いやいやまさか。机の上にちょこんと置かれたお弁当にあたしは硬直した。
このピンクのバンダナで包まれてるコレは、もしかして渡してくれた壱馬が―――!?!?
え―――。
あたしにお弁当? 壱馬のお母さん手作りの―――?
あたしの質問を無視して行っちゃう壱馬のかわりに、にっこり笑った北人が言う。俺たちしか行けないとこ?
そこは屋上だった。汚い校舎のわりに屋上は綺麗だ。まるで体育館の舞台みたいに。
ヘッドとトップ。この4人しか足をつけないから、綺麗なまま。あたしの驚きの発見にケロッと言う。
あたしも疑問に思ってた。
1番前を歩き続けてた壱馬があたしを先に上がらせたのはなんでだろうって。
3人があたしを見た。
壱馬をチラッとみたら照れているのか、フンッと視線を外された。
だけど、口角が少し上がっている。
屋上での昼食。あたしを、俺たちのテリトリーに入れてあげるよ、仲間だよ、って、教えてくれるためだったんだ。
お弁当を開けたら、ふりかけのかかったご飯、卵焼き、ソーセージ、プチトマト。他にも沢山おかずがあって、すごく懐かしかった―――。
お母さんも、おばあちゃんも死んじゃってあたしのために作ってくれた誰かのご飯なんてもう食べれないって思ってた。
平気なフリしてたし、もう泣かないって決めてたし(壱馬の登場に涙引っ込んだし)、だからこれから1人で、
一人で頑張っていこうって―――
壱馬の声にハッとした。
ポロポロと頬に流れてるのは涙。
手で拭いてみても間に合わない…。
ふいに、壱馬が抱きしめてくれた。
びっくりすると同時にブワッて涙があふれる。
後頭部にあたる壱馬の手のひらが少しだけぎこちなくあたしを撫でる
一生って言葉は深くて、重くて、だけど温かかった。お母さんはいない。おばあちゃんも、もういない。
あたしは1人だけど、1人じゃない
壱馬が助けてくれたあたしの人生。壱馬は誘拐犯もどきだったし誰だかわかんなかったし。兄妹ってまじかよって思ったけど、
それでも、
あたしにはその出会いこそ、――――――――いとおしかった。
泣きじゃくるあたしの背中をぎこちなく、優しく撫でる壱馬が愛らしくて、たまらなかった。
それが恋だとは、毛頭思っていなかった、このときは。
お弁当美味しかった!死ぬほど美味しかった!
って教室に戻ってきてからもあたしがあまりに騒ぐから、壱馬は最初は返事してくれてたけど最後にはめちゃめちゃ鬱陶しそうになって、相手にしてくれなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。