重そうな扉を彼らが開けてくれた。
その間を壱馬が入り、あたしはぴったりついていった。
中に壱馬が入った途端、いや、扉が開いた時にはもう中にいた生徒たちはシンとしていた。
もはや、あたしを囲んでいた奴らがどれか…
喋った奴がどれかなんでわかんない……。
あたしは1000人以上いる生徒たちから一身に『なんだこいつ』って視線を受けた。
物凄く小声で翔平に耳打ちするのが聞こえた。
最後の黙ってろ、しかちゃんと聞こえなかったけど……。
気が付けば舞台の傍まで来てて、階段を目の前にさっきまで一番前を堂々と歩いていた男があたしを先に行かせようとしてる。やっぱりそれはおかしい事なんだ。
だってちょっと生徒たちがザワザワしてる。
あたしは慌てて上がろうとすると、江城から頭を叩かれた。
むかつくっ!!
だけどとりあえず急いで、(パンツは見えないように気をつけて)舞台に上がった。
その後に壱馬が上がり、トップのみんなも順に舞台に上がった。
舞台のど真ん中にスピーチ台みたいなのがあって、マイクもほかの校舎とか同様結構荒れてるけど、舞台だけは綺麗な気がした。
そしてスピーチ台の背後の壁に灰色の布に灰高と黒字で書かれた旗がどでかく張られていた。
壱馬はスピーチ台の上に立つとマイクで話し出した。
''はい!!''
ビックリするくらい、みんながみんな返事をした。
ヘッドってすげぇ〜って感心しているうちに壱馬はまた話し始める。
は!?って言いかけたけど後ろから翔平に小突かれて返事に変えた。
呼ばれた通りスピーチ台に近づくとふいに壱馬に、グワッと強引に肩を抱かれた。
―――――――――はあぁあああ!?!
びっくりしすぎて声も出なかった。
あたしは妹じゃなかったんですか!?昨日初対面で、なんで!?
いつあんたの女になったんですか!?
あたしの混乱と同じくらい、舞台下の生徒たちも混乱していた。
混乱でザワザワする会話は予想通りだった奴等と、今朝のことで焦る奴等と、あたしを何者なんだと不思議がる声、の3つに分かれてるっぽい。
シンとする体育館。
どうやら文句はないらしい。
いや、言えないだけかもしんない。
そんなことより問題は、あたしは壱馬の女になった覚えはない!ってことだ!!!
朝礼はあれでスパッと終わり、とっとと教室に帰ってきてさっきの文句を言ってやったらうんざりした顔で言われた。
こっちのセリフだ―――ッ!!!
やっぱりこいつムカつく……。
しばきたい!
『じゃあなんで嘘ついたのよ!』
と騒ぐあたしをうっとうしそうにあしらった。
ちょっと肩抱かれてドキドキして、俺の女だ発言に心臓飛び出そうになった…あたしの乙女心を返せ!
あんなにあたしの気持ちが分かるわけないし!
てゆうか言えるわけないし!
フンッ
あたしは壱馬に背を向けた。
ってゆうか椅子引きずりながら右端に寄った。椅子があった場所に戻すかたちで。
そして壱馬に背を向けて机に向かった。
ふて寝してたあたしには、北人と壱馬のそんな会話なんて全然聞こえていなかった。
そして灰高の一員になったってことがどうゆうことなのか…まだよく分かっていなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!