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第22話

フレーム②
59
2022/09/27 09:06






デビューの時に、たくさんの取材を受けた。
あれからもう何年も、何十年も、経ったような気がする。


『メンバーに、変わって欲しくないところはありますか?』

って質問に、オレは、

「キラキラに。
ずっと変わらずそのまんまでいて欲しい」

って言ったんだ。







「ん〜っ」


オレは寝ながら大きく伸びをして、寝返りをうった。
背中側に温かなぬくもりがあるから、もぞもぞとそこに寄り添っていく。

大きな背中と、深い息。
良く眠ってる。

そりゃそうか。
寝る前、一戦交えたもんなぁ(笑)


オレは、寝てる男の肩に頭を寄せて、体をくっつけた。
寝息を静かに聞いてるだけで、また眠くなる。


そのうち、ふいに、あたたかな体が動いてオレの方を向いた。
手が伸びてきてオレを柔らかく抱く。
足がオレに絡まった。


起きたのかと思ったけど、完全に寝てる。

寝ながら、無意識にオレを抱いてる。


オレは、嬉しくて、愛しい気持ちでいっぱいになった。
上掛けが少しめくれたから、手を伸ばしてはだけた背中側を覆ってやる。


オマエの体温が気持ち良い。


愛されてるのをしみじみと実感する。


抱き合う時の、激しい快感でももちろん、愛されてるのを実感するよ?
だけど、ホントに幸せと喜びを感じるのは、こんな日常なんだよな。




そういえば、目が覚めると、オマエがオレを見てることがある。
目覚めたオレに、にっこり笑いかけてくる、あの瞬間も、オレはたまらない幸せを感じる。
オマエは一体いつからオレを見てたんだろうって、毎回不思議な気持ちになるんだよ。
静かな、優しい、キレェなまなざしで、花が開くように笑うから。


思えば、食事の時も。

練習の時も。

ギャグを披露してる時も。

オマエは、目が合うと、必ず笑ってくれるよな。
オレには、それがどんなに嬉しいか知ってっか?
なんだろなぁ、無意識なんだろうけど、目が合うと微笑むオマエの癖?
もうほんと、ヨボヨボのじいちゃんになっても、そこは変わんないでいて欲しい。




オマエは、少年からおとなの男に変わってきた。
今や、すっかり男くさくて、愛嬌してもおとなの色気が漂う。
なのに、オマエは変わんない。
知り合ったあの頃のまま……明るく、たじろがず、オレを甘やかして照らしてくれる。
オレが変わらないでと望んだまま。







オレは、一緒にビッグになろう、って誓い合った仲間たちと離れて、オマエの手を取っちまった。

仲間との別れの決断は、キツくて……。

でもオレは、オマエと出会う前に戻ることなんかできなかった。
だってオマエは毎日、毎日、オレの視界にいて、オレの目を見て笑いかけてくる。

キレェな声で話しかけてきて、オレの名を呼ぶ。



オレはオマエが、誰か他の人間の横で笑って、ソイツを笑わせて、オレと交わらない人生を送るなんて、想像するのもイヤだった。
だけどさ、それは簡単に想像できちまう。

出会った合宿所で一緒の部屋になったオマエに、一体何人が会いに来たよ?
顔が広くて、知り合いが多くて、オレたちの部屋には、有名も無名も外国人も、まるで集会所のように人が集まった。
それはみんな、オマエと話したかったからだったろ?
オレなんて、コワイって言われてたんだぜ?
他のメンバーだって、人見知りだったりでさ。
なのに、いつの間にかオレたちの部屋は溜まり場みたいになってさ。
笑い声が絶えない空間だったよな。
オマエの太陽のような明るい優しさが、人を吸い寄せてんだって気付いた瞬間から、オマエが欲しくてたまんなくなったんだ。


オマエを、オレがいた元のグループに連れ込むことはできない。
オマエのメジャー志向はハッキリしてたし、インディーズやYouTuberにも興味がないのはわかってたから。
だから、オレは、焦ったし、必死になったよ。
元のグループを抜けて、オマエと一緒に生きていける場所を得るのに。
だってそうしなきゃ、オマエ、誰かとどっかに行っちまうじゃんか。


もちろんそれは全部自分のため。
オレは自分が幸せになりたかったんだ。
誰のためとか、そういうんじゃなく、あの時初めて自分のエゴ、自分のためだけに動いたんだよ。
なりふりかまってなんかいられなかった。

だってオレの人生じゃん。

1回しかない人生で、あの時動かなかったら、オマエ無しでやってく人生か、オマエと一緒にいられる人生か。
ほんとに、ぎりぎり瀬戸際だったよな。



それでも、オレの心の中にあった後ろめたさ。
仲間を裏切っちまった、って思い。
どんなに仕方ないって思っても、それは心の中の奥底に潜んでて……。
今、時が経って、かつての仲間は自分の居場所を得て、ちゃんと幸せに生きてる。
それが確認できて、オレは後ろめたさから解放された。
もう安心して幸せになれる。
オマエと。







優しい愛撫にあおられて。
甘いキスに溶かされて。

一緒に歌って、一緒に踊って。

こうして一緒に眠って。

オレの心の中のフレームには、いつもオマエが映ってる。




笑顔の中に、人生の喜びを載せて。












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