どこだか分からない所まで来てしまった。迷ったというよりは、辿り着いたこの場所を知らないだけ。迷うって言うのは辿り着く場所を知ってるから、辿り着くべき場所があるからそうなるんだ。あたしにはそんなものなかった─────。
咳は一向に止まらないどころか、ますます酷くなっていくばかり。本当は言いたい言葉が、きっと喉にささっているんだ。だけど言えないから、喉にささったままなんだ。だからこんなにも痛い──────。
気にならないフリは、やっぱりフリでしか無かった。あたしは選択を間違えたんだ。
あの時家にいたのが悪かった。家にいなければ萩花さんに聞かされることも無かったのに。壱馬の家に行かなければ、乃々華さんの話を知らずに済んだのに。知るから辛いんだ、分かるから辛いんだ、知らなければ良かった…こんなに温かい場所なんて。
今までずっとそうだった、あたしはずっと逃げてきた。まわりに本音を言わず好きにさせる。そしたら嫌われずに済む。
あたしは言われた通りにする。そしたらみんな、あたしから離れてかない。お母さんの足枷になりたくないとか。お父さんの負担になりたくないとか。おばあちゃんの重荷になりたくないとか。
壱馬の、迷惑になりたくないとか。
結局あたしは誰よりも卑怯で、そして弱虫だった。
怖いなら初めから近づかなければいいのに。寂しいから甘えてしまう。
後悔した時にはもう遅い。あたしは''知って’’しまってる。
知らなければ、怖くないのに。
喉が痛くて痛くて、痛いから泣いているんだ。
悲しいわけじゃないよ。
だから心配したりしないで。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!