『café』
☆21☆
葉「あ!私の可愛い可愛い後輩ちゃん♡ため息ついちゃってぇ〜……大丈夫?」
〇「あ〜葉月さ〜ん!失恋ですよぉ〜!悲し過ぎるぅ〜(泣)」
葉月さんは、系列店で働いているの。
私が通ってる大学に行っていたらしくて、それだけで私は可愛がられてるw
そう!私は今日、繁忙期の系列店のヘルプに来てるの!
このお店ね?
すごぉ〜く!大人な店なの!
しゃぶしゃぶって事には変わりないんだけど…
全て完全個室で、お座敷には接待の女の子が付く。
葉月さん達は その接待係で、お客様に晩酌したり、お話のお相手をしたり…
まぁ〜他にも色々と……ね??
てか、私は配膳だけなんだけどね!
お食事運ぶだけだから、特にいつもと変わらないお仕事。
先「あれ?新人さん?」
〇「えっ?いいえ!駅近店舗から、ヘルプで来ました!」
☆22☆
葉「この子、大学の後輩ちゃんなの♡可愛いでしょぉ〜w」
〇「やだぁ// 可愛くなんて//」
接待係の方々は、皆さん大人。
年齢とかじゃなくて…
やっぱり、大人なお客様のお相手をするんだもんね。
艶っぽい人ばかりで…
あぁぁ〜〜〜憧れるぅ〜〜♡
葉「先輩昨日…どうだったんですかぁ〜?ww」
ニヤけながら、そう聞く葉月さん。
ナニナニ?と、私も興味津々で聞き耳です!
先「あ〜あの後、ホテル行っちゃったぁww」
〇「んへぇぇぇ〜〜ッッッ!!!」
あっ!聞き耳バレちゃった!
先「ふふっw あなた いくつぅ?」
〇「は// はい!ハタチです!」
先「ふふっw ホント可愛い♡」
〇「へっ//」
その先輩は、着替えてる手を休め、下着姿で近寄ってきた。
私の頬に触れると、そっと爪を立て、首筋から胸元を艶めかしくなぞった。
ゾクッ!!!
☆23☆
ゾクッ!!!
私の身体が跳ねると、フッw っと微笑み、ゆっくり耳元まで顔を寄せ…
先「ねぇ……?
……バージンでしょぉ?」
〇「っ!!!」
カァーーーーーーッ!!!っと、一気に顔に血が上っていくのが分かる!
先「ふふっw 羨ましいww」
真っ赤な顔で、目を丸くしてる私に、
先「こんな所……早く辞めな?」
と、どこか淋しげに、私の頬をポンポンとしていった。
その妖艶な下着の後ろ姿は…
私の心を よろめかせた。
藤井さんも、こんな美しい人なら…
相手するんだろうな…
自分の幼稚さが、悔しくもあった。
☆24☆
葉「あ〜〇〇?大丈夫かなぁ??」
頭がポーっとしてる私の目の前で、葉月さんの掌がチラつく。
葉「もっしも〜し!」
〇「っ!えっ?」
葉「ふふっw 先輩の言う通りかもね〜」
〇「…どういう意味…ですか?」
葉「私もね?あの大学出てこんなバイトして……親に言えないの。仕事の事。」
親に言えない仕事………か……
葉「でも、抜け出せない。時給は〇〇の3倍近いし、それに……必要とされてる気がして……」
葉「客なんて、私達の事は遊び道具としか考えてないだろうけど……解ってても…辞められないんだぁ〜〜ww」
葉月さんは、笑っていた。
葉「私も最初は配膳だったの。」
〇「えっ?そうだったんですか?」
葉「〇〇には…私みたいに、なって欲しくないなぁ……」
葉月さん達のお仕事が、どういうものなのか、深くは分からない。
でも…
☆25☆
でも…
〇「そんな、淋しい顔で言わないでください!葉月さん達は、カッコいいです!…私なんかよりも……ずっと…ずっと…」
葉「ふふっw 〇〇にモテても、嬉しくないよww」
葉月さんはまた……笑っていた。
笑ってる葉月さんが、悔しかった。
〇「私、憧れてるんです。大人になりたいんです。………子供扱いされて、相手にもしてくれなくて、失恋だなんて……カッコ悪くて……」
葉「〇〇……あのさぁ?〇〇には〇〇の可愛さがあるんだよ?」
〇「でも…可愛いより、大人になりたいんですぅ…」
葉「私達の仲間に入るのが、大人になるって事なら、喜んで受け入れるよ?…でも…この仕事はさぁ……心が蝕まれるよ?」
葉「純粋な〇〇に…味合わせたくない。」
その時 葉月さんは…
笑っていなかった。
私は…
大人には、なれないのか…
モヤモヤしたままだった。
☆26☆
バイトが終わり、始発の電車で皆んな帰って行く。
今日は朝もやで、街が少し霞んでいた。
こんな繁華街でも、それなりに朝は空気が澄んでいる。
なんとなく深呼吸をすると、藤井さんの笑顔を思い出した。
〇「逢いたいな…」
そう呟くと、信号待ちをしていた隣の人が、不審者でも見るような目で、私をチラっとだけ見た。
ただそれだけで、都会の冷たさを味わった気がした。
電車でウトウトしていたせいか、駅に降りてからも、足取りが重かった。
神「〇〇やん!」
〇「智くん!朝からランニング?感心だねぇ〜」
神「昨日二日酔いだった奴が、朝帰り?感心やねぇ〜」
〇「朝帰りじゃないもん!仕事帰りだもん!」
神「はぁ?新しいバイトか?」
〇「…う、うん。そ、そうだよ?何か問題でもある?」
神「朝までのバイトに問題無いとは言えへんよなぁ?」
うッ!やっぱりそうきたか!
☆27☆
神「だって、学校あるやろ?」
〇「今日は午後から!それに、ヤマシイ事なんて、何にもしてないから!」
神「・・・・・」
ジッと見てくる智くん。
バレたのか?
てかウソついてないし!
藤「あれぇ?〇〇ちゃんや〜んww」
自転車の後ろのカゴにまで いっぱいになってるスーパーの袋を乗せた藤井さんが…
なぜか嬉しそうに近づいてきた。
私の顔は、一気に強張り、みるみるうちに、目には涙が溜まっていく。
私の心は…
「逢いたいな」って思っていたのに…
逢いたくなかった。
もう、大人にはなれないと分かった私には、逢って欲しくなかったのだ。
神「〇〇…」
その何もかもを悟った智くんの声が、私をまた甘やかせた。
藤「〇〇ちゃん??どないしたん?」
何も返せない私に…
藤「あ!分かった!朝デートだぁ?せやろ?」
☆28☆
藤「…ふふっw デートなワケないか!」
藤井さんは、おどけてみせた。
でもさ…それ……
シャレになんないよぉ……
神「〇〇帰ろ?」
智くんは、藤井さんに「すみません 失礼します」と少し頭を下げて、私の手首を掴んで歩いた。
藤「えっ、チョット〇〇ちゃん?待ってや!お、俺……何か悪いことしたんか?だったら教えてや!」
足は立ち止まっても、振り向く勇気までは無くて…
涙がポロポロと、溢れるばかりで…
〇「もう、いいんです。終わったんです。」
届いたか分からないくらいの声しか出なくて…
神「〇〇には もう…構わんといてもらえますか?」
智くん……
藤「えっ……何でや……」
ボソッと呟いた 藤井さんの最後の声は…
暗くて…
淋しそうだった。
☆29☆
神「俺がさ?朝メシ作ろか?なっ?」
部屋の前まで来ると、智くんがまた私を甘やかせた。
〇「ありがと。でも、すぐ寝るよ。」
神「そっか…ほな、午後な?」
〇「うん。」
バタンっとドアが閉まると、後ろ手で鍵を掛けていた。
恋も…このくらい簡単だとイイのになぁ〜
「何でや…」
藤井さんの言葉が、何度も蘇る。
最後くらい、笑顔で居たかったのに…
胸が苦しくて…
辛くて……辛くて…
私は冷蔵庫を開けて、ありったけの材料を切り刻んだ。
私って、お母さんに似てるんだな…
お母さんも、いつも感情を料理にぶつけていた。
ドラマで主人公がフラれた時も。
お父さんとケンカした時も。
大切な友達が亡くなった時も。
食材を切っている事に集中していると、不思議と和らいでくる感情。
これで終わり。
☆30☆
これで終わり。
新しい恋が…またやってくるよ!
だって、私には若さが付いてるから!
♪ピンポーン♪
神「はい。」
〇「智くん!大変!」
神「なんやッ!」
ドタバタッ!「イッテェ〜」
ガチャッ!!!
神「どないしたんッ!!!」
〇「作りすぎ警報やっ!ww」
神「・・・そんな事やと、薄々思っとったわ……てか、小指ぶつけたやん!」
結局、智くんと朝食を食べた。
神「〇〇?」
〇「ん?」
神「〇〇はさぁ…ええ奥さんになるで?」
〇「え//…そ、そぉかなぁ〜//」
神「家事は完璧やし、明るくて優しい。それにカワエエ!」
〇「へっ?//やめてよ〜可愛くなんて…」
神「幸せになってもらいたいんや!俺は!」
〇「う、うん…ありがとう//」
神「でもな…」
智くんの目が真剣になると、私は少し心細くなった。
神「残念ながら、人には、見合う見合わんがあんねんな…」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。