あなた「おはようございます」
角名「……はよ。なんか機嫌良くない?」
あなた「そうですかぁ〜?」
下がらない口角をそのままに,うちは軽い足取りで通学路を歩く。
だってだって、久しぶりに3年生様たちのお声が聞けたんだもん!!
あの旭さんの聞いてるだけで寝そうな声と、菅原先輩の優しく包み込んでくれるような声と,澤村先輩の頼もしくて落ち着く声。
でも………せめて潔子さんも居てほしかったなぁ…。
角名「え、なに、百面相して俺を楽しませてくれてるの?」
あなた「潔子さん……会いたい」
角名「え、待ち人いるの?」
侑「すーなー!!!」
角名「は………!?」
学校に着くなり倫くんに飛び込んできた侑と、その後からゆっくり歩いてくる治くん。
侑も良いことがあったのだろうか,すごくニコニコしている。
侑「昨日なぁ、めっちゃええ夢見たんよ!俺がジャンプサーブめっちゃ決めてな、北さんに褒められんねん!!」
角名「あっそ……」
治「俺これ朝に3回聞かされた」
あなた「治くん、行こー?」
治「せやな」
2人で歩き始めたら,侑と倫くんはすぐに後ろから追いかけてきた。
「絶対2人きりで歩かせへん!!」……って。
イチカ「おはよぉ〜っ!!!あなたー、またあの人たちと歩いとったやんなぁ!うらやましー!」
あなた「あはは、あの人たちちょっとうるさいけどね……」
廊下を歩いていたら,いっちゃんが声をかけてくれた。
そして今,教室へ向かっている途中である。
周りの関西弁も少しずつ慣れてきて,イントネーションとか方言とかが移りかけることも多々あった。
「あ、あの子や,転校生」
「へぇ、結構かわええやん?」
「でもあのバレー部に近づいとんねん。内側は男遊び激しいんとちゃう?」
「じゃあ隣の子もバレー部狙っとんねや!ほら、バレー部って宮ツインズおるやん?」
あなた「……いっちゃん?」
イチカ「アタシが好きなんは、角名センパイやねん……」
大声をあげて笑う彼女らに軽蔑の視線を向け,ボソリとつぶやくいっちゃん。
本当は文句を言いたいのだろう。でも、相手は上靴の色からして三年生。声をかけるなんてとてもできない。
あなた「………う、うちが言ってくる、よ」
イチカ「は!?アンタ初対面苦手………」
??「なぁ、そういうの言ってええと?」
「はぁ?……って、し、信介……」
あなた「北さん……」
北「兎和さんは『マネージャー』としてこっち来てる。そんな一生懸命な子に,そんな言い方はないやろ?花坂さんも、多分兎和さんの真っ直ぐさに自然に惹かれたんやないかなぁ?」
花坂、……は、いっちゃんの苗字。
北さんの声はどこまでも優しくて,でもどこまでも威厳があった。
有無を言わさないその言葉に,先輩達は怯んでどこかへ行ってしまった。
うちはお礼を言うために,いっちゃんの手を引いて北さんの元へ駆け寄る。
あなた「北さん!ありがとうございます!」
北「ん?あ、おはよう。部員を守るのは、主将にとって当たり前のことやから。お礼なんて言わんでもええんやで」
イチカ「こっ心が広い……!!…あ、なんでアタシの苗字知ってたんですか?」
北「侑達が教えてくれたんよ。兎和さんと仲のいい人やって」
イチカ「なるほ…」
北「兎和さん」
あなた「ハイッ」
改めて北さんに向き直る。
じっとうちの目を見つめていた彼は,そのうち小さく目を細めて笑った。
北「………やっぱり、ええ子や」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。