あなた「おおおおっ、これが稲荷崎の制服…!!」
アキ「レンタルだけどねぇ,可愛いでしょ,稲荷崎の」
あなた「ハイ!」
鏡の前でくるりと回る。
稲荷崎の制服はなんだか都会って感じがして,すごく可愛い。
うちは明るい色の髪の毛をまとめ,倫くんにもらったあのヘアゴムをつける。
……うん、これで良いかな。倫くん、気づいてくれるかな。
あなた「行ってきま………倫くん!」
角名「どーも」
玄関の前で待っていたのは倫くんだった。
相変わらず眠そうな顔をして,スマホをいじっている。
角名「堂々と出て来たけど,もう場所忘れてるかなって思った」
あなた「あ、あはは……」
図星。
あなた「おーっ、ここが」
角名「いや昨日来たけど」
そうでした。
昨日と違うのは,制服姿の人がたくさん登校してるってこと。
そこら中から関西弁が聞こえて来て,なんだか新鮮な感じもする。
「なんやねんあの子,角名センパイとおるで」
「文句言いたいけど……あの子ええ顔しちょるからなんも言えへん……」
あなた「ええ顔しちょるって!!可愛い子達が言ってる!!嫌味!!」
角名「あの…………歩きづらい」
知らない人に囲まれているうちは完全に人見知りモード,角名くんと手を繋ぎ,影に隠れて登校している。
周りから見たら多分ただの変質者。
あなた「…………」
角名「ほんと、この1ヶ月間が心配……」
うちも心配。
あなた「……み、宮城から来ました。兎和あなたです。…よろしくお願いします…」
先生「なんか好きなもんとか,ない?」
あなた「え?えーと………あ、バレーとシュークリーム!!……が、好きです……」
唐突に大きな声を出してしまい,きゅうっと縮こまる。
皆はそれに気づいて爆笑。顔が熱すぎて前を向けない。
うぅ……入学(?)早々失敗ですか……。
先生「じゃあ、あっこの空いてる席、座っときぃ」
皆の好奇の視線に晒されながら座ると,ちょうどHR終了のチャイムが鳴った。
や、やっと終わった……。
「なぁなぁ、シュークリーム好きなん!?うちも好きよ!」
あなた「ほ、ほんと…?」
「かわええなぁ、宮城から来たんやっけ?」
あなた「は、はい…その前は、博多に、」
「バレー好きなんやろ!?もしかして,バレー部の『アツムセンパイ』目当て?」
あなた「あ、あつむ?」
……あぁ、あの……アイツか。
あなた「………」
「あなたちゃんすごい渋い顔してる」
「嫌な思い出があるんやろな」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。