あと一点取れば、次に行ける。
また試合ができて、もっと強い人と戦える。
現在24対24で同点。
あと2点取れば、烏野の勝利。
しかし、どちらが勝利してもおかしくない状況だ。
青城との最後の戦いは、田中先輩のサーブでスタート。
田中先輩が打ったボールは、青城の3番の人によって拾われる。
彼らのスパイクは月島くん達のブロックによって弾かれ、日向くんは速攻の体制に入る。
コートいっぱいいっぱい使って打たれたボールは、相手のリベロに拾われた。
ハイスピードなラリーが続く。
日向くんは何度も速攻を仕掛けたが、やはり向こうに拾われる。
そして、日向くんの指先でのボールタッチと相手のタッチネットにより________
烏野に、得点が入った。
あなた「ナイスっ!!」
全員「「っしゃアアアア!!」」
〜試合割愛〜
両者、得点の取り合い。
こっちが一点重ねたら、あっちも一点重ねてくる。
そして…及川さんのサーブで始まった試合。
作戦か、ゆっくりとコートの前衛に入ってきたボール。
澤村先輩がカバーし、影山くんがそれをレシーブで拾う。
旭さんのスパイクはブロックに弾かれ、そのボールをとったリベロは体勢を崩す。
岩泉さんのスパイクもこちらに弾かれ、カバーしたボールは相手コートへ返ってしまう。
ネットぎわに、日向くんと13番。
押し合い…かと思いきや、ジャンプした13番は日向くんよりも頭一個分高くて。
こちらにボールを凄いスピードで入れられた。
しかしそれはゆうくんがカバー、地面に落ちることはなかった。
空中に舞ったボールを見ながら、影山くんがトスの体勢に入る。
日向くんは、コート全面を使って走り出す。
この位置、このタイミング、この角度で__________
ドンピシャ。
完っ璧。
影山くんの完璧なトスと、日向くんの完璧なフォームによって打たれたボール。
それは、青城のコートまっしぐらで_____________
ブロックに、はたき落とされた。
あなた「え………?」
皆が必死でカバーしようとしたが、それに届かなかった。
ボールは虚しく音を立てて、烏野のコートに落ちる。
33対31。
青葉城西の、勝利だ。
青城の人たちは歓声をあげ、身体と声で喜びを表現していた。
そっか…………負けちゃったんだ、うちら。
震える足をぱしんと叩き、コートに走った。
あなた「はぁっ、はぁっ…」
彼らに何かを伝えたくて。
彼らを抱きしめたくて。
でも…足が、動かない………。
澤村「…影山、日向。整列だ」
日向「…キャプテンっ、すみませ…」
澤村「今のはミスじゃない。ミスじゃないから、謝るな」
皆泣いてないのに、うちが泣きそう。
一生懸命戦った皆の方が、何倍も辛いはずなのに。
どんな彼らでも、支えて上に持ち上げるのがマネージャーじゃないの________?
「「ありがとうございました!!」」
挨拶を終え、コーチのいるベンチに集まってきた烏野高校男子バレー部の皆。
誰も涙を流さなかった。
誰もが悔しそうな顔で、下を見つめていた。
そして周りには、すでに次の試合の準備をするチームが。
烏養「…すぐ撤収だ。クールダウンは、上か外でやれ」
烏養「兎和」
あなた「っはい、」
皆が散らばっていく中、烏養コーチに呼ばれ、うちは彼の元に駆け寄った。
烏養「あいつらの状態を見てやってほしい。山口にしたみたいに」
あなた「えっと…励ますってことですか?」
烏養「いや…そばに居てやるだけで良い。心のケアみたいなもんだ。マネージャーならできるだろ?」
マネージャーなら……
あなた「…はい!」
ー外にてー
ボトルを運んでいる最中、水道で顔を洗っている影山くんと日向くんを見つけた。
あれは…いかない方が、良いかな。
うちは影に隠れ、成り行きを見守ることにした。
日向「…ミーティング始まる」
日向くんがそういうと同時に、影山くんは水道の水を止め、日向くんの方を振り返った。
影山「…悪かったな。最後まで、完全に読まれた」
日向「……謝ってんじゃねぇよ!!」
あなた「あっ…」
日向くんは影山くんの胸ぐらを掴む。
影山くんはそのまま倒れ込み、日向くんは彼に馬乗りになった。
日向「俺に!俺にあげたのが、間違いだったみたいに言うな!!」
武田「…ミーティング、始まってしまいますよ」
あ、…武田先生。
先生は、2人にニコリと笑いかけた。
武田「今日も素晴らしい活躍でしたよ!2人とも」
地面に転がった2人は、バツの悪そうな顔をしている。
日向「でも…負けました」
武田「確かに負けました。でも、実りある試合だったのでは?」
2人は黙ったままだ。
武田「………負けは弱さの証明ですか?」
武田「君たちにとって、負けは試練なんじゃないですか?地に這いつくばったあと、また立って歩けるのかっていう。君たちがそこに這いつくばったままなのなら、それこそが、弱さの証明です」
その言葉に、2人はゆっくりと立ち上がる。
彼らの背中は、すごく、大きく見えた。
武田「…兎和さんも、一緒に帰りましょうか!」
あなた「えぇっ、気づかれてた!バレてないと思ったのにっ」
武田先生は、笑顔のまま体育館を指差す。
いつもはちょっとドジな先生だけど。
やっぱり『先生』なんだなーって、改めて思った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。