第207話

優しい人。
1,905
2021/09/05 22:00

あなた「おはようございます」


角名「……はよ。なんか機嫌良くない?」


あなた「そうですかぁ〜?」




下がらない口角をそのままに,うちは軽い足取りで通学路を歩く。






だってだって、久しぶりに3年生様たちのお声が聞けたんだもん!!



あの旭さんの聞いてるだけで寝そうな声と、菅原先輩の優しく包み込んでくれるような声と,澤村先輩の頼もしくて落ち着く声。



でも………せめて潔子さんも居てほしかったなぁ…。




角名「え、なに、百面相して俺を楽しませてくれてるの?」


あなた「潔子さん……会いたい」


角名「え、待ち人いるの?」






侑「すーなー!!!」





角名「は………!?」




学校に着くなり倫くんに飛び込んできた侑と、その後からゆっくり歩いてくる治くん。


侑も良いことがあったのだろうか,すごくニコニコしている。



侑「昨日なぁ、めっちゃええ夢見たんよ!俺がジャンプサーブめっちゃ決めてな、北さんに褒められんねん!!」


角名「あっそ……」


治「俺これ朝に3回聞かされた」


あなた「治くん、行こー?」


治「せやな」



2人で歩き始めたら,侑と倫くんはすぐに後ろから追いかけてきた。


「絶対2人きりで歩かせへん!!」……って。














イチカ「おはよぉ〜っ!!!あなたー、またあの人たちと歩いとったやんなぁ!うらやましー!」


あなた「あはは、あの人たちちょっとうるさいけどね……」



廊下を歩いていたら,いっちゃんが声をかけてくれた。


そして今,教室へ向かっている途中である。


周りの関西弁も少しずつ慣れてきて,イントネーションとか方言とかが移りかけることも多々あった。






「あ、あの子や,転校生」


「へぇ、結構かわええやん?」


「でもあのバレー部に近づいとんねん。内側は男遊び激しいんとちゃう?」


「じゃあ隣の子もバレー部狙っとんねや!ほら、バレー部って宮ツインズおるやん?」






あなた「……いっちゃん?」


イチカ「アタシが好きなんは、角名センパイやねん……」



大声をあげて笑う彼女らに軽蔑の視線を向け,ボソリとつぶやくいっちゃん。


本当は文句を言いたいのだろう。でも、相手は上靴の色からして三年生。声をかけるなんてとてもできない。





あなた「………う、うちが言ってくる、よ」


イチカ「は!?アンタ初対面苦手………」






??「なぁ、そういうの言ってええと?」




「はぁ?……って、し、信介……」




あなた「北さん……」







北「兎和さんは『マネージャー』としてこっち来てる。そんな一生懸命な子に,そんな言い方はないやろ?花坂さんも、多分兎和さんの真っ直ぐさに自然に惹かれたんやないかなぁ?」




花坂、……は、いっちゃんの苗字。



北さんの声はどこまでも優しくて,でもどこまでも威厳があった。


有無を言わさないその言葉に,先輩達は怯んでどこかへ行ってしまった。


うちはお礼を言うために,いっちゃんの手を引いて北さんの元へ駆け寄る。



あなた「北さん!ありがとうございます!」


北「ん?あ、おはよう。部員を守るのは、主将にとって当たり前のことやから。お礼なんて言わんでもええんやで」


イチカ「こっ心が広い……!!…あ、なんでアタシの苗字知ってたんですか?」


北「侑達が教えてくれたんよ。兎和さんと仲のいい人やって」


イチカ「なるほ…」



北「兎和さん」


あなた「ハイッ」



改めて北さんに向き直る。


じっとうちの目を見つめていた彼は,そのうち小さく目を細めて笑った。






北「………やっぱり、ええ子や」

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