あなた「……あ!看板見えた!」
角名「……もう兵庫?」
うちのはしゃいだ声で、倫くんは眠そうな目を擦りながら起きた。
ぶすっとした不機嫌な顔でキョロキョロあたりを見回す彼は,ちょっと可愛い。
アキ「もうそろそろアタシの家着くから、ちょっと待ってなー……あ、こんまま稲荷崎おろそうか?」
角名「え?」
アキ「どうせ学校開いてんじゃない?部活動生もいるだろうし。探検行ってきなー」
あなた「おぉ……!!…倫くん、アキさんちまでの帰り方分かりますか?」
角名「まぁ……俺の家の近くだし」
あなた「じゃ、じゃあ降ります!」
アキ「りょーかーい」
アキさんはナビに稲荷崎の名前を入れ,再び走り出す。
静かな車で,ナビの声だけが響く。
アキ「……あ、あれあれー、稲荷崎高校」
あなた「でっか!」
遠くに見えた稲荷崎高校は、思っていたよりもでかかった。
ワクワクしている自分とは裏腹に、隣の倫くんは小さくため息をついている。
角名「帰りたい……」
あなた「……じゃあ一人で探検します」
角名「それは許さん」
なんだそれ。
アキ「はい、どうぞ」
あなた「ありがとうございましたー!」
角名「ありがとうございました」
アキ「遅くなっても絶対帰ってこいよー!」
うちらを車からおろし、バイバーイと元気よく手を振るアキさんに、冴子姐さんを感じた。
あなた「門大きいですね。ここからうちの、稲荷崎生活の第一歩!」
ぴょん、と門のスライドする線のところを飛び越える。倫くんはその後ろからゆっくりとついてくる。
あなた「…で、どこから入ればいいんですか?」
角名「……なんか妹ができた気分だよ」
倫くんは「おいで」と手を差し出す。それでもやっぱり初めましての人だから躊躇してしまううちの手を,彼は無理矢理掴んだ。
思ったより大きくて,あたたかかった。
角名「……ここ、正面玄関。アンタ普通に入ったら不法侵入者だから、手続きしないと」
倫くんの後ろに隠れながら、校舎の中に入る。烏野とはまた違う雰囲気で、他校であることをさらに自覚させられた。
「……お、角名くん。忘れ物?今日多分部活あっとらんけど…」
角名「臨時マネージャーが来たので,ちょっと偵察に」
「…あぁ!兎和さんやんね!ええよ、入って」
思ったより軽く入れた……。
廊下に、うちの履いているスリッパの音がパタパタと響く。
外から野球部かなにかの声が聞こえる。
うちをなんだと思っているのか,彼は繋いだ手を離してくれなかった。
??「お、角名ー!何しよん?」
角名「うっわ……なんでいるの」
??「いやー、忘れもんしてしもてん。ほら、バボちゃんノート!」
角名「なにそれ……」
だ、誰と話してるんだろう……。
角名くんの背中から小さく顔を出すと,その人とパッと目があった。
金髪の、どこかで見たことあるような……あ!!
あの双子の子だ!!
侑「…ソイツ、誰やねん」
角名「臨時マネージャーだって。この前も言ったし」
あなた「ど、どうも………」
あはは、なんだこの圧。
怖いいいいい!!!
角名くんの手を引っ張ると,彼は少しだけ目を大きく開いた。
角名「……侑が怖いらしい。女の子だから、やめたげて」
侑「知らんがな。女かどうかは関係せん、動けるか動けんかやぞ?」
あなた「………?むしろ女として扱わなくてもいいですよ」
侑「はぁ?」
どうやら角名くんが話していた『女嫌い』とはこの人らしい。
反抗することに恐怖を抱きつつ,口を開く。
あなた「うちは『マネージャー』として来てるので。精一杯働かせていただきます!」
ニッと笑って見せると,侑くんは「ふーん」と興味を無くしたのか,歩いて行ってしまった。
あなた「……べーっ」
角名「聞こえてたらどうするの」
あなた「戦います」
角名「なに言ってんの」
あなた「すなちんのダチやられてひよってるやついる!?」
角名「パクるのやめい。てかすなちんって俺?」
あなた「あはは、ち○ゆくん可愛いですよね。場○さんへの忠誠心がもう素敵で」
角名「やめてやめて、自主規制して」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。