第31話

友達1
220
2020/03/21 21:03
美優
美優
あたし帰らなきゃ
あたしが壱馬にじりじりに追い詰められているというのに、薄情なことに帰ると言い出した美優は、ひらりとスカートをなびかせて立ち上がった。そしてあたしも立ち上がる。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
こっ、校門まで送るよ!
美優
美優
いらない
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え!?
サラッと言う美優に、驚きを隠せない程テンパるあたしを美優はお腹を抱えて笑っている。
美優
美優
あ、愛羅もしかして携帯変えた?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あー、止まってる
美優
美優
そうなの?
使ってた携帯はいつの間にか止まってた。
別に必要ないと思ってたけど────────。
同じく立ち上がった壱馬が言った。
川村壱馬
川村壱馬
携帯復活させる。そしたら連絡させる
湯浅愛羅
湯浅愛羅
えっ?   いいよ!そんななにもかも!
してもらって悪いよ、って続けようと思ったけど壱馬に睨まれてやめた。
川村壱馬
川村壱馬
いいから
湯浅愛羅
湯浅愛羅
でも…
川村壱馬
川村壱馬
お前が携帯持ってねぇの俺が不便
またそうやって、かっこいいこと言う。
あたしは笑ってありがとうって言うしかなかった。美優は『じゃあ復活したら連絡して』と携帯をしまった。
美優
美優
幸せそうで安心したよ。またね
湯浅愛羅
湯浅愛羅
送るって
美優
美優
いいからいいから
このまま壱馬に怒られときなさい、と言うように満面の笑みで拒否する美優は本当に帰ろうとしている。
川村壱馬
川村壱馬
いつき
藤原樹
藤原樹
ん?
笑顔でみんなにバイバイを言おうとしてる美優を差し置いて、壱馬がなぜか樹に声をかけた。
川村壱馬
川村壱馬
送ってきてやれ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
え!?
美優
美優
え!?
藤原樹
藤原樹
え?
驚いたのはあたしだけじゃなく、美優と樹もだった。でも、1番驚いてるのは樹っぽい。
そりゃあ、樹にとっては初対面なあたしの友達を送れって言われるとは思ってなかっただろう。
川村壱馬
川村壱馬
近くまででいい
藤原樹
藤原樹
……わかった
川村壱馬
川村壱馬
校門までは行くな
壱馬はいたって当たり前のように言ってるけど、壱馬以外はみんな驚いていた。
樹も了解してるけど、どこか迷ってる。ザワザワするクラスと、必死でいいですって言う美優とで、少し教室が騒がしくなるくらいだった。
トップの樹を使って、隣町の愛心まで行かせるってことに、''そんなに今危険なのか?’’という疑問がみんなに生まれた。
美優
美優
あたし、本当に良いですっ!
川村壱馬
川村壱馬
よくねぇ
美優
美優
や、でも……
美優は、灰高がどんなものか知らないし、怖さも知らない。あたしだって全部知ってるわけじゃないし、身をもって経験したこともないけど、雪さんのことを知って、''覚悟’’ってなにか分かった。そして、壱馬の気持ちも。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
送ってもらって、美優
美優
美優
愛羅……
湯浅愛羅
湯浅愛羅
壱馬の気持ちだよ。万が一のことがあったら大変だから
湯浅愛羅
湯浅愛羅
だからって、美優に危険があるってわけじゃないから心配しなくていいよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
目立つといけないから校門までは行かないって言ってるし
ね、と壱馬のほうを見たら相変わず偉そうな存在感のまま頷いた。壱馬の気持ちを理解できたことにちょっとした進歩を感じた。
あたしがそう言うので美優も抵抗するのを辞めた。
美優
美優
う……うん
湯浅愛羅
湯浅愛羅
お願いね、樹
藤原樹
藤原樹
あぁ
樹は立ち上がって、美優の手をから鞄をスっと奪った。驚いた美優だったけど、どうやら樹は鞄を持ってあげるつもりなだけらしい。少し、美優は赤くなってる気がした。


ただの気のせいじゃないと分かるのは、その日の夜のことだけど。。
美優
美優
またね、愛羅
湯浅愛羅
湯浅愛羅
うん、ありがと
美優は笑顔であたしに手を振って、教室から出ていった。手を振り返していたあたしが手をゆっくり下ろそうとした時、またさっきの悪寒を感じた。
川村壱馬
川村壱馬
愛羅
湯浅愛羅
湯浅愛羅
ひっ…!!!!!
何故か珍しい程の笑顔で、気持ち悪いうえに怖いし!!!
あたしは数歩後ずさった。
川村壱馬
川村壱馬
詳しく聞かせろよ
湯浅愛羅
湯浅愛羅
く、詳しく?
川村壱馬
川村壱馬
木村の話だろうが
怖い笑顔は一瞬にして、ただの怖い顔に変わってしまった。
木村のことをここまで引っ張られ、そしてこんなに怒りを覚えられるなんて当の本人は1ミクロンも思ってないだろう。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
木村、…くんの、ねぇ?   なにが……
川村壱馬
川村壱馬
名前呼ぶんじゃねぇよ
なんてこと。  ヤキモチ妬きとレッテルを貼られたはずのあたし以上のヤキモチ妬き。

ヤキモチ妬きを通り越して、支配?
湯浅愛羅
湯浅愛羅
壱馬、ちょっと落ち着いて
川村壱馬
川村壱馬
いたって落ち着いてるだろうが。お前が落ち着けや
ごもっともです。あたしは観念して、壱馬の言う通りに話すことにした。''彼’’について。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
…高1のとき付き合ってた…。───────それだけ……
川村壱馬
川村壱馬
じゃないって親友言ってたじゃねぇか
言ってたね、かなり余計なこと言ってた。
''なにもなかったわけじゃない’’ってことは''なにかあった’’ってことで。つまりそれを言えってことで……。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
た、確かに…なにもなかったわけじゃないけど
その言葉にピクリと反応して、眉間のシワが深くなる。そんなに眉間にシワ寄せたら、戻らなくなるんじゃないかって心配になるくらい。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
あたしは、あんまり好きにはなれなかったみたいで……
湯浅愛羅
湯浅愛羅
キス、するのが嫌だったの。でも─────無理やりされて……それで速攻別れた
キスごときで、って美優以外の友達はみんな言ったけど…あたしには無理だった。好きになれなかったのはあたしのせいだけど、でも…ちょっとセンチになって考えこんでたあたしは、ハッとした。
完全に忘れてた。愛しの壱馬様のことを……。
あたし壱馬にこの話してたんだった。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
か、壱馬?
黙ったままの壱馬の顔を恐る恐る覗き込むと、怖くて固まってしまうくらいの、完全な無表情。フリーズしてるみたいに、壱馬は無表情で動かないままだ。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
こ、怖いんだけど
浦川翔平
浦川翔平
自業自得だ
助けを求めて、翔平に話しかけたのに、ツンっと相手にしてくれなかった。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
壱馬、なんで硬直してんの?
吉野北人
吉野北人
多分考え事してるんだと思う
壱馬を1番わかってる北人は、やっぱり優しく答えてくれた。
湯浅愛羅
湯浅愛羅
……
浦川翔平
浦川翔平
……
吉野北人
吉野北人
……
長くて辛い沈黙の後に、やっと壱馬が絞り出すように発言した。

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