――――――は?
何を言っているの?
あたしは、あたしが知る限り、というか今まで生きてきたけど…
一人っ子だったし、父親さえいなかった。
母親も早くに死んだし。
父親も死んだって聞いてるし。
だから、あたしは一人ぼっちで―――。
まったく信じていないあたしを見て、男はそばにあった棚の上に置いてある写真立てを持って未だ玄関にいるあたしのところに来た。
思わず後ずさるあたしに差し出したその写真たての写真には、たった1人だけ知っている人がいた。
家族写真の中にいたのはあたしのお父さんだった。
奥さんらしき人と子供たち。
この小さい子供たちの中にこの男がいるんだろうか?
お母さんと離婚したお父さん。再婚してたお父さん。
……とうことは―――?
やっぱりそうなんだ。
だから、あたしは男の妹で、男はあたしの兄。義理だけど、血は一滴も繋がってないけど。
あたしが一人ぼっちになったの知って、迎えに来てくれたんだ。お父さんが、再婚した先の家族。
だけど、あたしを妹だと言ってくれた。
一人ぼっちになったと思ってたのに。
怖かったのに。
怒ってたのに。
意味わかんないのに。
なんで?
誘拐まがいなことされたのに、なんで?
なんであたし、泣きそうなくらい。こんなに嬉しいの?
家族の存在が、幸せな驚きが。
あんなに怖かったのに、あたしは勢いよく首を振っていた。
実際泣いてたから、慌てて袖で顔を拭いた。あたしの頬より長い黒髪が頬をまとわりつく。
男がゆっくりと手を伸ばし、あたしの頬からそっとその髪をどけてくれた。
思わず、ドキッとしてしまう。
高校生の男が不動産屋なわけないし、人に部屋を貸せるほどのものなのか?という疑問があって、素直に喜んで頷けなかった。
嬉しかった。会ったことはないけど、お父さんが選んだ相手の人。男の母親。涙目でお礼を言うあたしに、奴は視線を外しながら
……やっぱり兄妹なのかも。
いや、血は繋がってないのか…。
でも、こんなあたしが考えていることをわかってくれる。
誘拐犯もどきなのに、こんなに悪そうなのに。ボタン閉めないし、口悪いし、声低いのに。
なにもイイカエセナイ。
だって考えてたもの。
すごく失礼なこと。
ビクビクするあたしとは裏腹にやつはケロッとしていた。
言い返せない雰囲気に、あたしはちょっと待ってとも言えず、グングン話が進んでいく。びっくりすることばかりな話が。
どうやら誘拐じゃなかった移動。
初めから説明してくれればよかったのに、と言うと男は話をはぐらかすように話を進めた。
学校のことは1番悩んでいたことだ。実は結構いい学校に行かせてもらってたからお金の面でこれからまた新学期から通うのが難しいと思ってた。
友達に気を使わせるのも嫌で、おばあちゃんが死んでから1度も行ってない。
退学届け、出そうと思ってた。
全てを失ったと思ってた。まだ2年生なのに、一人ぼっちになって全て失ったんだって。
だけど、突然現れた誘拐犯はお兄さんで、部屋を貸してくれて、学校も決めてくれた。
灰色の男、もといお兄様は相変わらずグイグイ話を進める。
なんで8時なんだか聞けないままとにかく頷くしかできなかった。
なんだろう。よく分からないけどあたしはとにかく幸せな気分に満たされてて、すっかり何もかも前向きに考えてた。
気になることとか不安なことはまだ沢山あるのに…。
言いたいだけ言った彼は立ち上がった。
話が終わればとっとと帰るらしい。
あんなに強引に連れてきたくせに、放ったらかしで帰るらしい。
あたしは慌てて玄関に使う男を引き止めた。
これは聞かないと…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。