『café』
☆51☆
藤「アホかッ!こんな状況じゃ、タクシーも捕まらへんやろッ!!!」
雨音に かき消されないくらいの音量で、怒鳴るように言う藤井さんが、少し怖かった。
きっと私は泣いていた。
ずぶ濡れで、直そうとしていたメイクまでも、落ちて分からなくなっていたほど…
こんな風に、ホテルに連れ込まれるなんて…
しかも、好きな人に。
どうして?
どうして、こんなにも辛い事ばかり?
こんな、色の付いた照明の、
こんな、大きなベッドがひとつだけの部屋で、大金叩いて買った相手と、ふたりきりになっても…
どうせ、私になんて、触れさえもしないくせに!
私はドアの前から動けず、その場にしゃがみ込んだ。
滴っているのが、雨水なのか、涙なのかも分からない。
もう……帰りたいよ……
大好きな人と、ホテルの部屋でふたりきりなのに…
☆52☆
もう……帰りたいよ……
大好きな人と、ホテルの部屋でふたりきりなのに…
「帰りたい」だなんて…
世の中に、そんな事を考える場面が存在するなんて、知らなかった。
やっぱり お子ちゃまだな…私。
パサッ!
私の頭の上に、タオルが覆いかぶさった。
藤「とりあえず、拭け。」
ぶっきらぼうに言う藤井さん。
めんどくさい とか…思ってるんだろうな。
藤「あぁ〜もう何やねん、この雨ぇ!」
藤井さんは、苛立ちながら、ずぶ濡れになってしまったシャツのボタンを外していた。
っ///……エッ!!!
藤井さん脱ぐのぉ??///
被されたタオルの隙間から、覗き見ている私は、ボタンがひとつずつ外されていく事に戸惑いながらも…
目を背けられない…
ドッキンッ♡
ドッキンッ♡
その先の期待に、胸が弾んでいた。
☆53☆
藤「な〜に見てんの?w」
〇「っ// えっ!!!」
釘付けになっていた藤井さんの手元から、パッと顔に目線を上げると…
小悪魔と言うのが ちょうどいい程の…
弱味を握らせてしまった様なニヤつきをしていた。
〇「や、見てませんっ//!!!」
藤「ふふっw ウソつきw」
そう笑うと最後のボタンを外し、パサッと勢いに任せ、濡れたシャツを脱いだ。
やばっ//!!!
すかさずタオルで顔を隠した。
もぉ〜//…見てらんないよ〜〜!!!
ドキドキと、胸が早く打ち、次に自分が何をすればイイのか分からなくて…
私は、そんな自分の焦りを隠したかった。
何の経験もない私の、そんな惨めな焦りを。
〇「あのッ//……私、タクシー呼びますね!…こんなところ、早く出たいでしょうし……このままじゃ、風邪ひいちゃうし……着替えも無いし……夜も遅いし……
☆54☆
〇「こんなところ、早く出たいでしょうし……このままじゃ、風邪ひいちゃうし……着替えも無いし……夜も遅いし……時間のムダだし……ベッドひとつだし……寝れないし……そんなの体に悪いし……ダメだよ……このままじゃ……」
私は、そんな言い訳にならないような事を、ブツブツと唱えながら、ベッドのサイドランプ下にあった電話の受話器を取り、フロントの番号を、指先で確認した。
あった!
フロント……109……
私はなぜか、番号を押さなきゃと必死だった。
なのに…
震える指先が、言う事を聞かない。
視界も滲んで、番号を認識できなくて…
その震える手で涙を拭った。
カチャ……
へっ?
スッと伸びてきた綺麗な指先が、電話のフックを押さえていた。
藤「そんな簡単に…帰すと思ってんの?」
っ!!!
そ、それは…
買われたヤツには…
そんな自由はないって事……?
☆55☆
藤井さんの顔が近くて、とっさに目を背けた。
藤「誤解。」
〇「……えっ??」
再び藤井さんを見てしまい、その上半身が露わなコトに…
私はもう……
びしょ濡れの着物とは反対に、カラカラに乾いた喉が…
ゴクッッッ!!!
と、ツバを飲み込んだ。
キレイ……
その美しさに、ウットリしていた私は…
もしかして……夢の世界?
フワフワとした感覚に包まれていた。
そんな私に ゆっくり近づくと、視界を横切った唇は…
頭を支える手が触れた、一瞬あとに…
フワッと…
優しく包み込むように…
まるで…私の全てを さらうように…
夢なら このまま覚めないで…
☆56☆
“チュッ♡”
っと、部屋中に響いたその音は、私の中でリフレインした。
藤「全部、精算してきたから。」
ポ〜〜っ………
っと熱の上昇を抑えられず…
何を言われてるのかも分からない。
夢なの?
コレって…
なに?
藤「〇〇ちゃんに、見合う男にって…」
〇「……へっ?……見合う??」
藤「言い寄って来てた女の子達に “本気で好きな子が出来たから” って、断ってきたから…」
〇「……ホンキの子??……いるんですか……」
藤「おん。目の前に//…」
〇「……メノマエ??」
私が首をかしげると、
藤「ふふっw そういうトコ…好き♡」
と、今日 2回目の笑顔を見せてくれた。
あ……
この笑顔……好き♡
☆57☆
この笑顔……好き♡
そう思うと、私の目にはまた 涙が溢れ、その笑顔さえもが ボヤけた。
藤「何で泣くね〜んww」
〇「だって……」
藤「…ん?」
〇「だって…ワケわかんないよ……彼女は??…出来たんじゃ無かったの??…」
藤「そんなガセ、どっから入手したん?ww」
〇「…ガセって………んじゃあ、アレは?…コーヒー!」
藤井さんは「あぁ〜アレねww」と笑って、私をベッドに座らせ、隣に藤井さんも座った。
藤「〇〇ちゃんさぁ??気付かんかった??」
〇「何がですか??」
藤「俺、コーヒーに挑戦しとる〇〇ちゃんの事、ずぅっっっっっっっと眺めとったの!」
〇「そ、そんなの……」
言われて見れば……
コーヒーと格闘してる私を、いつも側で、ニコニコしながら見てたっけ…
藤「それにぃ〜w ふふっww」
☆58☆
藤「それにぃ〜w ふふっww」
ひとりでニヤけだした藤井さんは、グーの手で口元を押さえ、笑いが止まらない様子。
〇「もぉ〜!なに笑ってるんですか?」
藤「ふふっw 俺、〇〇ちゃん来たら、お店close にしとったのw」
〇「えっ!!!」
藤「ふたりっきりに なりたかったから…」
〇「……ふたり…きり?」
藤「やって、コーヒー飲んで、ニガッ!言うてる〇〇ちゃん、最高にかわええから…他の奴に見られた無かってん。」
〇「っ!!!な、何言ってるんですかっ/// 」
そう言って、顔を赤らめると、そんな私の顔を覗き込んで…
藤「ホンマかわええなぁ〜♡」
そんな言葉を、わきまえも無しに言う藤井さんは…
絶対 S だッ!!!
藤「ごめんな?」
きゅ、急に……何?
藤井さんの声のトーンが下がると、私は一気に不安になった。
☆59☆
藤「辛かったやろ?」
〇「…う、うん……」
私が答えると、ゆっくりと藤井さんの胸に抱き寄せられた。
藤「これからは絶対、そんな思いにさせへんから。」
ただでさえ、藤井さんの素肌に触れていて、ドキドキしてるのに…
そんな事 言われたら…
再び溢れた私の涙は、藤井さんの膝へと落ちていった。
藤「また泣くぅ〜!まだ肝心な事、言うてへんのに…」
と、私の顔を覗き込んで、涙を拭うと、覗き込んだ そのままの距離で…
藤「俺と、付き合うてくれませんか?」
返事は決まってるのに…
「はい」と言いたくても…
涙を堪えるので、精一杯な私は…
コクンっ!
と、うなずいた。
藤「ふふっw かわええなぁw」
と、嬉しそうに笑った藤井さんは、また私を抱き寄せた。
鼻の奥で、堪えていた涙がツーン!とさせた。
☆60☆
私は、信じられない思いで、胸がいっぱいだった。
あの、藤井さんの彼女になったんだぁ!!!
幸せ過ぎて、ホントわけ分かんないww
〇「あっ!!!」
藤「ん??イキナリどした??」
〇「夢…じゃ……ないですよね…??」
藤「ふはぁっw ……ほな…試してみる?」
〇「えっ?」
私がキョトンとしている隙に、藤井さんは唇を優しく重ねていった。
鼻先が触れ合い…
私の上唇を何度か甘噛みして離れていくと…
はぁぁぁ〜〜〜〜っ……///
もう、私はトロけていて……
流れるように、藤井さんの胸へと吸い込まれていく。
なにぃ??
これぇ??
全然……確かめられない……
夢なの??
藤「〇〇……冷たい。風邪引くで?」
と、私の帯締めに手をかけた。
〇「……えっ…」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。