ミーティングも終わり、うちらは体育館を出た。
烏養「よーし、じゃあ飯行くぞー。もちろん奢りだ」
澤村「…飯っすか?いや…」
烏養「いーから食うんだよ」
いきなり奢りと言い出したコーチ。
何を企んでいるのやら…
ー居酒屋にてー
そこには、大量のご馳走が用意されていた。
どうやら、烏養コーチがあらかじめ予約してくれていたようだ。
他には店員の方以外誰も居なくて、ほぼ貸切状態だ。
目の前にご飯があるというのに、なかなか皆箸を持たない。
それはうちも同じで…何故か、手が動かなかった。
烏養「…走ったりとか跳んだりとか。筋肉に負荷がかかれば、筋繊維が切れる。試合後の今なんか筋繊維ブッチブチだ。それを飯食って修復する。そうやって筋肉がつく。そうやって、強くなる」
コーチは座布団の上にどしっと座る。
烏養「だから食え。ちゃんとした飯をな」
皆、各々手を合わせる。
澤村「…いただきます」
キャプテンのその言葉に、皆も「いただきます」と箸を持った。
あなた「潔子さん……」
隣に座る潔子さんに視線を向ける。
彼女は無表情のまま、コクリと頷いた。
うちはそれを合図に、手を合わせる。
あなた「…いただきます」
ぱくっ。
美味しい。
いつもバクバクと凄い速さで食べる日向くんは、今日はゆっくりと食べていた。
食べ物はどんどんなくなっていく。
いつの間にか、彼らの瞳には涙が浮かんでいた。
もらい泣きしそうになったうちは箸を止め、下を向く。
はぁ…悔しいなぁ……。
清水「あなたちゃん」
あなた「……はい」
清水「…泣かないの?」
あなた「…はい。泣か、ない…っ」
だめだ。今声を出したら泣いてしまう。
清水「……そっか。じゃあ、私も泣かない」
あなた「…?」
何かを堪えながら微笑む潔子さん。
彼女の強さを、改めて知った気がする。
もう皆は、何も、喋らなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!