えない。

「…いくら王族といえなめるなよ?こちらがわとしてもお前の返答しだいではこちらもただじゃおかない。」

なるべく殺気を混ぜて話すと相手もそれに対応した返事を返してくる

「そうか…交渉決裂だな。それじゃあこちらもやらせていただこう。」

「望むところだ。だけどロディには危害を加えるな。」

「リア、待って!一体何なの?」

そんなロディの声が聞こえてきて私は優しく微笑みかけるが何も言わない。そして自称盗賊の王は無駄に発言をしながら近づいてくる。

「お前が勝ったらそうしてやるよ。」

そうして、自称盗賊の王は僕に切りかかってくるのであった。切りかかってくる刃をかわしながら僕は相手を観察する。全く隙のない動きやスピードといい、かなりの手立てということは間違えなかった。

「王女様もなかなかやるじゃないか?」

そんな誉め言葉?にも僕は答えずに隙をひたすらに探す。どこか、どこかあるはずだ。

「そろそろ限界になってきたか…?それじゃあ、終わりだ!」

「リア!危ない‼」

隙あり!僕は自称盗賊の王と言っているへ突っ込む。そこで剣を持っている腕を切りつけた。きっと三センチ位は刺さっているであろう。手下はそのまま何も言わずに逃げ出した。どうやら自分自身の命しか考えていないらしい。

「ねぇ、君の方が限界なんじゃない?だって剣を持っていた方の剣を切りつけたんだよね。それならもう切れないでしょ?手下も逃げちゃったし。」

「グ…あ…」

苦しそうに喚いている相手を見ながらそのまま無表情で淡々と話続ける。

「僕の障害となるものは排除して正解。でもさ、殺しちゃうと色々とめんどくさくなるんだよね?だからさ、殺さなかったけど。まあ僕はもう帰るさ、後は手下を呼ぶなり好きにしろ。」

そのままロディには目もくれずにゆっくり歩き出す。きっと僕がジェシカということを知って嫌いになっただろう。確かに僕は噂通りの人間であり、ロディが好きでいてくれることなんてない。…ん?別に嫌われてもいいじゃないか?どうせ婚約者という薄っぺらい関係であって嫌われていたってなんの支障にもならない。だが、それを嫌だと感じてしまうのは何故だ…?

「ねぇ…リア…ずっと何で黙っていたの?」

「別に気まぐれだけど。まあ僕の事を嫌いっていっていたから黙っていただけなのかな。」

「そうだね。僕は君の事を嫌いだったよ。だけど、今は違う。一日一緒に過ごしてみて君に対する印象は変わったんだよ。というか逆に気が付かなかったの?普通に婚約者の顔を忘れるほど僕だって馬鹿じゃないんだよ?ずっとジェシカ王女だって知っていたよ?」

足を止め私はいきなり笑い出す。

「…そっか、君が知らないわけなかったか(笑)そりゃそうだよね。」

二人で一緒に笑っていると、今度こそちゃんとした足音が聞こえてきて、私の御姉様の声が聞こえてくる。

「ジェシカ~ようやく見つけたわ。クリスお兄様も来てくださったのよ?」

「御姉様、お兄様!」

「あら…ロディじゃない。久しぶりね?」

御姉様はロディの方を向いて話す。

「こちらこそ久しぶり、サンドラ」

面識あったの!?わーお、それは初耳だった。

「ジェシカの面倒を見てくれてありがとうな。大変だっただろう。あと事情は察した。そいつは捕らえておくから安心しろ」

「じゃあ一緒に帰りましょう。」

「分かりましたわ、御姉様。ロディも来てくださいね」

「お邪魔しちゃって大丈夫?」

「勿論!」

そうしてみんなで王宮へ帰るのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 カーン、カーン、カーンと時計の音がなる。いつも通りの庭園に、いつも通りのお茶に、そしてロディ。

「ねえ、ジェシカ…こんなに本読んでて飽きないの?」

僕の事をジェシカと読んでくれるロディ。しかし顔はつまらなそうだ。

「ふふふ、別に飽きないわ。それよりもロディは飽きちゃったの?」

「ちょっと集中が切れただけだって。」

ロディはそういっているがどうせ飽きてしまったのだろう。

「分かった分かった。じゃあ一回中断しましょうか?」

「だから違うって…まあいいや、一緒の散歩でも行かない?勿論町へ」

「そうね。」

そして私は駆け出す。ロディと二人で笑い合いながら。気がつけば桜の花が舞って幻想的な光景が広がっていた。綺麗なその花は、こちらへ飛んでくる。きっと沢山の思い出がロディや御姉様、お兄様等とできるであろう。そんな桜の花が咲く頃に今までの冒険の幕を閉じてそして、新しい冒険の幕があがっていくのであった。

END

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