『café』
☆31☆
神「でもな?…この世の何処かに、〇〇を幸せにしてくれるヤツが、必ず居る!これは、絶対や!!!」
〇「うん…ッ……」
智くんは たくさんのティッシュを取って私に渡した。
神「焦る必要なんて無いんやからな?」
〇「…ッ………うん!…」
智くんは「ヨシヨシええ子や」と、何度もポンポンしてくれた。
聖「どしたッ?めっちゃ腫れてるじゃん!」
午後からの講義で、聖羅に会うなりビックリされた。
あの後、お昼まで寝ちゃったからさぁ…
目が…
〇「あはは〜智くんに泣かされたw」
聖「はぁ?神ちゃんのヤロォ…」
神「よっ!〇〇、ちゃんと来たやん!エライな!」
聖「目、腫れてますけど?」
神「ホンマや〜泣かせてもうたからな〜」
聖「どうして〇〇を泣かすのよ!!!」
神「ぅへぇぇぇっ?なんで聖羅が怒んねん?」
☆32☆
〇「まぁ、まぁ、まぁ……智くんは悪くないんだけどね…」
聖「でも、〇〇を泣かせるのはダメ!」
神「分〜ったよ!どんだけ〇〇が好きやねんww」
聖「〇〇が私を好きなより好きだよ♡」
〇「聖羅〜♡」
神「でもコイツ、新しいバイトの事、隠しとるで?」
聖「へっ?どういう事?」
あぁぁぁ〜〜バレたぁ〜〜!
絶対 反対されるしぃ〜〜!!!
聖「すぐ辞めなさい!!!」
〇「待ってよ?私は配膳してるだけだからぁ〜!やましい事なんて、ホントに無いんだよ?」
神「悪い事は言わん!辞めや!」
〇「なんなん?貴方達ふたりは、私の親でも無いでしょ?!!!」
聖「じゃあさぁ?ウチの親みたいになってもイイの?」
っ!!!
聖「子供に嫌われて……そんな人生になっちゃうよ?」
葉月さんの言葉を思い出した。
「私も配膳だった」
「心が蝕まれる」
「〇〇には味わって欲しくない」
☆33☆
〇「…ならないよ……私は…」
神「…お願いや……なっ?」
またそんな、困り眉……
最強の武器を出すなんて…ズルイ…
〇「…わ〜か〜り〜ま〜し〜たぁ〜……」
あ〜あ。
もうちょっと、葉月さん達の観察したかったのになぁ…
ガックリだよぉ…
翌日。
私は早めに出てバイトへ向かった。
支配人に、辞めると伝える為に。
支「仕方ないわね。分かったわ。大丈夫よ。」
〇「本当に、申し訳ございません。」
支「こういうのは慣れてるのよ。入れ替わりが早い世界だからね。でも…貴方が居なくなるのは、淋しいわね…」
〇「そんな事…」
支「あるわけ無いと思ってる?」
〇「…はい。」
支「ふふっw 貴方に欠けているところは、そういうところだと思うわ!」
〇「…そういう?」
支「いいものたくさん持ってるんだから!もっと自信持って大丈夫よ!」
☆34☆
支配人は、私の両肩にポンッと手を置くと、
支「ステキな女性に なりなさい!」
そう言って 微笑んだ。
その美人の微笑みはステキ過ぎて…
私……頑張らなきゃ……
そう思えた。
葉「〇〇ちゃん辞めるんでしょぉ〜?」
支配人の部屋から出てきた私に、素晴らしい嗅覚を効かせた葉月さん。
〇「ど、どうしてっ!」
葉「顔に書いてある!w」
と、私のホッペをツンツンした。
「まだ時間早いし」と、葉月さんは私を休憩所まで連れ出した。
葉「お選別に奢ってあげる!どれがいい?」
〇「あ、ありがとう…ございます。じゃあ、野菜ジュースで。」
葉「あ〜やっぱりねぇ〜w」
葉月さんはジュースを手渡しながら、ニヤついた。
〇「もぉ〜なんですかぁ〜?」
葉「野菜ジュースで、〇〇の学科思い出した。なんて言ってたっけ?食べ物のところ?」
☆35☆
葉「なんて言ってたっけ?食べ物のところ?」
〇「食べ物ってぇw 食品衛生学科です!」
葉「う〜ん?そんなんだった?覚えらんないやww」
〇「覚える気ゼロじゃないですかぁ〜」
葉「で?資格とかあるんでしょ?試験とか?」
〇「あ〜ありますよ!今年はまだですけど、去年は『野菜ソムリエ』取りました!流行りに乗って!」
葉「へぇ〜!スゴイ!だって、簡単じゃぁないでしょ?」
〇「そうですねぇ〜でも好きな事なら、楽しいですから!」
葉「…ちゃんとあるんじゃん……楽しい未来。〇〇の進むべき道。でしょ?」
〇「…みち……?」
そうだった…
まだ私…
頑張ってる途中だったんだ……
〇「ふふっw あははっ!」
葉「ん?どうした?そんな笑ってww」
〇「だってぇ〜本当だったんですも〜ん!ww」
葉「なにがぁ??」
葉月さんのキョトン顏が、可愛くて…
私は余計に笑った!
☆36☆
〇「ふふっw だって〜『恋は盲目』って!…そんなの、今まで信じられなかったから〜ww」
そう…
恋をしたあの時から…
藤井さんを、駅前の交差点の向こう側で見かけた、あの瞬間から もう…
私は周りが見えなくなっていたんだ。
恋してる場合じゃない!!!
この日 私は、たくさんの何かに、背中を押された。
私の未来に向かって頑張ろう!!!
なのに…
「いらっしゃいませ〜」支配人が迎え出たお客様は、イキナリの雷雨に打たれてしまっていた。
支配人に頼まれ、タオルとドライヤーを持ち、個室へと入った。
〇「失礼致します。本日、配膳をさせて頂きます……」
座敷には、5名の男性。
叔父様が2名と…
望「えっ…〇〇ちゃん?」
望さんと…
一瞬だけ目が合い、その視線を私の方から逸らしてしまった…藤井さん。
☆37☆
重「え?望の知り合いなん?俺、重岡!よろしくな!」
と、強引に握手をしてきた、重岡さん。
そのペースに飲み込まれ、我に帰った!
〇「あ、はい!配膳をさせて頂きます、〇〇と申します!あ、雨、大変でしたね?」
と、タオルを一人ずつに手渡して回った。
最後に、藤井さんにも。
藤「なんで、こんなとこ おんねん?」
小さい声で聞かれた。
そんな、小声で対応しなきゃならない程、私と知り合いってコトを隠したいんだ。
〇「アルバイトに決まってるじゃないですかぁw」
私は、御膳の支度に取り掛かりながら、答えた。
重「なに?流星とも友達なん?ほな、俺とも友達やな?」
重岡さんは、気さくな方みたい。
〇「ふふっw そんな、お友達だなんて滅相も無い〜 いつもは別店舗に居るので、そちらで…ね?」
☆38☆
私が営業的態度で対応すると、既に一件済ませてきた様子の叔父様が、首を突っ込んできた。
叔1「この子は運び屋ちゃん!」
〇「そうですよ?後から お美しいお姉様方が お相手くださいますので〜」
叔2「それにしても、配膳には もったいない器量じゃないか?」
叔1「どれどれぇ〜」
と、私のお尻をペロンっ!っと ひと撫でした。
〇「きゃっ!!!お、お客様〜困りますよ〜オイタさんですね?」
そんな風に言っているが…
心では泣いている私にとって、蜂の群れの襲来 同様だった。
こんな姿、見られたくなかった!
こんな場所で、会いたくなかった!
ずっと、私を見る藤井さんの目が、冷ややかで…
私は…
凍えてしまいそうなくらいだった。
チラッとしか見てないけど、分かる。
私を軽蔑してるんだ。
私だって…
☆39☆
でも、もう終わったんだ。
関係ない。
関係ない。
ただの…
お客様。
そう自分に言い聞かせていると、支配人が挨拶に来た。
支「本日はお足元の悪い中……あらあら〜ホントだ!イケメン揃いですコト!」
この座敷のお客様がイケメンだという噂は瞬く間に広がっていた。
支配人が挨拶してる中、私はお料理を取りに部屋を出た。
今にも崩れ落ちてしまいそうな身体を、なんとか支えのれんを潜ると、厨房で待ち構えていた葉月さんに、声をかけられた。
葉「ねぇ?イケメンなんだって?」
私はコクンっとうなずく事しか出来ず、お盆にお料理をセットし、運び出そうとした。
葉「待って!どうした?」
お盆を握る手を止められ、顔を覗き込まれたが…
私はうつむき、首を横に振る事しか出来ない。
一言でも発してしまったら…
泣いちゃうから…
☆40☆
そこへ、支配人が駆け寄ってきた。
支「〇〇ちゃん?大丈夫だった?お尻触られたって?」
そうだった。
お尻触られたんだ。
そんな事…
どうでもいい…
だって…
逃げ出したくてもできない。
〇「大丈夫です!行ってきます!!!」
ワザと声を張り上げた!
こんな時は…気合いしかな〜いっ!!!
座敷に戻り、ビールを注いで回った。
私は引きつりながらも、笑顔で対応していた。
大人な振る舞いをしなくては!
そんな風に思いながら…
お料理を並べ、忙しなく動いては、また部屋を出て行った。
望「〇〇ちゃん?」
廊下で呼び止められた。
ほんの一瞬。
一瞬だけ、期待した。
藤井さんが、来てくれたのかも!
声の違いで、分かった。
そのくらいの一瞬でも…
私は確実に期待していた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。