第75話

真実
3,807
2021/03/12 21:58

菅原先輩は、いきなりカウントダウンを始めた。


なんのカウントダウンかも分からず、うちはその場に固まった。






菅原「………はい。心の準備はできた?」



あなた「心の準備、?」



菅原「家に帰りたくない理由。今話せる?」




あ…………そういえば。



お母さん達といるのが気まずいからお邪魔してるんだ…。



ここまで良くしてくれた人に、真実を話さないという手はうちにはない。



でも…真実を話して、彼が過剰に親切になって、態度が変わってしまったら?


…そんなの、やだ。




あなた「……親と居るのが、気まずいんです。最近、2人の喧嘩が酷くて」



親といて気まずい、というのは嘘ではない。


喧嘩が酷かったのは『最近』というか『ちょっと前』だが、あながち間違ってはないだろう。


あなた「お父さんもお母さんも、うちのために喧嘩をしてるんです。それで、2人の考えが食い違って…」



菅原「そっかぁ…。俺の親、そういうの無いからそういうのちょっとよく分かんないけど…」








菅原「気が済むまで、俺のそばにいて良いよ」





あなた「え…………?どういうことですか…?」



菅原「俺はその問題を解決する事は出来ないけど、あなたを安心させる事はできる。もし困った時は、俺を頼って欲しいんだ」




菅原「あなたのそばに居たいな、俺」



あなた「…ふふっ、何ですか、それ」



そばに居たいな、って、菅原先輩のお願いじゃないですか。


でも。



心のどこかで、うちもそう思っている気がする。



菅原先輩が近くにいたら、どれだけ心強いか。


どれだけ安心できるだろうか。




あなた「…居ても良いですか?」



菅原「え、?」



あなた「菅原先輩の近くに。迷惑だったら、すぐに居なくなるから…」



菅原「…ははっ!良いよ〜」


唐突に明るい声を出され、少しびっくりする。


彼の笑った顔と優しい声は、うちの不安で震えた心にゆっくりと浸透していく。


その笑顔の眩しさに彼の顔が直視できなくなって、思わず下を向いた。



菅原「ねぇ…こっち向いて」


あなた「へ……」




上を向いた時。



うちの頬に、柔らかい何かが当たった。



時間が止まった気がした。



至近距離にあった彼の顔は、ゆっくりとうちから離れていく。



あなた「…?」


菅原「おまじない。落ち着いた?」



あなた「…!?///」



お、落ち着けるわけっ…!!


状況を理解したうちは、バッと彼から飛び退き、背を向けた。



あなた「き、き…?」


菅原「き…何?」


絶対分かってて聞いてるでしょうがー!!



あなた「落ち着けないです!」


菅原「あれ、そうだった?頑張ったのに」


あなた「…頑張った?」



菅原「俺だって、結構緊張してたんだよ。嫌がらないかな、嫌われないかなって。気づいたら、身体が動いてたんだけど」



……はぁ…?



あなた「も、もう寝ましょ!おやすみなさい!!」



ふわふわの布団をめくり、その中にうずくまる。



菅原「…そこで寝るの?」



あなた「え?」




あ、これ。



菅原先輩のベッドなの忘れてた。

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