第4話

『 café 』31 〜
330
2019/05/23 21:29
『café』

☆31☆


神「でもな?…この世の何処かに、〇〇を幸せにしてくれるヤツが、必ず居る!これは、絶対や!!!」


〇「うん…ッ……」


智くんは たくさんのティッシュを取って私に渡した。


神「焦る必要なんて無いんやからな?」


〇「…ッ………うん!…」



智くんは「ヨシヨシええ子や」と、何度もポンポンしてくれた。








聖「どしたッ?めっちゃ腫れてるじゃん!」


午後からの講義で、聖羅に会うなりビックリされた。

あの後、お昼まで寝ちゃったからさぁ…


目が…


〇「あはは〜智くんに泣かされたw」
聖「はぁ?神ちゃんのヤロォ…」
神「よっ!〇〇、ちゃんと来たやん!エライな!」
聖「目、腫れてますけど?」
神「ホンマや〜泣かせてもうたからな〜」
聖「どうして〇〇を泣かすのよ!!!」
神「ぅへぇぇぇっ?なんで聖羅が怒んねん?」


☆32☆


〇「まぁ、まぁ、まぁ……智くんは悪くないんだけどね…」
聖「でも、〇〇を泣かせるのはダメ!」
神「分〜ったよ!どんだけ〇〇が好きやねんww」
聖「〇〇が私を好きなより好きだよ♡」
〇「聖羅〜♡」
神「でもコイツ、新しいバイトの事、隠しとるで?」
聖「へっ?どういう事?」


あぁぁぁ〜〜バレたぁ〜〜!
絶対 反対されるしぃ〜〜!!!



聖「すぐ辞めなさい!!!」
〇「待ってよ?私は配膳してるだけだからぁ〜!やましい事なんて、ホントに無いんだよ?」
神「悪い事は言わん!辞めや!」
〇「なんなん?貴方達ふたりは、私の親でも無いでしょ?!!!」



聖「じゃあさぁ?ウチの親みたいになってもイイの?」



っ!!!



聖「子供に嫌われて……そんな人生になっちゃうよ?」




葉月さんの言葉を思い出した。

「私も配膳だった」
「心が蝕まれる」
「〇〇には味わって欲しくない」



☆33☆


〇「…ならないよ……私は…」
神「…お願いや……なっ?」


またそんな、困り眉……
最強の武器を出すなんて…ズルイ…


〇「…わ〜か〜り〜ま〜し〜たぁ〜……」



あ〜あ。
もうちょっと、葉月さん達の観察したかったのになぁ…

ガックリだよぉ…







翌日。
私は早めに出てバイトへ向かった。

支配人に、辞めると伝える為に。



支「仕方ないわね。分かったわ。大丈夫よ。」
〇「本当に、申し訳ございません。」
支「こういうのは慣れてるのよ。入れ替わりが早い世界だからね。でも…貴方が居なくなるのは、淋しいわね…」
〇「そんな事…」
支「あるわけ無いと思ってる?」
〇「…はい。」
支「ふふっw 貴方に欠けているところは、そういうところだと思うわ!」
〇「…そういう?」
支「いいものたくさん持ってるんだから!もっと自信持って大丈夫よ!」


☆34☆


支配人は、私の両肩にポンッと手を置くと、


支「ステキな女性に なりなさい!」


そう言って 微笑んだ。

その美人の微笑みはステキ過ぎて…






私……頑張らなきゃ……







そう思えた。









葉「〇〇ちゃん辞めるんでしょぉ〜?」


支配人の部屋から出てきた私に、素晴らしい嗅覚を効かせた葉月さん。


〇「ど、どうしてっ!」
葉「顔に書いてある!w」


と、私のホッペをツンツンした。


「まだ時間早いし」と、葉月さんは私を休憩所まで連れ出した。


葉「お選別に奢ってあげる!どれがいい?」
〇「あ、ありがとう…ございます。じゃあ、野菜ジュースで。」
葉「あ〜やっぱりねぇ〜w」


葉月さんはジュースを手渡しながら、ニヤついた。


〇「もぉ〜なんですかぁ〜?」
葉「野菜ジュースで、〇〇の学科思い出した。なんて言ってたっけ?食べ物のところ?」


☆35☆


葉「なんて言ってたっけ?食べ物のところ?」
〇「食べ物ってぇw 食品衛生学科です!」
葉「う〜ん?そんなんだった?覚えらんないやww」
〇「覚える気ゼロじゃないですかぁ〜」
葉「で?資格とかあるんでしょ?試験とか?」
〇「あ〜ありますよ!今年はまだですけど、去年は『野菜ソムリエ』取りました!流行りに乗って!」
葉「へぇ〜!スゴイ!だって、簡単じゃぁないでしょ?」
〇「そうですねぇ〜でも好きな事なら、楽しいですから!」
葉「…ちゃんとあるんじゃん……楽しい未来。〇〇の進むべき道。でしょ?」
〇「…みち……?」



そうだった…




まだ私…




頑張ってる途中だったんだ……




〇「ふふっw あははっ!」
葉「ん?どうした?そんな笑ってww」
〇「だってぇ〜本当だったんですも〜ん!ww」
葉「なにがぁ??」



葉月さんのキョトン顏が、可愛くて…

私は余計に笑った!


☆36☆


〇「ふふっw だって〜『恋は盲目』って!…そんなの、今まで信じられなかったから〜ww」





そう…
恋をしたあの時から…


藤井さんを、駅前の交差点の向こう側で見かけた、あの瞬間から もう…


私は周りが見えなくなっていたんだ。





恋してる場合じゃない!!!





この日 私は、たくさんの何かに、背中を押された。





私の未来に向かって頑張ろう!!!









なのに…









「いらっしゃいませ〜」支配人が迎え出たお客様は、イキナリの雷雨に打たれてしまっていた。


支配人に頼まれ、タオルとドライヤーを持ち、個室へと入った。


〇「失礼致します。本日、配膳をさせて頂きます……」


座敷には、5名の男性。

叔父様が2名と…


望「えっ…〇〇ちゃん?」

望さんと…


一瞬だけ目が合い、その視線を私の方から逸らしてしまった…藤井さん。


☆37☆


重「え?望の知り合いなん?俺、重岡!よろしくな!」


と、強引に握手をしてきた、重岡さん。


そのペースに飲み込まれ、我に帰った!


〇「あ、はい!配膳をさせて頂きます、〇〇と申します!あ、雨、大変でしたね?」


と、タオルを一人ずつに手渡して回った。


最後に、藤井さんにも。



藤「なんで、こんなとこ おんねん?」


小さい声で聞かれた。


そんな、小声で対応しなきゃならない程、私と知り合いってコトを隠したいんだ。


〇「アルバイトに決まってるじゃないですかぁw」


私は、御膳の支度に取り掛かりながら、答えた。


重「なに?流星とも友達なん?ほな、俺とも友達やな?」


重岡さんは、気さくな方みたい。


〇「ふふっw そんな、お友達だなんて滅相も無い〜 いつもは別店舗に居るので、そちらで…ね?」



☆38☆


私が営業的態度で対応すると、既に一件済ませてきた様子の叔父様が、首を突っ込んできた。


叔1「この子は運び屋ちゃん!」
〇「そうですよ?後から お美しいお姉様方が お相手くださいますので〜」
叔2「それにしても、配膳には もったいない器量じゃないか?」
叔1「どれどれぇ〜」


と、私のお尻をペロンっ!っと ひと撫でした。


〇「きゃっ!!!お、お客様〜困りますよ〜オイタさんですね?」


そんな風に言っているが…


心では泣いている私にとって、蜂の群れの襲来 同様だった。



こんな姿、見られたくなかった!

こんな場所で、会いたくなかった!



ずっと、私を見る藤井さんの目が、冷ややかで…




私は…




凍えてしまいそうなくらいだった。






チラッとしか見てないけど、分かる。





私を軽蔑してるんだ。





私だって…




☆39☆




でも、もう終わったんだ。





関係ない。




関係ない。






ただの…





お客様。




そう自分に言い聞かせていると、支配人が挨拶に来た。


支「本日はお足元の悪い中……あらあら〜ホントだ!イケメン揃いですコト!」


この座敷のお客様がイケメンだという噂は瞬く間に広がっていた。


支配人が挨拶してる中、私はお料理を取りに部屋を出た。


今にも崩れ落ちてしまいそうな身体を、なんとか支えのれんを潜ると、厨房で待ち構えていた葉月さんに、声をかけられた。


葉「ねぇ?イケメンなんだって?」


私はコクンっとうなずく事しか出来ず、お盆にお料理をセットし、運び出そうとした。


葉「待って!どうした?」


お盆を握る手を止められ、顔を覗き込まれたが…


私はうつむき、首を横に振る事しか出来ない。


一言でも発してしまったら…


泣いちゃうから…


☆40☆


そこへ、支配人が駆け寄ってきた。


支「〇〇ちゃん?大丈夫だった?お尻触られたって?」


そうだった。
お尻触られたんだ。


そんな事…


どうでもいい…




だって…





逃げ出したくてもできない。





〇「大丈夫です!行ってきます!!!」



ワザと声を張り上げた!



こんな時は…気合いしかな〜いっ!!!




座敷に戻り、ビールを注いで回った。


私は引きつりながらも、笑顔で対応していた。


大人な振る舞いをしなくては!


そんな風に思いながら…



お料理を並べ、忙しなく動いては、また部屋を出て行った。




望「〇〇ちゃん?」


廊下で呼び止められた。


ほんの一瞬。


一瞬だけ、期待した。


藤井さんが、来てくれたのかも!


声の違いで、分かった。


そのくらいの一瞬でも…


私は確実に期待していた。




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