山口くんの初試合、初サーブ。
緊張しまくってか、彼は思わずボールを手から落としてしまっている。
まって、ごめん、心配になってきた。
あなた「深呼吸、深呼吸…」
すぅー、はぁー…げほっ、はきすぎたっ!
ぴーーー!
うちの間抜けな咳とともに笛が鳴る。
彼はゆっくりとボールを投げ、走り出す。
ジャンプフローターだ。
彼によって打たれたボールは、ゆらゆらと飛んでいき………
ネットにあたって、落ちた。
ボールのバウンドする音だけが虚しく響く。
青城の得点だ。
青城の生徒たちは、得点を取れたことに喜んでいる。
でも、烏野の人達は______
山口「すっ、すみませ…」
旭「ドンマイ!」
田中「気にすんな!」
影山「ドンマイ!」
彼はベンチに戻ってからも、ずっと下を向いていた。
山口くん…
気づけば、体が動いていて。
気づけば、うちは烏養コーチの目の前に立っていた。
あなた「あの…ほんの少しだけ、山口くんと話しても良いですか」
武田「兎和さ…」
烏養「…ああ。特別だ」
彼の言葉にこくりと頷き、ベンチの端の方に座っている山口くんの元に駆け寄った。
ずっと下を向いて座っている彼に目線を合わせるようにしゃがみこむ。
あなた「……」
山口「あなたちゃん…」
あなた「…とうっ」
山口「うっ」
ペシっと彼の頬を両手で挟み込む。
山口「」
あなた「ばか」
山口「え」
うちの言葉に、彼はぎゅっと口をつぐむ。
うちが、自分のプレーに失望したと思っているらしい。
あなた「山口くんに次はないんですか?」
山口「え…?」
あなた「あれが上手くいかなかったら、山口くんは死ぬんですか?」
山口「…ひにゃにゃい(死なない)」
うちに両頬を挟まれて上手く喋れないらしい。
だからうちは、代わりに彼の両手を握った。
強く。強く。
うちの声が伝わるように。
あなた「死なないんですね?」
山口「……」
あなた「じゃあ、いいです」
山口「へ?」
あなた「初めての場で緊張するのは当たり前です。しかもこんな大舞台で。でも、死なないなら良くないですか?」
彼はうちの強引な考え方に驚いているようだ。
あなた「そんぐらいで考えて、気楽にやってきましょ!」
彼を元気付けるように、ニカッと笑ってみせた。
山口「…うん」
綺麗な笑顔。
まだ、さっきの後悔は残っているようだけど。
少しでも取り除けたなら、良いかな。
あなた「って言っても、うち何でもかんでも緊張しちゃうタイプなんですけどねー」
山口「えぇっ!?」
あなた「ふふんっ」
あれ、待って。
今の笑い方、気持ち悪っ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。