第61話

武田先生の言葉
3,986
2021/02/26 23:06

あと一点取れば、次に行ける。


また試合ができて、もっと強い人と戦える。




現在24対24で同点。


あと2点取れば、烏野の勝利。


しかし、どちらが勝利してもおかしくない状況だ。





青城との最後の戦いは、田中先輩のサーブでスタート。


田中先輩が打ったボールは、青城の3番の人によって拾われる。



彼らのスパイクは月島くん達のブロックによって弾かれ、日向くんは速攻の体制に入る。


コートいっぱいいっぱい使って打たれたボールは、相手のリベロに拾われた。



ハイスピードなラリーが続く。



日向くんは何度も速攻を仕掛けたが、やはり向こうに拾われる。



そして、日向くんの指先でのボールタッチと相手のタッチネットにより________





烏野に、得点が入った。



あなた「ナイスっ!!」


全員「「っしゃアアアア!!」」






〜試合割愛〜





両者、得点の取り合い。


こっちが一点重ねたら、あっちも一点重ねてくる。





そして…及川さんのサーブで始まった試合。


作戦か、ゆっくりとコートの前衛に入ってきたボール。


澤村先輩がカバーし、影山くんがそれをレシーブで拾う。



旭さんのスパイクはブロックに弾かれ、そのボールをとったリベロは体勢を崩す。



岩泉さんのスパイクもこちらに弾かれ、カバーしたボールは相手コートへ返ってしまう。



ネットぎわに、日向くんと13番。


押し合い…かと思いきや、ジャンプした13番は日向くんよりも頭一個分高くて。


こちらにボールを凄いスピードで入れられた。


しかしそれはゆうくんがカバー、地面に落ちることはなかった。



空中に舞ったボールを見ながら、影山くんがトスの体勢に入る。



日向くんは、コート全面を使って走り出す。




この位置、このタイミング、この角度で__________





ドンピシャ。











完っ璧。




影山くんの完璧なトスと、日向くんの完璧なフォームによって打たれたボール。





それは、青城のコートまっしぐらで_____________












ブロックに、はたき落とされた。










あなた「え………?」





皆が必死でカバーしようとしたが、それに届かなかった。




ボールは虚しく音を立てて、烏野のコートに落ちる。




33対31。





青葉城西の、勝利だ。



青城の人たちは歓声をあげ、身体と声で喜びを表現していた。




そっか…………負けちゃったんだ、うちら。




震える足をぱしんと叩き、コートに走った。



あなた「はぁっ、はぁっ…」



彼らに何かを伝えたくて。


彼らを抱きしめたくて。



でも…足が、動かない………。




澤村「…影山、日向。整列だ」


日向「…キャプテンっ、すみませ…」


澤村「今のはミスじゃない。ミスじゃないから、謝るな」



皆泣いてないのに、うちが泣きそう。


一生懸命戦った皆の方が、何倍も辛いはずなのに。




どんな彼らでも、支えて上に持ち上げるのがマネージャーじゃないの________?







「「ありがとうございました!!」」



挨拶を終え、コーチのいるベンチに集まってきた烏野高校男子バレー部の皆。


誰も涙を流さなかった。


誰もが悔しそうな顔で、下を見つめていた。


そして周りには、すでに次の試合の準備をするチームが。



烏養「…すぐ撤収だ。クールダウンは、上か外でやれ」







烏養「兎和」


あなた「っはい、」


皆が散らばっていく中、烏養コーチに呼ばれ、うちは彼の元に駆け寄った。



烏養「あいつらの状態を見てやってほしい。山口にしたみたいに」


あなた「えっと…励ますってことですか?」


烏養「いや…そばに居てやるだけで良い。心のケアみたいなもんだ。マネージャーならできるだろ?」


マネージャーなら……


あなた「…はい!」








ー外にてー



ボトルを運んでいる最中、水道で顔を洗っている影山くんと日向くんを見つけた。


あれは…いかない方が、良いかな。


うちは影に隠れ、成り行きを見守ることにした。



日向「…ミーティング始まる」


日向くんがそういうと同時に、影山くんは水道の水を止め、日向くんの方を振り返った。



影山「…悪かったな。最後まで、完全に読まれた」


日向「……謝ってんじゃねぇよ!!」


あなた「あっ…」


日向くんは影山くんの胸ぐらを掴む。


影山くんはそのまま倒れ込み、日向くんは彼に馬乗りになった。


日向「俺に!俺にあげたのが、間違いだったみたいに言うな!!」



武田「…ミーティング、始まってしまいますよ」


あ、…武田先生。


先生は、2人にニコリと笑いかけた。




武田「今日も素晴らしい活躍でしたよ!2人とも」



地面に転がった2人は、バツの悪そうな顔をしている。



日向「でも…負けました」


武田「確かに負けました。でも、実りある試合だったのでは?」



2人は黙ったままだ。











武田「………負けは弱さの証明ですか?」











武田「君たちにとって、負けは試練なんじゃないですか?地に這いつくばったあと、また立って歩けるのかっていう。君たちがそこに這いつくばったままなのなら、それこそが、弱さの証明です」





その言葉に、2人はゆっくりと立ち上がる。



彼らの背中は、すごく、大きく見えた。











武田「…兎和さんも、一緒に帰りましょうか!」


あなた「えぇっ、気づかれてた!バレてないと思ったのにっ」



武田先生は、笑顔のまま体育館を指差す。


いつもはちょっとドジな先生だけど。



やっぱり『先生』なんだなーって、改めて思った。

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