第29話

親友1
237
2020/03/11 18:25
結局その後3日間…あたしは寝込んだ。
壱馬とあたしがほんとに付き合いだしたことは、あたしが風邪を治して学校に行った日にはもうクラスのみんなも知っていた。

私が大暴れした3日前のことは、誰も何も触れなくて、正直ありがたかった。

付き合うことになって、嬉しかったのに早速風邪だったのでこの3日間、あたひたちは1度も会えてない。
川村壱馬
川村壱馬
どんだけ体弱いんだよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
ちょっと寝込んだだけでしょ〜!?
家に来たがる壱馬に、『うつしたくないから』って言って1度も家に入れなかった。
だからやっと会えた壱馬は、朝からご機嫌ナナメだった。
川村壱馬
川村壱馬
馬鹿は風邪ひかねぇはずなんだけどな
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あたし馬鹿じゃないから!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あ!壱馬が風邪ひかないのは馬鹿だからだ
川村壱馬
川村壱馬
ひくけど寝込まねぇし
湯浅愛羅
湯浅愛羅
それひいてないし!
相変わらずあたしたちは言い合いばかりしていた。お互いムキになって、LOVEな空気はまるでゼロ。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
もっと優しい言葉かけらんないの〜?
川村壱馬
川村壱馬
優しい言葉ってなんだよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
『やっと会えた、心配したんだぜ』とか、『寂しかった』とかでしょ
あたしがそう言うと壱馬は黙ってしまった。
絶対馬鹿だこいつって思ってるに違いない。笑ってるのか確認しようと思って、覗き込んだら、ガシッと腕を掴まれた。
川村壱馬
川村壱馬
寂しかった
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え…!?
川村壱馬
川村壱馬
やっと会えた…心配かけさせんなよ
甘く低い、壱馬の響く声。背中に腕をまわされて抱き寄せられたまま呟かれ、あたしは失神寸前だった。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
や、…やっぱだめ……
川村壱馬
川村壱馬
なんでだよ?  言われた通りにしただろうが
絶対確信犯だ。そんなこと言いながらあたしが恥ずかしがってんの分かってて言ったんだ!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
は、離して?
川村壱馬
川村壱馬
湯浅愛羅
湯浅愛羅
なんで…っ?
川村壱馬
川村壱馬
離したくねぇから
クラスのみんながいる教室で、恥ずかしくないのか!?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あたしは離して欲しいの
川村壱馬
川村壱馬
なんで?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
恥ずかしいから……
未だあたしは掴まれたままで。なんとなくクラスのみんなの視線を感じる。今まてま硬派だった(らしい)ヘッドの恋愛がそんなに面白いか、ってくらい見てる。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
お願い、離して?
あたしがそうお願いすると、ため息ついてやっと離してくれた。そしてちらっとあたしを見てボソボソ話した。
川村壱馬
川村壱馬
お前確信犯だろ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
確信犯は壱馬でしょ
どうやら結構LOVEな雰囲気もあるらしいあたしたち。樹と翔平に、『2人の時にしろよ』って恥ずかしそうに忠告された壱馬は『は? 
嫌 』とバッサリ断っていた。
風邪は完治したものの、咳のしすぎで喉はまだチリチリ痛かった。たまに授業中とかにコホッって咳をしたら壱馬がびっくりしてあたしを見る。コホッコホッって2回続けば、トップのみんなも見てきて、2回以上続けばクラスみんながあたしに注目し、壱馬が代表になって『大丈夫か?』と聞いてくる。あたしはいつも大丈夫と答えるけど、心配気な様子のみんな。どうも落ち着かなかった。ストレスから咳がでてたから、それを心配してくれる気持ちは嬉しいけど……。

咳ができない!!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あの、さ
川村壱馬
川村壱馬
ぁ?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
咳、するけど大丈夫だからね
ランチも食べ終えて屋上から戻った昼休み、あたしはそう言って、やっかいな喉のモヤモヤをなくすために数回咳をした。
宣言したから大丈夫、と調子にのりすぎて何回もしてたら……
大丈夫じゃないだろっと怒られた……。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
大丈夫なんだけど……
川村壱馬
川村壱馬
大丈夫じゃねぇくらいしてんだろ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
イガイガするから…
川村壱馬
川村壱馬
それが心配なんだろうが
なんで怒られてんのか全くわかんないけど、とりあえず頷いておいた。咳をするのは、やっぱり辞めよう。
……いや、ほどほどにしよう。
あたしがそう決意を固めたてき、

窓の外のグラウンドで何やら騒いでるのに気づく。
壱馬は立ち上がろうとせず、代わりののうにリードの数人が窓にはりついて外を見る。
リード
リード
うちの奴らです
リード
リード
校門の方に集まってます
騒いでいたのはどうやら灰高の面々らしい。とりあえず喧嘩とかじゃなくてほっとした。壱馬はリードの1人を見やり、目が合うと顎で外を指す。『見てこい』ということなのだと思う。彼は『ハイ!』と野球部のような返事をして教室から出ていった。あたしもなんとなく気になって立ち上がった。

窓から見下ろしたグラウンドには次々灰高のみんなが集まっていくみたい。
なんかある? いや、なんかいる?

灰色の中に、ポツンと白が見えた。純白に水色のラインのセーラーに白のスカート。真っ黒なウェーブがかった髪。……確実に見覚えがあった。


ガタタッ


あまりにも急いで教室を出たから、机と椅子にぶつかりまくった。
壱馬が後ろで何か言ってる、多分『どうした』か『愛羅』か『おい』あたりだ思う。
だけどあたしはどれも聞こえずに、ただ走り抜けてグラウンドに出た。
灰色をかきわけて、あたしは純白に向かう。あたしに気づいた人は、驚いて道をあけて…灰色の中の純白に、あたしはたどり着いた────────。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
美優……
''みゆう’’
大きな黒の目であたしをとらえ、涙を浮かべて近づいてきた。
美優
美優
愛羅っ…!
美優はあたしに抱きついてきた。あたしも涙にさそわれて、壱馬とトップのみんなが走ってくるまで抱きあっていた。灰色のあたしと純白の美優。
パッと離れた美優があたしを上から下まで見る。あたしが着ている灰色のセーラー服に、美優が口を開いた。
美優
美優
なんで?  なんで灰高なんかにいるの?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
っ…
美優
美優
どうして何も言ってくれなかったの!?
美優
美優
急に姿消してっ…!  ねぇ!  愛羅!!
なにも、言い返せなかった。泣きながらあたしにしがみつく美優は、相変わらず可愛い、あたしの、親友だった──────
泣き叫ぶ美優をなだめるあたしに、後ろから聞こえた声はちょっと遠慮がちな壱馬だった。
川村壱馬
川村壱馬
愛羅、ここはちょっと危ねぇ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え?
川村壱馬
川村壱馬
いれてやれ
8時以降の灰高は危険。グラウンドにはあまりいるべきじゃないのは学んだから、あたしも頷いた。あからさまに悪いオーラの校舎に入るなんて美優は拒むと思ったけど、すんなり頷いた。
あたしに、会いに来てくれた美優。うちのクラスに招き入れて話をすることにしたけど、他校の、しかも女の子を校内に入れるのは壱馬が許してくれたからだ。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
美優…?
美優
美優
ぅん……
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あたし、灰高の生徒なの
あたしは俯いたまま黙って聞いている美優に、全部話すのとにした。壱馬に救われたこと、壱馬とあたしの関係、今壱馬のアパートに住んでいること、灰高のこと。分かりやすく丁寧に、俯く美優に話した。あたしがほとんど話終える頃まで美優は何も言わない。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
たしかに、灰高は男子校だし…喧嘩とか、あるみたいだけど…でも─────…大丈夫だから。だか、心配しなi
美優
美優
どうして?
急に美優が顔を上げて、あたしの目を見て言う。今まで何も言わなかったのは最後まで聞こうと思ったんだと思う。
美優
美優
どうして大丈夫って言いきれるの!?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あのね…
美優
美優
1人で…こんな所で、大丈夫なわけないじゃん!
湯浅愛羅
湯浅愛羅
美優
あたしが話そうとしても美優は止まんない。口をはさもうとしても泣いている美優を見るとどうしても無理で、美優はずっとあたしに言う。
美優
美優
無理だよ、こんなの!  あたし愛羅を置いてなんか行けない!  だってa
川村壱馬
川村壱馬
俺が守るからだ
ずっと黙っていた壱馬が口を開く。低くて響く壱馬の声だけど、決して怖くない優しい声だった。
川村壱馬
川村壱馬
愛羅が大丈夫なのは俺が守るからだ
川村壱馬
川村壱馬
心配いらない。死んでも守る
──────────''死んでほしくはないよ’’
こんなときにでもそう思ったあたしは、よっぽど壱馬の傍にいたいみたい。自分自身驚くくらい、壱馬を必要としている。

美優は壱馬の言葉を聞いてから、また話さなくなった。あたしは、しばしの沈黙を破る。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
美優…、ごめんね。─────でも、あたしは壱馬と生きていくって決めたの
美優はあたしを見て、どこか諦めたように脱力した。あたしは立ち上がって美優を抱きしめる──────。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
今までのあたしは…、我慢したり、とにかく人の言うこと聞いて…って、そういう生き方をしてきた。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
だけど、これからは自分のしたいように生きていく…。…壱馬の傍にいたい。美優の、親友でいたい
驚いている美優を、あたしはそっと離した。美優の前から黙っていなくなったあたしが、親友でいたいなんて驚くに決まってる。でも、
湯浅愛羅
湯浅愛羅
おばあちゃんが死んで、何もかもなくなったあたしを、もちろん美優は心配して、どうにかしようとしてくれたよね。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
だけど、どうしても美優に迷惑をかけたくなかった。何もかもしてもらったら、多分今までのようにはいかなくなる
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あたしはどこか遠慮して、今までの親友ではいれない…。それが嫌だったの。だからそっとしておいてって言った……
その間に姿を消したから心配して美優はこんなとこまで……
湯浅愛羅
湯浅愛羅
ちゃんと言えば良かったよね、ごめん。でも絶対反対すると思ったから……
謝るあたしに美優は、しばらく何も言わなくて、顔を上げたあたしに美優は見事なデコピンをくらわしてきた。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
いったい!
美優
美優
馬鹿愛羅!
あたしがおでこを押さえて驚いていると、美優はケラケラ笑っていた。
美優
美優
壱馬くんがいたら、大丈夫かな
川村壱馬
川村壱馬
あ?
急に話をふられ、壱馬がいつものように『ん?』と同じ意味の『あ?』を言う。それはもちろん一般的に言って''怖い’’印象なもので、美優も例外なく固まった。
美優
美優
……やっぱ心配かも。怖いし
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え!?
美優
美優
あはっ冗談冗談
美優は楽しそうに笑っていた。
中学の時からずっと一緒で、おばあちゃんを亡くした時もずっとあたしの傍を離れなかった美優を、遠ざけたのはあたしだった。物凄く覚悟がいた。二度と美優に会えない覚悟をした。初めて会う義理の兄である壱馬を、美優より信じたってわけじゃない。どうしても美優に全部助けてもらうわけにはいかなくて…。だからって壱馬ならいいってわけじゃないけど、でも初めから分かっていたのかもしれない……。
壱馬とあたしがどこか繋がっているってこと。義理兄妹であることだけじゃなく、運命みたいな何かを。

壱馬が救ってくれたから、迎えに来てくれたから、だからこそもう一度、美優の笑顔を見ることができた。美優と昔から変わらない、''親友’’でい続けることができた────。

















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