次の日の朝、あたしの張り切った
という質問に、サラッと樹はそう言った。
期待外れの答えを。
樹が真面目に答えてなんてくれないだろうと思ってた……こともなくて。
彼女の話くらい教えてくれると期待していたあたしがバカだった。。
樹は本気で教えてくれないらしい。必死で聞くあたしに首を傾げるだけで、一向に真面目に言わない。
墓穴だったらしい。
お怒りな壱馬からゆっくり視線を外し、そっとしといてやっぱり本人に聞くことにした。
もうあたしも意地になってきた。
あたしから言い出した以上『分からなかった』『教えてくれなかった』じゃ、許されない。
……。
意味を分かって使っているのか。いや、確実に分かってない。だって間違ってる。
その言葉と同時にダンッ!と激しく椅子から立つ音がした。
もしかして、もしかしなくても、確実に壱馬だ。
必死になりすぎたっっ!!
あたしは、完全にキレそうな壱馬の腕をつかんで、近づいた。
そうだった。別に壱馬に言っても大丈夫なんだった。
朗報かアクシデントか。あたしは美優が樹のことを好きになっちゃったことを、教室から出た廊下の隅で壱馬に伝えた。
なんとも言えない微妙な顔をした壱馬が、困ったように頭をガシガシかいて言った。
朗報かアクシデントか───────全てを知る灰高のヘッドが答えたのは、アクシデントの方だった。
美優が樹を好きになるのはまずいらしい。
壱馬に聞いた話によると、女遊びが激しいらしい樹は、決して遊んだ女の子を''彼女’’にしたことはないらしい。
どんなに冷たい態度でも女の子たちはすぐに樹の虜になるから寝るだけの関係でもいいという女の子が、たくさんいる───────。
ぶっきらぼうで愛想もない。女の子をたぶらかしたりしそうなチャラチャラした風には見えない。
確かにかっこいいし、綺麗な顔をしている。笑ったらなんとなく可愛らしいような感じもある。たしかにモテ顔だ。
壱馬はスタスタと教室に戻って行く。あたしも慌てて後を追うけど、壱馬が急に立ち止まったのでぶつかってしまった。
もういないってわかったのに?
そう思って首を傾げてたら、壱馬はちょっと笑ってため息をつき、説明してくれた。
多分あたしは、壱馬に、浮気されても、確実に気づけないなぁと思った。
壱馬の助言通りにしたら、とくに怪しまれずにその日を終えた。
結局何回聞いても樹は、彼女がいるともいないとも言おうとはしなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!