ほぅ、疲れたぁ………。
あなた「倫くんに会いたい……」
知らない人ばかりの中で授業を受けるって,こんなに疲れることなのか……。
放課後,トボトボと1人廊下を歩くうちは、皆の好奇心の餌食となっている。まぁそうだよね、知らない子がめっちゃ疲れた顔で歩いてんだから。
角名「……あ、あなた」
あなた「はぁっ、倫くーんっ!!」
ドーン、と音がするような勢いで彼に飛びつく。倫くんは一瞬体勢を崩したが,すぐに立て直した。
角名「な、なに」
あなた「良かったぁ、知ってる人って落ち着く…」
角名「おつ。……で、皆見てるから早く部活いこ」
あなた「はーいっ!」
角名「あ、待って」
倫くんに呼び止められて立ち止まると、頭から何か布のようなものをかけられた。
それを慌てて取ると、それは『稲荷崎』と書かれたジャージ。
角名「それ着て。一応稲荷崎のマネなんだから。あとそれ、侑のだから汚さないように」
あなた「ありがとうございます……」
侑って、あのちょっと感じ悪かったやつじゃん……。
でも貸してくれたんだから、きっと良い人だよね。うんうん、いい人だ。
うちはジャージをその場で着ると,大きく拳を突き上げる。ジャージがデカすぎて袖から手が出てこなかったけど。
あなた「レッツゴー体育館!」
角名「おー」
ノってくれた。
角名「……あ、北さん。マネージャーの子連れて来ました」
倫くんの後ろについていくと,彼が立ち止まったのはある男の人の前。
白っぽい髪の毛で、端正な顔立ちの綺麗な人だった。
北「ん?あ、ほんまや。兎和さん……やっけ?北信介や、よろしくな」
あなた「……はひっ」
角名「あー…ちょっと緊張してるっぽいです」
北「角名、親御さんみたいやなぁ。ええよ、今日はとりあえず見学だけにしとき」
あなた「あ、ありがとうございます」
北「(人見知りっぽいけど,礼儀は正しいんやな)」
北さんにペコリと頭を下げると、倫くんは中に入っていく。うちもそれに慌ててついて行く。
体育館の中では,見慣れた光景が。
あなた「わーっ、バレーしてる!」
角名「そりゃバレー部だから……とりあえず荷物あそこに置いて,見学してな」
あなた「ハーイ!」
稲荷崎は、烏野とはまた違った。
スパイクが全員ちゃんと強いし,悔しいけど侑くんのトスもすごく的確。
素人のうちにもわかるのだから、それくらい、稲荷崎はすごいんだろう。
もしかしたら……今度の春高、稲荷崎と当たるかも。
とりあえず、彼らの特徴をメモしておくことにした。
あなた「んーと………治くんは、」
??「こーら、何してんねん」
あなた「っ…!!」
後ろからニュッと手が出て来て,メモ帳を取られた。
くるりと振り返ると,そこには侑くんが。
いつのまに……。
あなた「………」
侑「俺らの特徴でも掴もうとしたんか?許さんで」
あなた「(むっ)」
侑「やから嫌やって言ったのに……」
そうやってぶつぶつと嫌味を吐く侑くん。
こんな人でも,うちにジャージを貸してくれたんだ。
お礼を言わなきゃ。
そう思い,侑くんに話しかける。
あなた「あの、これ……ありがとうございます」
侑「?」
あなた「ジャージ……」
侑「あー……ん」
あれ……?ちょっと照れた……?
あなた「……ははっ、可愛い…w」
侑「はぁ!?誰が『可愛い』やねん!コラっ、逃げんな!!」
あなた「練習してくださあああい!!!」
角名「……え、仲良くなってない?」
治「あの子、恐ろしいわ…」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。