第2話

早苗の過去
185
2023/03/13 01:25
キーンコーンカーンコーン…
授業終わりのチャイムが鳴り響き、休み時間が始まった。そんな中、ポツンと椅子に座り窓の外を眺める少女が一人居た。
東風谷早苗
………
私は東風谷早苗。今年4月にこの高校に進学した1年生。
私が一人でいる理由は小学校から同じだった千花という子が同じ高校に進学したからだ。
山﨑千花
でさー、早苗は神社生まれなんだよねー
友達
えー、マジ?
なんかこわ〜い
友達
ちょっと不気味だよねぇ
友達
あはははは!
千花は私のことを神社生まれの不気味な奴と周りに言いふらし、私の目の前で陰口や嫌味、時には自分からぶつかったりなどいじめを昔から続けている子だった。
東風谷早苗
………………
そのおかげで友達なんていなかった。できなかった。
東風谷早苗
ただいま帰りました…
家に帰っても私は辛かった。
父親
おい、早苗!
今日は早月の誕生日なんだから
早月の望んだことをやってやれよ
早月は3つ下のわがままな妹だった。
ここまでわがままに育ったのはお父さんのせい。13年前にお母さんが交通事故で他界した後、お父さんは私よりも早月の方が可愛いからという理由でずっと彼女を溺愛していた、辛かった。
そんな私の唯一の心の支えはおばあちゃんだった。おばあちゃんは私を励ましてくれるし、東風谷家に代々伝わる秘術を丁寧に教えてくれた。
しかし、お父さんは最近、こんなことも言い出したのだ。「お義母さんが早月に丁寧に秘術を教えないから早月がこんなにも未熟になったんだ。だから、なんでもできる早苗よりもか弱い早月にはもっと優しくするべきだ。」と。意味がわからない。早月は秘術を真面目に教わろうとなんかしてなかった。
東風谷早月
ねぇ早苗、私の部屋掃除してよ
東風谷早苗
そ、それぐらい自分でやりなよ
東風谷早月
はぁ?
お父さんからも言われたでしょ⁉︎
今日は私の誕生日なんだから
私の言うこと聞いてよ‼︎
早月は私の筆箱を頭に投げた。
東風谷早苗
きゃっ⁉︎
こんなことが毎日続くから私は耐えられなかった。おばあちゃんは数日前に介護施設に行っている。もう家に私の味方はいない。最近は神社で寝泊まりをしている。
東風谷早苗
こんな辛い思いするなら、
こんな運命なら…
この神社に神様っているのかな…?
神社の前でそうポツリとつぶやいた時だった。
???
…ここにいるよ
東風谷早苗
……っ⁉︎
東風谷早苗
な、誰⁉︎
目の前には2人の女性が立っていた。
洩矢諏訪子
私は洩矢諏訪子
貴方の辛い思い、
ずっと気づかなくてごめんね
洩矢諏訪子
それでこっちが…
八坂神奈子
八坂神奈子よ
東風谷早苗
や、八坂神奈子様と洩矢諏訪子様……⁉︎
驚いた。この方達は、昔おばあちゃんからうちの神社の祭神の名前だった。
東風谷早苗
ほん、もの…?
八坂神奈子
そうよ、もう大丈夫だからね
洩矢諏訪子
貴方に辛い思いをさせた者達は
後にミシャグジ様に祟られるだろう
洩矢諏訪子
私は奴等を許さないからね
東風谷早苗
………………
八坂神奈子
………早苗、
私達はしばらくの間神社を離れていたんだ
信仰が弱まったこの世界から逃げるため、
諏訪子が消えてしまわないのために
八坂神奈子
その時に移住のに適した場所を見つけてな
私達はその楽園、
幻想郷に引っ越すことにした
八坂神奈子
そこはとても信仰が充実した楽園なんだ
洩矢諏訪子
早苗も来る?
私は諏訪子様から詳しい話を聞いた。その幻想郷に行くと私達は外の世界では忘れられた存在になること。私は現人神として、風祝として二柱に仕えること。
東風谷早苗
……もし、私がここから離れたら
悲しむ人はいるのでしょうか?
八坂神奈子
それはわからない
こちら側では私達は忘れられた存在になる
悲しむ人はいないかもしれない
洩矢諏訪子
でも、貴方のおばあちゃんは
貴方を大事にしてたよね
東風谷早苗
………
私は決心した。
東風谷早苗
あの、1日だけ時間を下さい
洩矢諏訪子
別れを告げるんだね
東風谷早苗
…………はい
東風谷早苗
おばあちゃんは私の唯一の味方だったから
東風谷早苗
だから私は、
今までの感謝とお別れを
告げに行きます……‼︎
翌日、私は介護施設へと向かった。
東風谷早苗
お、おばあちゃん………
おばあちゃん
おやおや、早苗じゃないか
どうしたんだい?
東風谷早苗
今日は、おばあちゃんに
大事なことを言わなきゃいけないの…
東風谷早苗
私…、ここから離れなくちゃいけないんだ
東風谷早苗
だから、
もうおばあちゃんには……会えないの
おばあちゃん
そうか、わざわざそれを言いに
会いに来てくれたんだね
おばあちゃんはそれだけでも嬉しいよ
東風谷早苗
おばあちゃん……‼︎
私は目に浮かべた涙を擦り、おばあちゃんに言った。
東風谷早苗
今までありがとう、大好きだよ
そして………さようなら






洩矢諏訪子
別れは済んだ?
東風谷早苗
はい、ありがとうございました
八坂神奈子
とんでもないわ
さあ、早苗がこの祝詞を読んだら
幻想郷に行けるわよ
東風谷早苗
はい、わかりました
東風谷早苗
∃∞⊇∵⁂∮≫∮⊇∵………
光に包まれた後目が覚めた先は美しい山々、綺麗な小鳥達の囀り、美味しい空気に囲まれた素晴らしい場所だった。
その後は風神録異変が起こり、幻想郷の様々な人物と関わる早苗はだんだんとこの幻想郷に馴染んでいった。
彼女を知るものはもう外の世界には居ない。でも、それでいいんだ。お父さんも早月も千花も覚えていない。私に関わった記憶はない。私はここで第二の人生を送る。おばあちゃんと別れるのは辛かったけど、おばあちゃんは私を忘れているだろう。わがままな私でごめんなさい、そして……今まで本当にありがとう。

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