第3話

『湯浅愛羅。お前の面倒は俺が見る』1
386
2020/02/11 15:18
―――は?

決してこれは口癖ではないんだけど、このときも、あたしはこの言葉を放ってしまったんだ。

確かにあたしは湯浅愛羅です。たしかにそうですよ。

で?あなたはだれ?

そんなあたしの混乱をよそに、その男は超偉そうに言いはなつ。

川村壱馬
川村壱馬
迎えに来た
あたしは返事も出来ないままに、涙が引っ込んだばかりの目で、目の前に同じ年くらいの男を見つめた。


灰色の男――――――。


黒に金のメッシュが混ざった髪は、無造作にセットされている。灰色の学ランは、黒ロンTの上にシャツをおった、さらにその上から簡単に肩にかけられている程度で…
そんなに面倒か、ってツッコミたくなるくらい、ボタンはひとつもとめられていなかった。
背が高いから迫力がある。なのにズボンはめちゃくちゃ腰ではいている。
金のネックレスがやけに目立つ、そんな男。


やたらと命令口調だし。そもそもあんた誰!?……って言いたいけど、泣いた余韻でか、こいつにビビったのか、声が出なかった。あたしを迎えに来たと言いながら、自分の正体を言おうとはしない怪しすぎる男。




――――――灰色の男

固まっているあたしを灰色はジッとみていた。だけど、あたしは反応もできないうえ、未だ何も言えなかった。

そんなあたしにイラッとしたのか、灰色の眉間にはだんだんシワが寄っていく。
川村壱馬
川村壱馬
なんか言えよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
…貴方誰ですか?
やっぱりこの質問しかないでしょう。
なんでこいつがあたしを迎えに来たのか、全く見当がつかない。同じ学校な訳でもないし、見たこともない顔だ。
川村壱馬
川村壱馬
……
あたしの質問は答えることになんの問題も、難しさもないはずなのに、男はなにも答えない上にさらにイラッとした顔をする。
なに?この人知ってる?いや、でも全く知らない。わかんない。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あのぅ…
思わず問いかけたけど、土足のまま男が入ってきたからそれどころじゃなくなって後ずさりした。畳がギシギシとなる音と共に一歩一歩近づいてくる男が、怖くて怖くてたまらなかった。そう言えば…やつが始めに言った『面倒を見る』って言う言葉、今考えると、悪い意味でも取れるんじゃないだろうか?

もしかして、殺しに来たって意味だったのかもしれない!

高校生の格好しているのはあたしを油断させるため?

そんな妄想が頭の中を駆け巡っている間にも一歩一歩近づいてくる。

なにこいつ、本当に怖い!
川村壱馬
川村壱馬
行くぞ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
えっ……
川村壱馬
川村壱馬
早くしろ
行くってどこに!?ここで殺っちゃうじゃないの!?それともこいつはあたしを誘拐しに来た!?なんであたしなんか!お金もないのに!なにもないのに!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
なっ、なんでっ…?
小さくそう言ったのも無視して男に勢いよく
腕を掴まれた。力が強くて振りほどくことも出来ない。妄想なんかじゃなくて、本当にあたしを殺しに来たんじゃ……。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
は、離してっ…
川村壱馬
川村壱馬
黙ってついてくれば何もしない
湯浅愛羅
湯浅愛羅
そう言って何もしない犯人はいないのよ!
川村壱馬
川村壱馬
は?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あたしを殺しに来たんでしょ!?誘拐!?身代金!?
ぎゃあぎゃあと騒いで暴れるあたしの足が男の脛に当たり、男は思わず手を離した。
その隙に部屋の隅まで逃げた。

益々イラッとしている男。


高校生のくせに犯罪者になるっての!?

人生おかしくなっちゃうってわかんないの!?
川村壱馬
川村壱馬
そんなんじゃない
湯浅愛羅
湯浅愛羅
じゃあなにっ…!?貴方誰っ…?
あぁもう、なんであたしがこんな目にあわなきゃいけないの?
おばあちゃんが死んだばかりで、何もかも失ったあたしがどうしてこんな目に遭わなきゃいれないの?

昔から泣き虫のあたしは、引っ込んだはずの涙をまたポロポロとこぼしてしまった。
川村壱馬
川村壱馬
……

プリ小説オーディオドラマ