あなた「ただいまーっ」
母「おかえり。英くんが、『あなたが帰ってきたら俺の家に呼んでください』ってお願いに来てたわよ」
あなた「え、ほんと?今から行ってきていい?」
母「いいわよ。いってらっしゃい」
うちのお母さんは、英くんを信頼しているようだ。
たしかに、問題も起こしたことないし、礼儀も正しいしね。
うちは荷物を部屋に置き、バレー部のジャージのまま隣の家へ向かった。
ピンポーン。
インターホンを押すと、まもなく中からドタドタと足音が聞こえてきた。
突然にドアが開いて、裸足のえいくんが飛び出してくる。
あなた「びっくりしたぁ……!!」
国見「行くなって言ったろ、バカ!」
あなた「ひぃえっ!!」
英くんが怒鳴るなんて珍しい。
国見「…とりあえず、中入って」
あなた「う、うん。お邪魔しまーす」
英くんの家は、やっぱり落ち着く。
広いところはあまり落ち着かないのに、何でだろう。
国見「俺の部屋、行ってて」
あなた「うん」
言われた通り2階に上がり、相変わらず綺麗に整理されている彼の部屋に入った。
そして、いつものようにベッドに転がる。
あなた「んーっ……」
合宿で疲れたから、眠いなぁ…。
国見「……またベッドに居る」
あなた「気持ちいいんよ。英くんの匂いって、やっぱ落ち着く」
国見「…そういうこと言うなって」
文句を言う英くんは、うちのためにいちごミルクを持ってきてくれたみたいだ。
いちごミルクって、甘くて美味しいんだよなぁ…。
ちなみに、塩キャラメルが好きな彼はアイスキャラメルラテである。ここはカフェか。
国見「何で行ったの?合宿」
あなた「えぇ…?行きたかったから…かな?英くんが心配してるようなこともなかったよ。優しい人ばっかりだったし」
合宿も襲撃されなかったし、ごはんに毒も入ってなかったし。
国見「……変なこと考えてんな」
あなた「え、変かな?」
普通に心配するべきことだよ!!命に関わる!!
国見「男ばっかりのとこに行かないで。あと男に近づかないで」
あなた「えぇ…?」
英くんにそんなこと制限されなくちゃいけないの?
男子バレー部のマネージャーやめろってことだよね?嫌だよ?せめて春高予選まではっ…!!
すると彼はベッドに寝ているうちを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
あなた「え、あ、英くん……!?」
国見「………心配した」
あなた「え……?」
心配……シンパイ?
……そっか。心配してくれてただけなんだね。
あなた「……ありがとう。でも大丈夫だよ。もう高校生だし、気をつけるべきことなんてちゃんと分かってるし、」
国見「…あなたは、何も分かってない」
あなた「わっ……!」
英くんはうちの両手首を掴み、さらにグッと自分の方に引き寄せた。
急な衝動に追いつけず、心臓がバクバクだ。
顔が近い。
掴む力が強い。
そうだ、英くんは男の子なんだ(可愛すぎて気づいてなかった☆)。
こんな状況から、うちが逃げられるはずがない。
国見「あなたは相手が俺でも抵抗できない。同学年で、力も強くない俺でもだ。2年3年とか、もっと力の強い人とかが集まるところになんて行かせたくない。あなたが危ない」
………ふふ、英くんは心配性だなぁ。
いつも無気力な顔でボーッとしてる英くんが、こんなに焦っているなんて。
ここまで心配してくれる英くんに、思わずくすりと笑ってしまう。
あなた「…大丈夫、だよ。きっと、誰かが守ってくれる」
国見「……ん」
英くんはまだ腑に落ちないと言う顔をしていたが、一応落ち着いたみたいだ。
国見「…じゃあ、今回の件は許す」
あなた「うん……」
ホッとした瞬間、彼はうちの手に顔を近づけて____________
カプリ、と噛み付いた。
あなた「いっ………だ!!歯形ついちゃってる!!ええぇぇえ!?何で!?」
守るって言ったそばから傷つけます!?普通!!!
国見「_____________俺のものだっていう、印」
あなた「……?///」
国見「照れてる。かーわい」
あなた「なっ、て、照れてないし!バカ!」
国見「…クッキー食べる?」
あなた「……たべる」
どうしてもお菓子やスイーツには負けてしまうわけで。
うちは、英くんが持ってきたチョコクッキーに早速かぶりついていた。
国見side
目の前で幸せそうにクッキーを頬張る彼女を眺める。
やっぱり拗ねていても、こいつは甘いものや可愛いものには弱いのだ。
すごく……可愛い。
可愛すぎる。ずるい。こんなに可愛いあなたを、男だらけの合宿に行かせたくない。
でも、学校が違うから束縛とかはできないわけで。
せめてもの、『俺のものだ』っていう印をつけた。
はぁ……俺、意外と束縛強かったんだな。
あなた「英くんも食べる?はい」
気を遣って、クッキーをぎこちなくこちらに差し出すあなたが可愛い。
でも。
国見「……食べる」
あなたがこの気持ちに気づくまでは、言わないでおこうかな_____________。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!