第124話

排球部の夏休み②
2,816
2021/04/29 22:00

ショッピングモールの浴衣コーナーは、浴衣を買いに来た人たちで賑わっていた。


こんなに人がいたら、どこかで知り合いに会いそうだ。


…って、フラグじゃないよ!?



と、言おうとしたところなのだが、実はこのフラグ、すでに成立してしまっていたのである。


浴衣に悩むうちの背後には、誰かの人影が。



??「あなたちゃーんっ」


あなた「わああああああ……あ?」



お、及川さん!?



あなた「なんでここに…」


及川「姉の浴衣選びについてきたんだよ。ついてきたっていうか、連れてこられたんだけど」


は、はぁ…及川さん、お姉さんがいらっしゃるのか。


及川「にしても奇遇だねー。あなたちゃん浴衣とかに興味ないかと思ってた」


あなた「えへへ、一年生組で夏祭り行くことになって」


及川「ふーん…」


そう相槌を打つ及川さんは、うちの答えを聞いて面白くなさそうに唇を尖らせた。


及川「俺を誘ってよ。俺もあなたちゃんと行きたかったのにぃ」


あなた「そうですね。及川さんと一緒に居るの、すごく楽しいです」


及川「っ…!?」



笑いかけると、及川さんはびっくりしたような顔になって。


そして、両手で顔を隠して、ヘナヘナと萎んでしまった。


あなた「お、及川さん!?」



しゃがみこんで近くから様子を伺ってみると、手の間からパチリと目があった。




その顔は、ビックリするほど真っ赤で___________。





あなた「……///」



及川「何で赤くなってるの?」


あなた「これはっ……及川さんのがうつったんです。うちのせいじゃないです」


及川「人のせいにしちゃいけないよ」


ふふ、と優しく笑った及川さんは、「ね、お願いがある」と立ち上がった。



及川「一緒にいけない代わりに、一緒に浴衣選びしても良い?可愛いの、一緒に探そ?」



あなた「は……はいっ!よろしくお願いします」



及川さんとうちの、浴衣選びが始まった。






及川「あなたちゃんは色白だからねー。黒を着て白を目立たせるのもありだけど、逆に白を着て白を目立たせるってのも良いなー」


及川さんは、思ったよりも真剣に選んでくれた。


バレーをしている時とは違う、真剣な目をしている。


及川「ね、希望とかある?色とか、柄とか!」


あなた「希望……ですか。うーん、シンプルな感じの…ですかね」


及川「おっけい☆」



そう言って及川さんが選んでくれた浴衣。



この世には一目惚れというものがある。



及川さんの持つその浴衣が、まさにそれであった。











あなた「及川さん、ありがとうございました……そういえば、お姉さんは大丈夫なんですか?」


及川「あ、彼氏が迎えにきてくれたって。俺も送ってくれてよかったのにぃ」


むうっとほっぺを膨らませる及川さんがなんだか可愛い。


いきなり絡んできた時は怖かったけど、やっぱりこの人は良い人なのだ。



及川「ねー、あなたちゃんは知らないと思うけどさ」


あなた「はい」
















及川「俺、あなたちゃんのせいで恋が出来なくなっちゃったんだ」





あなた「……?すみません…?」




謎の告白に、戸惑ううちである。


だって、その告白の意図がわからない。


謝らなければならないことなのだろうか、それともただの冗談か。


ちなみに、うちは及川さんが恋を出来なくなるようなことなんて一切していない。


心当たりがないのだが、その辺教えてくれ及川さん。




及川「伝わってないか…」


及川さんは、仕方がない子、とまた笑った。











及川「初めての、本気の愛の告白だったのに」






帰り際、彼が何を言っているのかは、よく聞こえなかった。










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