第12話

朝礼
274
2020/06/05 16:26
重そうな扉を彼らが開けてくれた。
その間を壱馬が入り、あたしはぴったりついていった。
中に壱馬が入った途端、いや、扉が開いた時にはもう中にいた生徒たちはシンとしていた。
もはや、あたしを囲んでいた奴らがどれか…
喋った奴がどれかなんでわかんない……。
あたしは1000人以上いる生徒たちから一身に『なんだこいつ』って視線を受けた。
浦川翔平
浦川翔平
…なんて説明するんだ?
川村壱馬
川村壱馬
…妹とは言わない
浦川翔平
浦川翔平
なんでだよ
川村壱馬
川村壱馬
…言いたくねぇ
浦川翔平
浦川翔平
なるほどな。じゃあなんて…
川村壱馬
川村壱馬
黙ってろ
物凄く小声で翔平に耳打ちするのが聞こえた。
最後の黙ってろ、しかちゃんと聞こえなかったけど……。
川村壱馬
川村壱馬
舞台上がれ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
へ?
川村壱馬
川村壱馬
先上がれ
気が付けば舞台の傍まで来てて、階段を目の前にさっきまで一番前を堂々と歩いていた男があたしを先に行かせようとしてる。やっぱりそれはおかしい事なんだ。
だってちょっと生徒たちがザワザワしてる。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え、なんで?
川村壱馬
川村壱馬
いいから早くしろよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
はいっ!
あたしは慌てて上がろうとすると、江城から頭を叩かれた。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
痛っ!なに!?
川村壱馬
川村壱馬
勢いよく上がんなパンツ見える
湯浅愛羅
湯浅愛羅
なっ!?
川村壱馬
川村壱馬
いちいち騒ぐな、上がれ
むかつくっ!!
だけどとりあえず急いで、(パンツは見えないように気をつけて)舞台に上がった。

その後に壱馬が上がり、トップのみんなも順に舞台に上がった。

舞台のど真ん中にスピーチ台みたいなのがあって、マイクもほかの校舎とか同様結構荒れてるけど、舞台だけは綺麗な気がした。

そしてスピーチ台の背後の壁に灰色の布に灰高と黒字で書かれた旗がどでかく張られていた。

壱馬はスピーチ台の上に立つとマイクで話し出した。
川村壱馬
川村壱馬
朝礼を始める
                             ''はい!!''
ビックリするくらい、みんながみんな返事をした。

ヘッドってすげぇ〜って感心しているうちに壱馬はまた話し始める。
川村壱馬
川村壱馬
集まったのは他でもない。お前らみんな気になってる話だ。愛羅、来い
湯浅愛羅
湯浅愛羅
は、…はい
は!?って言いかけたけど後ろから翔平に小突かれて返事に変えた。

呼ばれた通りスピーチ台に近づくとふいに壱馬に、グワッと強引に肩を抱かれた。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
へ!?
川村壱馬
川村壱馬
今朝校庭にいた、こいつ。
川村壱馬
川村壱馬
名前は、湯浅愛羅。俺の女だ
―――――――――はあぁあああ!?!
びっくりしすぎて声も出なかった。

あたしは妹じゃなかったんですか!?昨日初対面で、なんで!?

いつあんたの女になったんですか!?

あたしの混乱と同じくらい、舞台下の生徒たちも混乱していた。
ヤンキー
ヤンキー
やっぱり
ヤンキー
ヤンキー
灰高に女子いれるなんてただ事じゃねぇと思ってたんだ
ヤンキー
ヤンキー
壱馬さんの女なら納得だな
ヤンキー
ヤンキー
ヘッドの女!?
ヤンキー
ヤンキー
やべぇ、今朝喧嘩売っちまった
ヤンキー
ヤンキー
俺もだ
ヤンキー
ヤンキー
だから触んな、って言ったんだ
ヤンキー
ヤンキー
壱馬さん怒ってんじゃね
ヤンキー
ヤンキー
やべぇ……
ヤンキー
ヤンキー
ヘッドの女になって、灰高入るとか、何者だ…?
ヤンキー
ヤンキー
硬派な壱馬さん落とした時点ですげぇ
ヤンキー
ヤンキー
ただもんじゃねぇ
混乱でザワザワする会話は予想通りだった奴等と、今朝のことで焦る奴等と、あたしを何者なんだと不思議がる声、の3つに分かれてるっぽい。
川村壱馬
川村壱馬
つぅわけで、こいつも今日から灰高の一員だ。文句ある奴ァ出てこい
シンとする体育館。
どうやら文句はないらしい。
いや、言えないだけかもしんない。
そんなことより問題は、あたしは壱馬の女になった覚えはない!ってことだ!!!
川村壱馬
川村壱馬
俺もごめんだ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
へ?
朝礼はあれでスパッと終わり、とっとと教室に帰ってきてさっきの文句を言ってやったらうんざりした顔で言われた。
川村壱馬
川村壱馬
お前が俺の女だって絶対嫌
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え、だって、壱馬あんた朝礼で
川村壱馬
川村壱馬
嘘に決まってんだろうが
湯浅愛羅
湯浅愛羅
は!?嘘!?
川村壱馬
川村壱馬
お前がいつ俺の女になったんだよ。冗談じゃねぇよ
こっちのセリフだ―――ッ!!!
やっぱりこいつムカつく……。
しばきたい!

『じゃあなんで嘘ついたのよ!』
と騒ぐあたしをうっとうしそうにあしらった。
川村壱馬
川村壱馬
義理の妹だなんだって言うより手っ取り早いんだよ。奴らも納得したろ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
そりゃ、そうかもしんないけどさ!!
ちょっと肩抱かれてドキドキして、俺の女だ発言に心臓飛び出そうになった…あたしの乙女心を返せ!
川村壱馬
川村壱馬
お前何ムキになってんだ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
なってないよ!
川村壱馬
川村壱馬
なってんだろうが
湯浅愛羅
湯浅愛羅
なってない!!
あんなにあたしの気持ちが分かるわけないし!
てゆうか言えるわけないし!
川村壱馬
川村壱馬
うぜー
湯浅愛羅
湯浅愛羅
うざくて結構!!
フンッ
あたしは壱馬に背を向けた。
ってゆうか椅子引きずりながら右端に寄った。椅子があった場所に戻すかたちで。

そして壱馬に背を向けて机に向かった。
川村壱馬
川村壱馬
なんだあいつ
吉野北人
吉野北人
ははっ壱馬が悪いよー
川村壱馬
川村壱馬
意味わかんねぇ……
吉野北人
吉野北人
それにしてもさ。いいの?
川村壱馬
川村壱馬
何が
吉野北人
吉野北人
巻き込んだんだよあの子を
川村壱馬
川村壱馬
……分かってる
吉野北人
吉野北人
灰高内で彼女を守るために女だって言ったのは正解だと思う。でも、…灰高外の奴等からは、どうやって守るつもり?関わらせちまったんだぞ。壱馬、お前の敵は愛羅の敵ってことだ
川村壱馬
川村壱馬
あぁ……それでも、あいつは俺が守る
ふて寝してたあたしには、北人と壱馬のそんな会話なんて全然聞こえていなかった。

そして灰高の一員になったってことがどうゆうことなのか…まだよく分かっていなかった。

プリ小説オーディオドラマ