第13話

特別1
258
2020/02/19 09:35
川村壱馬
川村壱馬
ほら、弁当
いやいやまさか。机の上にちょこんと置かれたお弁当にあたしは硬直した。
このピンクのバンダナで包まれてるコレは、もしかして渡してくれた壱馬が―――!?!?
川村壱馬
川村壱馬
馬鹿が。俺が作るわけねぇだろ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あ、れ。じゃあ?
え―――。
川村壱馬
川村壱馬
昼はお袋の弁当だ。毎日
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あた、あたしにも……?
川村壱馬
川村壱馬
あぁ
あたしにお弁当?  壱馬のお母さん手作りの―――?
川村壱馬
川村壱馬
なにポーッとしてんだよ、行くぞ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え、どこに?
川村壱馬
川村壱馬
俺たちしか行けないとこ
あたしの質問を無視して行っちゃう壱馬のかわりに、にっこり笑った北人が言う。俺たちしか行けないとこ?

そこは屋上だった。汚い校舎のわりに屋上は綺麗だ。まるで体育館の舞台みたいに。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
藤原樹
藤原樹
どうした?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
体育館も、舞台も、みんなしか上がれないの?
ヘッドとトップ。この4人しか足をつけないから、綺麗なまま。あたしの驚きの発見にケロッと言う。
藤原樹
藤原樹
あぁ。当たり前だ
浦川翔平
浦川翔平
壱馬が舞台にお前を先に乗せたろ?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
う、うん
あたしも疑問に思ってた。
1番前を歩き続けてた壱馬があたしを先に上がらせたのはなんでだろうって。
藤原樹
藤原樹
『こいつは仲間だ』って1番わかりやすく、下の奴等にわからせるためなんだ
浦川翔平
浦川翔平
ヘッドよりトップより、最優先に守れって。分かりやすい命令なんだ
吉野北人
吉野北人
灰高の全員、愛羅ちゃんの味方だよ
3人があたしを見た。
壱馬をチラッとみたら照れているのか、フンッと視線を外された。
だけど、口角が少し上がっている。

屋上での昼食。あたしを、俺たちのテリトリーに入れてあげるよ、仲間だよ、って、教えてくれるためだったんだ。

お弁当を開けたら、ふりかけのかかったご飯、卵焼き、ソーセージ、プチトマト。他にも沢山おかずがあって、すごく懐かしかった―――。




お母さんも、おばあちゃんも死んじゃってあたしのために作ってくれた誰かのご飯なんてもう食べれないって思ってた。

平気なフリしてたし、もう泣かないって決めてたし(壱馬の登場に涙引っ込んだし)、だからこれから1人で、

一人で頑張っていこうって―――
川村壱馬
川村壱馬
愛羅…
壱馬の声にハッとした。
ポロポロと頬に流れてるのは涙。
手で拭いてみても間に合わない…。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
壱馬、…あたしっ…ひとりじゃ……なかった……
川村壱馬
川村壱馬
あぁ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
嬉し、かった―――壱馬が、守っ、てくれるって……言ってくれたから
川村壱馬
川村壱馬
あぁ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
おばあちゃん、死んじゃったんだょ……
川村壱馬
川村壱馬
……
湯浅愛羅
湯浅愛羅
寂しいよ、寂しい……あたし、一人ッ…
川村壱馬
川村壱馬
1人じゃねぇ
ふいに、壱馬が抱きしめてくれた。
びっくりすると同時にブワッて涙があふれる。
後頭部にあたる壱馬の手のひらが少しだけぎこちなくあたしを撫でる
川村壱馬
川村壱馬
泣くのが慢心してんじゃねぇよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
ぅん
川村壱馬
川村壱馬
お前はもうひとりじゃねぇ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
っ……うん
川村壱馬
川村壱馬
お前は俺が一生守ってやる
一生って言葉は深くて、重くて、だけど温かかった。お母さんはいない。おばあちゃんも、もういない。
あたしは1人だけど、1人じゃない
壱馬が助けてくれたあたしの人生。壱馬は誘拐犯もどきだったし誰だかわかんなかったし。兄妹ってまじかよって思ったけど、
それでも、
あたしにはその出会いこそ、――――――――いとおしかった。

泣きじゃくるあたしの背中をぎこちなく、優しく撫でる壱馬が愛らしくて、たまらなかった。

それが恋だとは、毛頭思っていなかった、このときは。
お弁当美味しかった!死ぬほど美味しかった!
って教室に戻ってきてからもあたしがあまりに騒ぐから、壱馬は最初は返事してくれてたけど最後にはめちゃめちゃ鬱陶しそうになって、相手にしてくれなかった。























プリ小説オーディオドラマ