バスの中(あなたちゃんは一人席です)
バスに揺られて、疲れ果てて眠気が襲いかかってきた頃。
うちが着信音に設定している音楽が流れた。
誰かから電話みたいだ。
あなた「もしもし…」
研磨『……俺だけど』
あなた「あっ、オレオレ詐欺は受け付けてないので。じゃっ」
研磨『お仕置きする?』
あなた「すみませんちゃんと聞きます研磨くんだよね。どうしたの?」
研磨『アップルパイ、作ってくれるって言った…』
あぁ、そういえば。食堂で言った気がする。
あなた「うち、東京まで行くよ。いつがいいかな?」
研磨『いや…こっちが行く。あなたの家』
あなた「うちの家?うーん…いいと思うけど…」
研磨『ただ、予選があると思うから、もう少し先になるかも』
あなた「そうだね、了解です」
研磨『うん……あ、もう切る。じゃあ』
「ちょっとクロ、取らないで」という声を最後に、電話はブチっと切られてしまった。
大丈夫だろうか……眠くなってきたな……。
体育館にて、ミーティング
電話の後ぐっすり寝ていたうちは、寝ぼけたまま体育館に来ていた。
いつのまにか先生が立っていて、いつのまにか皆がそこに集まっている。
武田「明日の予選で2回勝てば、10月の代表決定戦へ進出できます。この一次予選を突破した八校に、さらに強豪八校を加えて、10月の代表決定戦となります」
武田先生の説明の後、日向くんがぐいっと身を乗り出して質問する。
日向「一次予選は2回しか試合できないんですか?」
菅原「俺たちはIH予選で16まで行ってるから、一回戦は免除になってるんだ」
日向「おおおお!!俺たちすげー!✨」
皆が練習のために解散した時、仁花ちゃんが震えていることに気づいた。
あなた「…仁花ちゃん?」
谷地「い、いよいよ、公式戦っすか…きんちょ、緊張してきた…」
清水「仁花ちゃんには初めての大会だもんね。あなたちゃんも」
あなた「ですね!ドキドキします…!」
うちは握り拳を作ってグッと意気込む素振りをした。
清水「私達には、最後だ」
最後………そっか。
潔子さんはもう3年生で。
澤村先輩と旭さんと菅原先輩も、3年生だから、最後。
最後……か。
あなた「……勝てるといいな」
清水「…勝つよ」
潔子さんは、練習をする彼らを見つめながら、強くこう言った。
清水「絶対、勝つ。……なんて、確信はないけどね」
潔子さんは、冗談を言うようにくすりと笑った。
でも、あんな風に頑張ってる皆を見てたら……本当に、勝てる気がしてきたんだ。
(あなたちゃんはステージに座ってます)
あなた「AクイックとBクイックの違いが分からないっ…!!クイックって何!?」
清水「何してるの?」
あなた「あ、バレーの勉強を……まだ、全然分かってないんですけど」
と言いながら、膝に乗せている『バレー入門書』を見せる。
見せても、うちがいっぱい書き込んでるからちょっと見づらいけど。
清水「へぇ、凄いね」
あなた「戦法を伝授するとか、実際にやってみせるとかは出来ないけど…こうやって色々ルールとか、技を知れば、…彼らに寄り添える気がして」
少しでも近い存在で居たいと思った。
困ったら一緒に考えて、落ち込んだらそばに寄り添って。
バレーに一生懸命な彼らの近くで、そんな存在で居るのなら、バレーを学ぶべきだと思ったのだ。
清水「マネージャーやってるね」
あなた「えへへ、そうですか?」
清水「うん。でも、私も仁花ちゃんも真似できない存在」
潔子さんは背中を押す言葉がすぐに出てくるし、仁花ちゃんは皆に元気を与えて、勇気をくれる。
だったらうちは、皆に寄り添える存在に……なれるといいな。
あなた「…あ、そろそろ切り上げるっぽいですね。ネットの片付け手伝ってきますね!」
うちはそこに雑誌をおいて、片付けを始める彼らのもとに走って行った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。