第3話

『 café 』21 〜
282
2019/05/23 21:28
『café』

☆21☆


葉「あ!私の可愛い可愛い後輩ちゃん♡ため息ついちゃってぇ〜……大丈夫?」
〇「あ〜葉月さ〜ん!失恋ですよぉ〜!悲し過ぎるぅ〜(泣)」


葉月さんは、系列店で働いているの。

私が通ってる大学に行っていたらしくて、それだけで私は可愛がられてるw


そう!私は今日、繁忙期の系列店のヘルプに来てるの!


このお店ね?
すごぉ〜く!大人な店なの!

しゃぶしゃぶって事には変わりないんだけど…

全て完全個室で、お座敷には接待の女の子が付く。

葉月さん達は その接待係で、お客様に晩酌したり、お話のお相手をしたり…

まぁ〜他にも色々と……ね??



てか、私は配膳だけなんだけどね!

お食事運ぶだけだから、特にいつもと変わらないお仕事。



先「あれ?新人さん?」
〇「えっ?いいえ!駅近店舗から、ヘルプで来ました!」


☆22☆


葉「この子、大学の後輩ちゃんなの♡可愛いでしょぉ〜w」
〇「やだぁ// 可愛くなんて//」


接待係の方々は、皆さん大人。

年齢とかじゃなくて…

やっぱり、大人なお客様のお相手をするんだもんね。

艶っぽい人ばかりで…


あぁぁ〜〜〜憧れるぅ〜〜♡



葉「先輩昨日…どうだったんですかぁ〜?ww」


ニヤけながら、そう聞く葉月さん。

ナニナニ?と、私も興味津々で聞き耳です!


先「あ〜あの後、ホテル行っちゃったぁww」
〇「んへぇぇぇ〜〜ッッッ!!!」


あっ!聞き耳バレちゃった!


先「ふふっw あなた いくつぅ?」
〇「は// はい!ハタチです!」
先「ふふっw ホント可愛い♡」
〇「へっ//」


その先輩は、着替えてる手を休め、下着姿で近寄ってきた。

私の頬に触れると、そっと爪を立て、首筋から胸元を艶めかしくなぞった。


ゾクッ!!!



☆23☆


ゾクッ!!!


私の身体が跳ねると、フッw っと微笑み、ゆっくり耳元まで顔を寄せ…




先「ねぇ……?









……バージンでしょぉ?」







〇「っ!!!」





カァーーーーーーッ!!!っと、一気に顔に血が上っていくのが分かる!




先「ふふっw 羨ましいww」




真っ赤な顔で、目を丸くしてる私に、




先「こんな所……早く辞めな?」




と、どこか淋しげに、私の頬をポンポンとしていった。




その妖艶な下着の後ろ姿は…



私の心を よろめかせた。










藤井さんも、こんな美しい人なら…





相手するんだろうな…




自分の幼稚さが、悔しくもあった。




☆24☆



葉「あ〜〇〇?大丈夫かなぁ??」



頭がポーっとしてる私の目の前で、葉月さんの掌がチラつく。


葉「もっしも〜し!」
〇「っ!えっ?」
葉「ふふっw 先輩の言う通りかもね〜」
〇「…どういう意味…ですか?」
葉「私もね?あの大学出てこんなバイトして……親に言えないの。仕事の事。」


親に言えない仕事………か……


葉「でも、抜け出せない。時給は〇〇の3倍近いし、それに……必要とされてる気がして……」








葉「客なんて、私達の事は遊び道具としか考えてないだろうけど……解ってても…辞められないんだぁ〜〜ww」



葉月さんは、笑っていた。



葉「私も最初は配膳だったの。」
〇「えっ?そうだったんですか?」
葉「〇〇には…私みたいに、なって欲しくないなぁ……」


葉月さん達のお仕事が、どういうものなのか、深くは分からない。


でも…



☆25☆


でも…



〇「そんな、淋しい顔で言わないでください!葉月さん達は、カッコいいです!…私なんかよりも……ずっと…ずっと…」




葉「ふふっw 〇〇にモテても、嬉しくないよww」



葉月さんはまた……笑っていた。


笑ってる葉月さんが、悔しかった。



〇「私、憧れてるんです。大人になりたいんです。………子供扱いされて、相手にもしてくれなくて、失恋だなんて……カッコ悪くて……」




葉「〇〇……あのさぁ?〇〇には〇〇の可愛さがあるんだよ?」
〇「でも…可愛いより、大人になりたいんですぅ…」
葉「私達の仲間に入るのが、大人になるって事なら、喜んで受け入れるよ?…でも…この仕事はさぁ……心が蝕まれるよ?」






葉「純粋な〇〇に…味合わせたくない。」



その時 葉月さんは…


笑っていなかった。





私は…
大人には、なれないのか…




モヤモヤしたままだった。



☆26☆


バイトが終わり、始発の電車で皆んな帰って行く。


今日は朝もやで、街が少し霞んでいた。


こんな繁華街でも、それなりに朝は空気が澄んでいる。


なんとなく深呼吸をすると、藤井さんの笑顔を思い出した。


〇「逢いたいな…」


そう呟くと、信号待ちをしていた隣の人が、不審者でも見るような目で、私をチラっとだけ見た。

ただそれだけで、都会の冷たさを味わった気がした。





電車でウトウトしていたせいか、駅に降りてからも、足取りが重かった。



神「〇〇やん!」
〇「智くん!朝からランニング?感心だねぇ〜」
神「昨日二日酔いだった奴が、朝帰り?感心やねぇ〜」
〇「朝帰りじゃないもん!仕事帰りだもん!」
神「はぁ?新しいバイトか?」
〇「…う、うん。そ、そうだよ?何か問題でもある?」
神「朝までのバイトに問題無いとは言えへんよなぁ?」


うッ!やっぱりそうきたか!



☆27☆


神「だって、学校あるやろ?」
〇「今日は午後から!それに、ヤマシイ事なんて、何にもしてないから!」
神「・・・・・」


ジッと見てくる智くん。

バレたのか?
てかウソついてないし!


藤「あれぇ?〇〇ちゃんや〜んww」


自転車の後ろのカゴにまで いっぱいになってるスーパーの袋を乗せた藤井さんが…


なぜか嬉しそうに近づいてきた。



私の顔は、一気に強張り、みるみるうちに、目には涙が溜まっていく。



私の心は…
「逢いたいな」って思っていたのに…




逢いたくなかった。





もう、大人にはなれないと分かった私には、逢って欲しくなかったのだ。



神「〇〇…」


その何もかもを悟った智くんの声が、私をまた甘やかせた。


藤「〇〇ちゃん??どないしたん?」


何も返せない私に…


藤「あ!分かった!朝デートだぁ?せやろ?」


☆28☆


藤「…ふふっw デートなワケないか!」


藤井さんは、おどけてみせた。

でもさ…それ……
シャレになんないよぉ……


神「〇〇帰ろ?」


智くんは、藤井さんに「すみません 失礼します」と少し頭を下げて、私の手首を掴んで歩いた。


藤「えっ、チョット〇〇ちゃん?待ってや!お、俺……何か悪いことしたんか?だったら教えてや!」


足は立ち止まっても、振り向く勇気までは無くて…

涙がポロポロと、溢れるばかりで…


〇「もう、いいんです。終わったんです。」


届いたか分からないくらいの声しか出なくて…


神「〇〇には もう…構わんといてもらえますか?」


智くん……



藤「えっ……何でや……」



ボソッと呟いた 藤井さんの最後の声は…




暗くて…





淋しそうだった。



☆29☆


神「俺がさ?朝メシ作ろか?なっ?」


部屋の前まで来ると、智くんがまた私を甘やかせた。


〇「ありがと。でも、すぐ寝るよ。」
神「そっか…ほな、午後な?」
〇「うん。」


バタンっとドアが閉まると、後ろ手で鍵を掛けていた。

恋も…このくらい簡単だとイイのになぁ〜



「何でや…」


藤井さんの言葉が、何度も蘇る。



最後くらい、笑顔で居たかったのに…



胸が苦しくて…



辛くて……辛くて…





私は冷蔵庫を開けて、ありったけの材料を切り刻んだ。


私って、お母さんに似てるんだな…


お母さんも、いつも感情を料理にぶつけていた。

ドラマで主人公がフラれた時も。

お父さんとケンカした時も。

大切な友達が亡くなった時も。




食材を切っている事に集中していると、不思議と和らいでくる感情。


これで終わり。



☆30☆


これで終わり。


新しい恋が…またやってくるよ!

だって、私には若さが付いてるから!



♪ピンポーン♪


神「はい。」
〇「智くん!大変!」
神「なんやッ!」


ドタバタッ!「イッテェ〜」
ガチャッ!!!


神「どないしたんッ!!!」
〇「作りすぎ警報やっ!ww」
神「・・・そんな事やと、薄々思っとったわ……てか、小指ぶつけたやん!」


結局、智くんと朝食を食べた。


神「〇〇?」
〇「ん?」
神「〇〇はさぁ…ええ奥さんになるで?」
〇「え//…そ、そぉかなぁ〜//」
神「家事は完璧やし、明るくて優しい。それにカワエエ!」
〇「へっ?//やめてよ〜可愛くなんて…」
神「幸せになってもらいたいんや!俺は!」
〇「う、うん…ありがとう//」
神「でもな…」


智くんの目が真剣になると、私は少し心細くなった。


神「残念ながら、人には、見合う見合わんがあんねんな…」



プリ小説オーディオドラマ