あなた「ふぉー、気持ちよかったー」
お風呂上がり、髪の毛をお団子にまとめながら廊下を歩く。
くー、やっぱり1人でいると歌いたくなっちゃう。
でも、今まで歌って良かった試しがない。
すぐ誰かに見つかるし!!
あなた「わっ」
山口「ひぇあっ!?」
男子トイレからいきなり山口くんが出てきて、思わず後ろに飛び退く。
ってか喜び方可愛いね。愛すわ()。
あなた「ごめんなさい…」
山口「こちらこそごめんね。怪我ない?」
うちがコクリと頷くと、彼はふわりと表情を緩め、男子部屋とは違う方向に向かおうとした。
あなた「っ、山口くん!」
山口「…ん?何?」
あなた「月島くんについて…教えてほしい」
うちの突然のお願いに、彼は目を丸くした。
そして、くるりと踵を返し、こちらに向かって歩いてくる。
山口「人にペラペラ話すようなことではないけど…あなたちゃんなら、良いかな」
月島くんの過去について、教えてもらった。
いじめを受けていた山口くんを助けたこと。
お兄さんが大好きだったこと。
お兄さんがバレーをしていたこと。
お兄さんのカッコいい試合を見てバレーを始めたこと。
レギュラーであると、嘘をつかれたこと。
……試合に出ていないお兄さんを見て、失望したこと。
今、全てのピースがはまった。
お兄さんが本気でバレーをしていることを知っていたから、その分、試合に出ていないお兄さんを見て、辛くなったんだ。
彼があんなに『本気』を拒絶していた理由が分かった。
あなた「……ありがと」
山口「ううん。あなたちゃんが聞いてくれて、嬉しかった」
ふふ、と意味深に笑う顔が、いつもより大人びて見えて、少しだけ心拍数が上がった。
山口「あと、これ…可愛い…って、何言ってんだろ俺。じゃ、じゃーね!」
自分の頭の上を指した後、、すぐに我に返って廊下を走り出した。
これ…って、お団子のこと?
あなた「嬉し…」
横から出てきている触覚を、くるりと指に巻きつけた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!