菅原先輩は、いきなりカウントダウンを始めた。
なんのカウントダウンかも分からず、うちはその場に固まった。
菅原「………はい。心の準備はできた?」
あなた「心の準備、?」
菅原「家に帰りたくない理由。今話せる?」
あ…………そういえば。
お母さん達といるのが気まずいからお邪魔してるんだ…。
ここまで良くしてくれた人に、真実を話さないという手はうちにはない。
でも…真実を話して、彼が過剰に親切になって、態度が変わってしまったら?
…そんなの、やだ。
あなた「……親と居るのが、気まずいんです。最近、2人の喧嘩が酷くて」
親といて気まずい、というのは嘘ではない。
喧嘩が酷かったのは『最近』というか『ちょっと前』だが、あながち間違ってはないだろう。
あなた「お父さんもお母さんも、うちのために喧嘩をしてるんです。それで、2人の考えが食い違って…」
菅原「そっかぁ…。俺の親、そういうの無いからそういうのちょっとよく分かんないけど…」
菅原「気が済むまで、俺のそばにいて良いよ」
あなた「え…………?どういうことですか…?」
菅原「俺はその問題を解決する事は出来ないけど、あなたを安心させる事はできる。もし困った時は、俺を頼って欲しいんだ」
菅原「あなたのそばに居たいな、俺」
あなた「…ふふっ、何ですか、それ」
そばに居たいな、って、菅原先輩のお願いじゃないですか。
でも。
心のどこかで、うちもそう思っている気がする。
菅原先輩が近くにいたら、どれだけ心強いか。
どれだけ安心できるだろうか。
あなた「…居ても良いですか?」
菅原「え、?」
あなた「菅原先輩の近くに。迷惑だったら、すぐに居なくなるから…」
菅原「…ははっ!良いよ〜」
唐突に明るい声を出され、少しびっくりする。
彼の笑った顔と優しい声は、うちの不安で震えた心にゆっくりと浸透していく。
その笑顔の眩しさに彼の顔が直視できなくなって、思わず下を向いた。
菅原「ねぇ…こっち向いて」
あなた「へ……」
上を向いた時。
うちの頬に、柔らかい何かが当たった。
時間が止まった気がした。
至近距離にあった彼の顔は、ゆっくりとうちから離れていく。
あなた「…?」
菅原「おまじない。落ち着いた?」
あなた「…!?///」
お、落ち着けるわけっ…!!
状況を理解したうちは、バッと彼から飛び退き、背を向けた。
あなた「き、き…?」
菅原「き…何?」
絶対分かってて聞いてるでしょうがー!!
あなた「落ち着けないです!」
菅原「あれ、そうだった?頑張ったのに」
あなた「…頑張った?」
菅原「俺だって、結構緊張してたんだよ。嫌がらないかな、嫌われないかなって。気づいたら、身体が動いてたんだけど」
……はぁ…?
あなた「も、もう寝ましょ!おやすみなさい!!」
ふわふわの布団をめくり、その中にうずくまる。
菅原「…そこで寝るの?」
あなた「え?」
あ、これ。
菅原先輩のベッドなの忘れてた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!