母「あら、おかえり。もう、やっぱりまた英くんの服着ちゃって」
父「ちょっと申し訳ないなぁ」
あなた「ふふ、今日は英くんのお姉ちゃんも居たんだよ!」
母「あら、そうなの。久しぶりに顔でも見たいねぇ。あ、そういえばね、この前アキから電話があったんだけど」
『アキ』というのはお母さんの妹の名前。兵庫に住んでいるらしいが,うちは兵庫に行ったことがない。今までアキさんからこっちに来てくれてたからだ。
あなた「アキさんがどうしたの?」
母「明日の決勝が終わったら,兵庫に来ないかって。アキが高校の先生やってるのは知ってるでしょ?あなたがあまりにも真剣にマネージャーやってるって言ったら,バレー部の臨時マネージャーやってくれないかって」
り、臨時マネージャー……!!!
そのちょっとカッコいい言葉に目をキラキラと輝かせると,お母さんはクスリと笑った。
母「1ヶ月も取っちゃうから、授業は向こうで受けさせてくれるらしいけど。…どうする?やってみる?」
あなた「うん!やる!」
父「そうか、良かった」
母「引っ込み思案が出るかと思ったら」
引っ込み思案……ねぇ。
いつからなくなったんだっけ。そういうの。
やっぱりまだ人と話すのが怖いところはあるけど。
………バレー部と出会って、変わったんだろうな。
あなた「ねぇ、なんていう高校?」
父「えーと確か……
『稲荷崎高校』だな」
いな、いなりざき……?
うーん、どっかで聞いたことあるような………?
母「ほら、もう寝たほうがいいんじゃない?明日は決勝でしょ?」
あなた「あっ、うん。じゃあ、おやすみ……」
うわぁ、臨時マネージャーなんて、ワクワクするなぁ。
でもその前に,決勝戦だ。
春高に行くためには、白鳥沢に勝たなければならない。
その緊張と期待で、ドキドキが止まらない。
その日は,あまり寝付けなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!