家出て…その時は、どれだけ経ってたのかも分かってなかったが……何日も迷ってたと思う。雨も降ってきて、どっかの公園で死にかけてたとき、その女の子が現れた。
水色の傘を俺にさして自分のワンピースは濡れてしまっている女の子。
涙か雨か分かんねぇ顔で女の子を見たら、少しだけ驚いた顔をした。
小さな手が俺の右頬を包む。優しく、温かい濡れた手で。
そう言って、傘の中を指さした。水色の傘は雨の闇に負けることなく俺の目の前に青空を作り出していた。
よしよし、と俺の頭を撫でる。そしてたまらなく幸せそうににっこぉ、と笑った。
水色の傘を俺にさしたまま、女の子はお父さんに言う。親父が大嫌いだった俺は、''親父’’という存在にさえ嫌悪感を抱いていた。
物凄く優しく俺に語りかけたその人は、俺のお父さんと同じ''親父’’な筈なのに。。
どうしてうちのお父さんと違うんだ?
その男の人は、俺の頭をわしゃわしゃと撫でて、ひょいっと抱き上げた。ずぶ濡れだったのに、かまいもしないで。
またにっこり笑った女の子。女の子の笑顔は俺のトゲトゲな気持ちを和らげた。
トゲトゲのとれた俺は、なにふりかまわずに全部言ってのけた。お父さんのこと、弟がいてお母さんが大変なこと、自分は邪魔なこと。
多分その女の子には意味なんて何もわからなかっただろう。それなのに、いつの間にか泣いてしまっていた俺の手をギュッと握った。
そう言って、俺の背中をポンポンとし叩いた。俺は素直に頷くしかなかった。
そして、導かれたまま家に帰る決意をしたものの、住所なんて言えるわけもなく…近くの交番に行った。
警官が身元を調べて連絡したらしいが、俺は知らなかったので、濡れた体を拭いてもらっていたとき、慌てたお母さんが現れて驚いた。
まだ濡れている俺を、力いっぱいお母さんは抱きしめてくれた。
その時思った。 お母さんって強いだ、って。
俺を抱き上げて、ペコペコと頭を下げるお母さんに、男の人は笑顔で首を振った。
そう言って、同じくびしょびしょになった女の子の頭に手を置いた。
女の子は相変わらずの笑顔で俺に水色の傘をさしだした。雨の空を一瞬で青空に変える傘。
俺は、嬉しそうに笑う女の子に、初めて自分から聞いた。
女の子は名前を聞かれたのが嬉しかったのか、満面の笑顔で答えた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。