月島くんにもらったタオルを顔に押し付けながら、前を歩く彼についていく。
泣くまいとあんなに我慢したのに、気づけば足元は水浸しになっていて、ちょっとびっくりした。
人前で泣くとか、うち、ほんと情けない奴だ。
自己嫌悪に陥っていると、月島くんは急に立ち止まった。
彼の背中にぶつかりかけて、慌ててうちも立ち止まる。
うちらの目の前には、第三体育館。
あの時……黒尾さん達がいた体育館だ。
月島くんは黙ったまま体育館の中に入る。
月島「……」
赤葦「おや?」
木兎「おやおや?」
黒尾「おやおやおや」
月島「…聞きたいことがあるんですが、良いですか」
主将組「「いーよー」」
あんなに消極的だった月島くんが質問をよこそうとしていることに驚いているようだ。
でも、主将たちはどことなく嬉しそうに見える。
月島「!…すみません。ありがとうございます。 お二人のチームは、そこそこの強豪ですよね」
ちょっとカチンときた黒尾さんは、顔をしかめながら「まぁね」と答える。
月島「全国への出場はできたとしても、優勝は難しいですよね」
あなた「ちょっと!?」
木兎「不可能じゃねーだろ!!!」
赤葦「まぁまぁ聞きましょうよ。仮定の話でしょ」
赤葦さんが急に肩にぽんと手を置くので、うちはびっくりして小さく飛び跳ねた。
その様子に何故か月島くんは顔をしかめながらも、質問を続ける。
月島「僕は純粋に疑問なんですが、どうしてそんなに必死にやるんですか?バレーはたかが部活で、将来履歴書に『学生時代部活を頑張りました」って書けるくらいの価値じゃないんですか?」
木兎「ただの部活って……!!」
あなた「ひっ…」
木兎「なんか人の名前っぽいな!!」
あなた「は?」
黒尾「おお!タダ ノブカツくんか!……いや待てちげーよ!『たかが部活』だよ」
木兎「だーっ!そうかー、人名になんねぇ惜しかったー!!」
月島「………ツッコんだ方が良いですか」
赤葦「いいよ。キリがないから」
木兎「あーっ!眼鏡くんさぁ、」
月島「月島です」
木兎「月島くんさーっ、バレーボール楽しい?」
月島「……いや、特には」
木兎「それはさー、ヘタクソだからじゃない?」
へっ…!!
ヘタクソ…!?
それ地雷踏んでないですよね?大丈夫ですよね?
でも、あせあせしているのはうちだけのようだ。
木兎「俺は3年で全国にも行ってるし、お前より上手い。断然上手い!!」
月島「言われなくても分かってます」
木兎「でも、バレーが楽しいと思うようになったのは最近だ」
そうなんだ……。
木兎さん、上手だしすごく楽しそうにやるから結構前からそんな感情を持っているんだと思っていたのに。
木兎「ストレート打ちが試合で使い物になってから。元々得意だったクロスをブロックにガンガン止められて、クッソ悔しくてストレート練習しまくった!_______んで、次の大会で、同じブロックに全く触らせず、打ち抜いたんだ」
あなた「かっ…かっこいい…!!」
木兎「ふふん、だろぉ?」
赤葦「兎和さん。木兎さんが調子に乗るので褒めるのは控えていただいて」
木兎「ひっでーなあかーし!!……話を戻すが、その一本で『俺の時代来たーっ!!』って気分だったね」
あはは、とひとしきり笑ったあと……木兎さんの目の色が変わった。
もはや熱気すら感じる。
それは月島くんも同じようで、彼の空気に圧倒されていた。
木兎「_________その瞬間が、『ある』か『ない』かだ」
すっ、と目を細め、月島くんを睨みつけるように告げる。
木兎「将来がどうだとか、次の試合で勝てるかどうかとか、ひとまずどーでもいい。目の前のやつぶっ潰すことと、自分の力が120%発揮された時の快感が全て。……まーそれはあくまで俺の話だし、誰にだって当てはまる話じゃねーだろうよ。お前の言う『たかが部活』ってのも、俺はわかんねーけど、間違っては無いと思う。ただ_________」
木兎さんは人差し指を月島くんに向けた。
木兎「もしもその瞬間が来たら、それが、お前がバレーにハマる瞬間だ」
月島「!」
あなた「…!」
木兎「……はいっ!質問答えたからブロックとんでねー☆」
月島「え?」
黒尾「はーいはい。急いで急いでーっ」
赤葦「…ちょっと長引きそうですね。女の子は冷える前に帰った方が良いですよ」
あなた「いえ……先輩方の指導、ちょっと気になりますし」
赤葦「……そのポケットに入っている塩分補給用の飴をあげるためではないんですか?」
あなた「あれ、バレてた」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。