もやもやとした気持ちのまま迎えた朝。
各校のマネージャーは、ご飯を注いであげたり料理を作ったりする役割があるため、うちはそっちの仕事にまわっている。
近くの机では、大盛りのご飯をよそったゆうくんが、早速月島くんにちょっかいをかけていた。
西谷「おい月島ぁ!もっと食え!もたねぇぞ!!」
月島「西谷さん、『胃』は大きいんですね」
西谷「なんだとぉ!?」
あーあー、また煽っちゃって…。
日向くんみたいに素直になれないのかなぁ。
ほら、今も。日向くんは、生川の可愛らしいマネージャー、宮ノ下さんにドギマギしている。
そして怒ったゆうくんは、月島くんの眼鏡を上に持ち上げて遊んでいる。
月島「ちょおっと!やめてください!」
菅原「大地に怒られるぞー」
あなた「もー…」
白福「あなたちゃん、卵焼き作ってるのー?」
後ろから、ひょこっと梟谷のマネである白福さんが覗く。
あなた「はい。…食べますか?」
白福「やったー!……って美味し」
今日も惨敗。
ひたすらにペナルティ三昧の日であった。
「みなさーん!森然高校の父兄の方から追加の差し入れでーす!」
そう言いながら体育館に入ってきたのは、大量のスイカを持った、梟谷と生川のマネさん。
皆はそれに、パアッと顔を輝かせた。
日向「(パクッ」
坂道ダッシュに使われる坂に皆で座り、スイカを頬張る。
大きな一口でかぶりつく日向くんも、スイカの一切れを口に加えてもぐもぐする研磨くんも、まじで可愛い。
あなた「あれ…月島くん、もう良いんですか?まだスイカありますけど…」
月島「…良い」
スイカの皮をゴミ袋に捨て、戻ろうとした月島くんに声をかける。
あなた「そっか」
多分今は、そっとしておいた方がいいだろう。
少し遠くでは、黒尾さんが澤村先輩達に謝っているのが聞こえた。
黒尾「すまん。昨日、お宅の眼鏡君の機嫌損ねちゃったかもしんない。実はさぁ…」
澤村「…へぇ。あの月島が自主練に付き合ったのか。で、何か言ったのか?」
黒尾「お宅のちびちゃんに負けちゃうよって挑発を」
旭「たしかに月島は日向に引き目を感じてるとこあるよな」
んー……月島くんは背も高くていろんなボールを制御出来て、日向くんよりは有利だと言える。
なのに、なぜ既に負けていると思っているのか、引き目を感じているのか、それがまだうちには分からない。
田中「あっそれ、関係あるか分かんないすけど、うちの姉ちゃんが『月島の兄を知ってる』って」
澤村「月島の兄貴が?」
田中「でも分かんねーすよ。苗字が同じだけの、別人かもしんねーし」
お兄ちゃん…。
本当か分からないけど、聞いてみる価値は無いわけではない。
うちは、先に体育館に戻った月島くんを追いかけた。
あなた「…ここに居ましたか」
月島くんは皆が居るところとは反対側の、手洗い場のところに座っていた。
木陰もあり、涼しくて心地がいい。
月島「………何で来たの」
あなた「……月島くん、お兄ちゃん、居ますか?」
彼の雰囲気が少し変わった気がした。
誰も通したくない壁が、いつもより強く感じる。
さらに、言葉も刺々しくなった。
月島「…居るけど。それが何?関係あんの?」
あなた「お兄ちゃん、バレーしてたんですね。今もやっているんですか?」
月島「もうやってない」
『入ってこないでよ』。
彼の心の声が聞こえた気がして、うちはそれ以上掘り起こすのをやめた。
あなた「……本気で物事をやるの、楽しくないんですか?」
月島「何で皆本気でバレーしてるのか分からない。たかが部活。本気でやるから、後で苦しい思いをするんだろ」
月島くんが言っていることを否定できなくて、何も言えなくなった。
あの時、青葉城西と戦った時。
負けたことが、本当に悔しかった。
それは、皆が頑張っているところを見てきたから感じたこと。
皆がバレーを本気でやっているところを見なければ、負けの『悔しさ』を、知ることは無かった。
あなた「……そっか。…あ、もう次の試合始まるみたいだよ。ほら、行こ」
今のうちは、『月島くんの世界に入った不法侵入者』かも知れない。
でも、彼はうちが差し出した右手を。
ぎゅっと、握ってくれたんだ。
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読んでくださりありがとうございました!
なんかリムられ期来た( ; ; )
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。