第17話

覚悟1
265
2020/06/13 11:25
この日の壱馬はずっと機嫌が悪かった。
腕を組んで、足も組んで机の上だして、ずっと目をつむっていた。
話しかけても『あ?』って言うからそれ以上は話せなかった。
藤原樹
藤原樹
久しぶりにキたな
浦川翔平
浦川翔平
機嫌悪い壱馬は手つけらんねぇ
吉野北人
吉野北人
ほっといた方がいい
トップが口そろえて言った。よっぽど機嫌悪い壱馬は大変らしい。機嫌悪い原因はあたしの寝坊。どうやらあれだけのお叱りでは満足していないらしい。どこまで罪な寝坊なの!!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
なんであそこまで怒っちゃってんの?
吉野北人
吉野北人
頭に血がのぼるくらい心配してたから、愛羅ちゃんが無事でホッとしても収まりきらなくなっちゃってるんだよ
さすがトップ北人。あの人は未知だからって、慎に言われるだけある。なんでもお見通しだ。
浦川翔平
浦川翔平
機嫌直るの待ってた方がいいぜ。あぁなった壱馬はほっとくしかねぇ
そこまで凄い機嫌って……。
ていうか、そこまでダメなこと!?寝坊しただけじゃん! しょうがないよ!
たしかにリード動かしてもらっちゃって申し訳ないけど……。そこまで怒ることなくない?
川村壱馬
川村壱馬
なんだと?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え?
鬼の形相であたしを睨む壱馬にあたしは完全に縮こまった。
川村壱馬
川村壱馬
何様だてめぇ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
ひっ!
川村壱馬
川村壱馬
お前俺がどんだけ心配したと思ってんだ!?ふざけんじゃねぇ!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
ご、ごめんなさぃ
川村壱馬
川村壱馬
一回言ったら分かれや!8時までだっつったろぉが
あああ。墓穴。朝と同じこと言われてる……。
川村壱馬
川村壱馬
だいたいお前、…俺のそばにいるってことがどぉいうことなのか分かっちゃいねぇ。それなりの覚悟がいんだよ!
川村壱馬
川村壱馬
それができねぇなら……俺のそばにいない方がいい
吉野北人
吉野北人
壱馬!
川村壱馬
川村壱馬
北人、お前だってそう思うだろ?
川村壱馬
川村壱馬
いや、お前が1番……
吉野北人
吉野北人
それは……
さっき壱馬を呼んだ声が北人らしくなかった。強くてきつい口調
あたしの知らない『なにか』『らしくない』なにか。
でも、『俺なんか』っていう壱馬らしくない言葉が、あたしには1番辛かった。
あたしが言わせた言葉だと思うと痛かった、凄く。
泣きそうになるくらい―――。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
やだ…そんなこと言わないで……壱馬の傍にいることがどういうことなのか、あたしがわかっているかどうかは―――わからない……でも、選んだのも、望んだのもあたし自身だよ。
壱馬の傍がいいって、決めたのはあたし。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
なにを覚悟すればいいのかなんて、あたしには想像もつかない世界なのかもしれないけど、これから何があっても壱馬が離れろって言うまで、あたしは傍にいたいよ……
だって壱馬はあたしを救ってくれた。ほんのちょっと前にあたしは貴方に出会ったけれど、そのほんのちょっとがあまりにも長く深く感じてて…あたしの人生に壱馬がこれからもいることを照れ臭いけど、願ったりもしたの。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
俺なんかなんて言わないで……っ
川村壱馬
川村壱馬
愛羅…
壱馬は泣き出してしまったあたしをなだめるために立ち上がり、あたしが座る椅子の前にしゃがみこんだ。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
どうしても覚悟がいるなら、なにを覚悟すればいいか教えて欲しい……
川村壱馬
川村壱馬
…あぁ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
そしたら覚悟できる
川村壱馬
川村壱馬
あぁ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
寝坊しないように、頑張るから…
川村壱馬
川村壱馬
あぁ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あと
川村壱馬
川村壱馬
ん?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
今度は…、お家泊まっていい?
川村壱馬
川村壱馬
駄目
…それはどうしても駄目らしい。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
なんか…らしくない、壱馬
川村壱馬
川村壱馬
…うるせぇよ
嫌じゃない『らしくない』。
なんだか優しくてらしくない壱馬。
壱馬はフンッと立ち上がり、また自分の席にドカッと偉そうに座った。

どうやらその日、その時から壱馬の機嫌はなおったらしい。北人がそう言ってた。

たしかに、おとなしく授業を受けてる(ただぼーっとしてるだけみたいだけど)。
それに安心してあたしは気付かなかった。

壱馬の覚悟も、北人の覚悟も。
2人の『らしくない』の本当の意味も――――――。

















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