烏野に帰ってきてから
ミーティングで、明日体育館に点検作業が入るため、部活は休みだと言われた。
皆にゆっくり休む時間ができた。
………まぁ、あの2人は関係ないんだろうけどね。
あなた「やっぱり…」
もう暗くなったのに、影山くんと日向くんは体育館にネットを張り、ボールを持ってきている。
うちは一緒に雑談していた仁花ちゃんと、それを見かけた。
谷地「あれ、2人、帰らないの?」
日向「あ、2人とも。よかったら、ちょっとだけボール出してくれない?」
谷地「ええっ!私にできる!?」
日向「影山の頭上に、山なりのボール投げるだけ」
あなた「それならできるんじゃないかな?うち」
谷地「…うす!やります!」
そうして始まった、4人での秘密(?)の特訓。
あなた「あ……」
まただ。
影山くんによりトスされたボールは、腕を振り上げた日向くんの頭上を通り過ぎ、地面に虚しい音を立てて落ちる。
日向「くっ…もう一回!」
何度やっても、なかなかタイミングが合わない。
日向くんの腕は、ただただ空を切るだけだった。
地面には大量のボールが落ちている。
日向「…もう一回!」
影山「…このできるかわかんねぇ攻撃を繰り返すより、今までの攻撃とかサーブとかブロックとか、他にやること山ほどあんだろーが!」
日向「…でも俺は!この速攻が通用しなきゃ、コートにいる意味がなくなる!」
影山「だから、この速攻にお前の意思は必要無いって言ったんだ!俺がブロックに捕まんないトスをあげてやる!」
日向「それじゃあ俺は、上手くなれないままだ!」
ダメ。ダメだよ影山くん。
このままじゃ………中学の繰り返しになっちゃう。
しかしうちには止める勇気もない。
彼らはどんどんヒートアップしていき、とうとう影山くんは日向くんの胸ぐらを掴んだ。
影山「春高の予選は来月だ。すぐそこだ…そん時武器になんのは、完成された速攻と、全く使えない速攻どっちだよ!」
谷地「け、喧嘩はダメだよ!影山くん落ちついて!」
その切羽詰まった顔に恐怖を憶えたのか、仁花ちゃんも震えた声をかける。
その時、日向くんが影山くんの手を掴んだ。
日向「俺は、自分で戦える強さが欲しい!」
影山「っ…てめぇのワガママで、チームのバランスが崩れんだろうが‼︎」
影山くんは小柄な日向くんの身体を地面に投げ飛ばす。
足が震えて止まらない。
このまま、元に戻らなかったら__________
谷地「仲良く……しよ?ねぇ!」
影山「勝ちに必要なやつなら、誰にだってトスをあげる。……でも俺は、今のお前を勝ちに必要だと思わない」
くるりと振り返り、もう話すことは無いとでも言うようにこちらに歩いてくる影山くん。
日向くんは、それでも諦めなかった。
彼の腰にしがみつき、彼の動きを止める。
影山「離せ!」
日向「トス上げてくれるまで、離さねぇ!!」
影山くんが日向くんを投げ飛ばす。
しかし日向くんもすぐに立ち上がって彼に再度しがみついた。
谷地「…っ!」
仁花ちゃんは先生か誰かを呼びに、体育館を急いで出ていく。
うちにはどうすることもできない。
ただ殴り合い、傷ついていく彼らを見ているだけ。
見ているだけ…?
あなた「もうやめてよ!!!」
うちの叫び声が、体育館中に響いた。
何も出来ない自分がただ不甲斐ない。
彼らに歩み寄り、力無く、2人を抱きしめた。
うちにできるのは、彼らに縋りつくことだけ。
そのまま足の力も無くなり、うちだけが崩れ落ちる。
あなた「もう……やめてください……」
田中「お前ら……」
仁花ちゃんが呼んでくれたらしい田中先輩の声が聞こえる。
うちはしばらく、彼らにずっとしがみついて、泣いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。