第125話

排球部の夏休み③
2,840
2021/04/30 22:00

あなた「おかしくないかな…」


及川さんが選んでくれた浴衣を身につけ、鏡の前でくるりと回ってみた。


変なところは……多分、ないかな。


実はこれ、着付けしてくれたのは仁花ちゃんなんだ。


もう帰っちゃったけど、「髪飾り一緒の付けよ!」って、さっき家に来てくれたんだ。


それで、ついでに着付けとメイクまでしてもらった。


さすが仁花ちゃん、お母さんがデザイナーなだけあって、メイクも上手だし着付けも手際よかった。


ちなみに、今日はうちのメイクデビューである。



浴衣は、白い生地に黄色と浅葱色の波紋と、赤い金魚が泳いでいるもの。


すごく可愛くて、一目惚れしてしまった。


そして、髪型は編み込みをして緩くツインテールにした(これはお母さんがしてくれた)。


ツインテールなんて、ちょっと子供っぽいかと思ったが、お母さんに「上手くできたからほどかないで!」と言われてしまった。


さらに、仁花ちゃんとお揃いの白いお花の髪飾りと、おばあちゃんが作ってくれた赤の巾着。


眼鏡も今日は外してみた。



つまりうちは、今日出来上がった自分にほぼ手を加えていない。


しかも、今日出かけた時の格好といったら……そう、ジャージである。


自分の女子力の無さに打ちのめされながら、とうとう時間になったことに気がついた。


仁花ちゃんに「今から家出ます!」とメールをして、うちは部屋を出た。











あなた「うーん、やっぱり人多いな…」


個人でバスに乗って現地集合ということになっているのだが、やはり人は多い。


座るところがなくて、ドアの近くに寄りかかっていた。




『間もなく___________』



運転士さんが、次のバス停の場を告げる。


うちの集合場所の一個前だ。


でも、ここで降りる人は結構いるみたいで、何人かが立ち上がった。




あなた「わ、すみません……あ、」


人が降りていく。


色んな人に押され、自分の居場所すら分からなくなった。


ここから抜け出さなきゃ……





??「……こっちだ」



突然、誰かに手を引かれた。


その知らない誰かのおかげで、うちは何とか人混みを免れた。



あなた「ありがとうございま……って影山くん!」


うちを助けてくれたのは影山くん。


影山くんは、紺色の甚平を着ていた。


彼は元々顔が良いため、それはすごく似合っていた。



あなた「居たんですね……」


影山「……おー」


なんとなく歯切れの悪い彼に、首を傾げる。


あなた「どうしました?」


影山「……それ、良いと、思います……ボゲェ」


浴衣のことだろうか。


あからさまに顔を逸らして、拗ねたようにそう言ってくれた影山くんは、ちょっと可愛くて。



あなた「嬉しいです……影山くんも。似合ってますよ」



影山「あ、……あたりめぇだ」





影山くんは、うちを掴んだ手を、離してはくれなかった。










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