凪side
咲奈がトイレに行っている間、立つのを諦め空いているベンチを探す。
馬鹿ならない疲労感を隠せず見つけたベンチに座り込んだ。
心に余裕が出来たところで頭の中で今日の出来事を思い返す。
あの後__そう、電車の中での壁ドンのあと。
平静を装い、無事に駅に降り目的地である「ネズミと夢の国」という遊園地に着いたのは1時間前。
電車に入ってきたたくさんの人たちは咲奈の予想通り、遊園地に遊びに来た人たちだった。
でもまあ、それは良いのだ。それについては別に疲れていない。
疲れているのは肉体ではなく精神!
精神的にちょっと………ね?
…………………
しょうがないでしょ!?はじめてなんだもの!壁ドン!
焦っちゃうよ!?
逆に焦らない人、連れてきて欲しいですぅー!!
私は誰にキレているのか分からず脳内で暴れていた。
そんなこんなでやっと落ち着き、ふと思う。
もうかれこれ15分は経っているだろうか。
さすがにここまで遅いと心配になってくる。
すぐ戻ってくるからと言い残してダッシュでトイレに走っていってしまったけれど………
立ち上がって少し歩き出した瞬間、誰かに肩を叩かれ振り返った。
見ると、20代くらいの2人組の男性だった。
声をかけてきたのは真面目そうな誠実な人で、もう1人の方は失礼かもしれないけれど、遊んでそうなチャラそうな人だった。
でも2人には共通点があり、サングラスやマスクなどをしているというのは一緒だった。
いかにも正反対で歪で怪しげな2人組だが凪は快く返事した。
凪の返事に暗い雰囲気を一変させ、嬉しそうな雰囲気を醸し出す真面目そうな男性。
なんだかそれを見ていると、凪まで嬉しくなった。
そんなことを考えていると、隣にいたチャラい男の人が茶々を入れてきた。
突然始まった喧嘩腰に戸惑いつつもなんだか懐かしく思え、苦笑交じり答える。
これは多分、私なりのこだわりだ。
そんなことを考えながら質問する。
カバンから遊園地のマップを取りだし、指をさして言う。
そう言って私の手を取り、ものすごい勢いでブンブンと上下に握手された。
何も言えずに某ジブリキャラのように「あ」とか「う」を繰り返す
そんな中で思う。なんだか懐かしいテンションだなと。
思い出すために記憶を探ってふと、そうではないかと思い当たる人がいた
一か八かの確認で目の前の人に声をかけた。
目の前に飛び込んできたピンク色の物体がチャラ男さんを蹴り飛ばし(ガチ)驚いた私は反射的に手を離した。
そう言いながらピンク色の物体こと、咲奈は私の頬を両手で挟む。
走ってきた疲れをを感じさせない姿に感心しつつ距離が近くて恥ずかしくなる
でもなんだか目は話せなくて咲奈の瞳に吸い込まれるようにして私より少し背が高い彼女を見つめていた
ふと、すぐそこににある咲奈のむくれて膨らんだ頬が可愛く思えて思わず手を伸ばす。
指で押すとぷにっとしていてなんだかたこ焼きみたいだった。
咲奈の声にハッと我に返る。
咲奈はこの時、無自覚の凪の行動の愛しさに身悶えていた
そんな、2人だけの甘い空気が辺りに流れ始めた時遮るかのように声が入った。
無言で歩み寄る咲奈にチャラ男は半べそをかいていた。
はぁ……とため息をつき自分を落ち着けた咲奈は改めて男性2人組に向き合った。
勘違いしているようだったから説明として状況を伝えると
チラリと真面目そうな人を見やってから
理解しているのかしていないのか、よく分からない返事をした。
咲奈は真面目そうな男性に向き合って言った。
挑発するかのように嘲笑う咲奈の態度に疑問しか湧かない凪。
そんな彼女を知ってか知らずか少し苦笑する真面目そうな人こと、藤村 青澄。
2人組を睨みつけてから咲奈は彼女の手を引いて走り始めた。
そんなふたりを見て呆然と立ち尽くすチャラ男。
そして、サングラスやマスクやらを早々と取る親友__青澄に話しかけた。
咲奈side
そんな後悔を始めたのはさっきの出来事から4時間後くらい。
昼食を済ませ、パレードなんかも見てアトラクションもたくさん乗った。
じゃあそろそろ帰ろうかと、最後に乗ったのが観覧車だった。
そう思いながらこれに乗ろうと誘ってきた、目の前に座る当の本人を見る。
凪はさっきからずっと、窓に顔を貼り付けて外を見て
「すごい!」や「きれい!」などの言葉を連呼している。
たぶん、ここに連れてきたのはそこまで深い意味はないのだろう、そう考えていた。
そんな中で、これは絶好のチャンスなのではと思う。
観覧車なんて雰囲気ありまくりなところで告白なんて、女の子の夢では……?と。
今しようかな……告白。
そんな答えの出ないものを永遠と考えているせいで、ずっと難しそうな顔をしていたからか
凪に心配されてしまった……
凪はそっかと言い何故か外を見るのを辞めて私と向き合った。
あたりには微妙な空気が流れる。
言ってしまってはもう遅い。咲奈の心の中は後の祭り状態だった。
もしかしたら、もうずっと前からこう思っていたのかもしれない。
凪side
咲奈からその言葉を聞けた時、本当に嬉しかった
真面目な声で一生懸命な顔で、そう伝えてくれて。
まるでいつかの保健室のように
だから私も同じように答える。
そんな傍から見れば物騒な返事に、咲奈は安心したように呟いた。
そう感極まった彼女に伝えなければと思う。
そう言って手を離した咲奈に言う
そう言って2人顔を見合わせていっせいに吹き出した。
もう全てが可笑しかった。
いつもの私たちで大丈夫。
何を恐れていたんだろうって。
一通り笑ったところで咲奈が私の隣の席に移った。
微妙に揺れるゴンドラの中に甘い空気が立ち込める。
そう言ってぺこりと頭を下げた咲奈の手を取って言う
ゆっくりと顔を上げた咲奈は泣いていて、私もつられて泣いてしまいそうだった。
そうして見つめあった私たちは自然にお互い目を閉じて指を絡めあった
そしてゆっくりと、どちらからともなくキスをした
恋人になって初めてのキスは少ししょっぱい涙の味がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。