第26話

過去
266
2020/03/07 15:42
家出て…その時は、どれだけ経ってたのかも分かってなかったが……何日も迷ってたと思う。雨も降ってきて、どっかの公園で死にかけてたとき、その女の子が現れた。
女の子
女の子
だいじょうぶ?
水色の傘を俺にさして自分のワンピースは濡れてしまっている女の子。
涙か雨か分かんねぇ顔で女の子を見たら、少しだけ驚いた顔をした。
女の子
女の子
ないてるの?
小さな手が俺の右頬を包む。優しく、温かい濡れた手で。
女の子
女の子
青空だよ、きれいだね
そう言って、傘の中を指さした。水色の傘は雨の闇に負けることなく俺の目の前に青空を作り出していた。
女の子
女の子
さみしいことがあったら、あいがきいてあげるから。ね、なかないで
よしよし、と俺の頭を撫でる。そしてたまらなく幸せそうににっこぉ、と笑った。
女の子のお父さん
女の子のお父さん
なにしてるんだっ?
女の子
女の子
あ、おとうさん
女の子のお父さん
女の子のお父さん
ん? どうしたんだい、君。迷子?
かずま
かずま
……
女の子
女の子
この子ないてるの
水色の傘を俺にさしたまま、女の子はお父さんに言う。親父が大嫌いだった俺は、''親父’’という存在にさえ嫌悪感を抱いていた。
女の子のお父さん
女の子のお父さん
大丈夫かい?  君、名前は?
かずま
かずま
……
女の子
女の子
さっきからなにもはなさないの
女の子のお父さん
女の子のお父さん
名前だけでも、言ってくれないかな?
物凄く優しく俺に語りかけたその人は、俺のお父さんと同じ''親父’’な筈なのに。。
どうしてうちのお父さんと違うんだ?
かずま
かずま
……かずま
女の子のお父さん
女の子のお父さん
壱馬くんか。さぁ行こう!
その男の人は、俺の頭をわしゃわしゃと撫でて、ひょいっと抱き上げた。ずぶ濡れだったのに、かまいもしないで。
女の子
女の子
かずまくん、すてきななまえだね
またにっこり笑った女の子。女の子の笑顔は俺のトゲトゲな気持ちを和らげた。
女の子のお父さん
女の子のお父さん
家、どこだい?
かずま
かずま
……いえには帰りたくない
女の子のお父さん
女の子のお父さん
どうしてだい?
かずま
かずま
俺は邪魔だから…
トゲトゲのとれた俺は、なにふりかまわずに全部言ってのけた。お父さんのこと、弟がいてお母さんが大変なこと、自分は邪魔なこと。
多分その女の子には意味なんて何もわからなかっただろう。それなのに、いつの間にか泣いてしまっていた俺の手をギュッと握った。
女の子のお父さん
女の子のお父さん
馬鹿だなぁ。邪魔なもんか
かずま
かずま
ひっく…、ぐ
女の子のお父さん
女の子のお父さん
お母さんにとって壱馬くんは支えなんだよ? 壱馬くんはお母さんが泣いているのを見たことがあるかい?
かずま
かずま
……ない
女の子のお父さん
女の子のお父さん
だろう?  それは君がいたからだ。君が支えになっていたからだよ
そう言って、俺の背中をポンポンとし叩いた。俺は素直に頷くしかなかった。
そして、導かれたまま家に帰る決意をしたものの、住所なんて言えるわけもなく…近くの交番に行った。
警官が身元を調べて連絡したらしいが、俺は知らなかったので、濡れた体を拭いてもらっていたとき、慌てたお母さんが現れて驚いた。
壱馬のお母さん
壱馬のお母さん
壱馬っ!
かずま
かずま
おかあさっ…
壱馬のお母さん
壱馬のお母さん
ごめんね!  お母さん寂しい思いさせたからっ!
まだ濡れている俺を、力いっぱいお母さんは抱きしめてくれた。
その時思った。 お母さんって強いだ、って。
壱馬のお母さん
壱馬のお母さん
本当にありがとうございました!
俺を抱き上げて、ペコペコと頭を下げるお母さんに、男の人は笑顔で首を振った。
女の子のお父さん
女の子のお父さん
うちの娘がね、助けたんですよ
そう言って、同じくびしょびしょになった女の子の頭に手を置いた。
女の子
女の子
かずまくん、これあげるね
女の子は相変わらずの笑顔で俺に水色の傘をさしだした。雨の空を一瞬で青空に変える傘。
女の子
女の子
これがあったら、雨でも泣かない?
かずま
かずま
──────うん ありがとう。泣かない
俺は、嬉しそうに笑う女の子に、初めて自分から聞いた。
かずま
かずま
きみのなまえは?
女の子は名前を聞かれたのが嬉しかったのか、満面の笑顔で答えた。























































女の子
女の子
あいら!

プリ小説オーディオドラマ