小さなふぅん、が聞こえたあとまた壱馬は黙ってしまった。
また考え事なのか……それとも。
北人に視線を送って問いかけてみたものの、微妙な顔で首を傾げるだけ。
幼なじみ様にも分からない、この沈黙の意味。あたしは分かるどころか、ただビビってるだけだった。
どうやら、我慢しようとしてくれていたらしい。あたしにとって壱馬にされる束縛が嫌なわけないのに。
聞きづらそうに聞いてくるところを見ると、知りたいようで知りたくないという壱馬の気持ちがわかってしまった。
あたしのファーストキスは誰がなんと言おうと壱馬なんだ。あたしは、壱馬にキスしてもらったとき、そう決めた。
にっこり言うあたしを壱馬は驚いたようにじっと見て、フッと笑った。
あたしがあたしから顔を背けた壱馬を覗きみようとすると、むぎゅって両頬をつままれた。
そして一言
そう言った壱馬の顔は真っ赤だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!