デビューの時に、たくさんの取材を受けた。
あれからもう何年も、何十年も、経ったような気がする。
『メンバーに、変わって欲しくないところはありますか?』
って質問に、オレは、
「キラキラに。
ずっと変わらずそのまんまでいて欲しい」
って言ったんだ。
「ん〜っ」
オレは寝ながら大きく伸びをして、寝返りをうった。
背中側に温かなぬくもりがあるから、もぞもぞとそこに寄り添っていく。
大きな背中と、深い息。
良く眠ってる。
そりゃそうか。
寝る前、一戦交えたもんなぁ(笑)
オレは、寝てる男の肩に頭を寄せて、体をくっつけた。
寝息を静かに聞いてるだけで、また眠くなる。
そのうち、ふいに、あたたかな体が動いてオレの方を向いた。
手が伸びてきてオレを柔らかく抱く。
足がオレに絡まった。
起きたのかと思ったけど、完全に寝てる。
寝ながら、無意識にオレを抱いてる。
オレは、嬉しくて、愛しい気持ちでいっぱいになった。
上掛けが少しめくれたから、手を伸ばしてはだけた背中側を覆ってやる。
オマエの体温が気持ち良い。
愛されてるのをしみじみと実感する。
抱き合う時の、激しい快感でももちろん、愛されてるのを実感するよ?
だけど、ホントに幸せと喜びを感じるのは、こんな日常なんだよな。
そういえば、目が覚めると、オマエがオレを見てることがある。
目覚めたオレに、にっこり笑いかけてくる、あの瞬間も、オレはたまらない幸せを感じる。
オマエは一体いつからオレを見てたんだろうって、毎回不思議な気持ちになるんだよ。
静かな、優しい、キレェなまなざしで、花が開くように笑うから。
思えば、食事の時も。
練習の時も。
ギャグを披露してる時も。
オマエは、目が合うと、必ず笑ってくれるよな。
オレには、それがどんなに嬉しいか知ってっか?
なんだろなぁ、無意識なんだろうけど、目が合うと微笑むオマエの癖?
もうほんと、ヨボヨボのじいちゃんになっても、そこは変わんないでいて欲しい。
オマエは、少年からおとなの男に変わってきた。
今や、すっかり男くさくて、愛嬌してもおとなの色気が漂う。
なのに、オマエは変わんない。
知り合ったあの頃のまま……明るく、たじろがず、オレを甘やかして照らしてくれる。
オレが変わらないでと望んだまま。
オレは、一緒にビッグになろう、って誓い合った仲間たちと離れて、オマエの手を取っちまった。
仲間との別れの決断は、キツくて……。
でもオレは、オマエと出会う前に戻ることなんかできなかった。
だってオマエは毎日、毎日、オレの視界にいて、オレの目を見て笑いかけてくる。
キレェな声で話しかけてきて、オレの名を呼ぶ。
オレはオマエが、誰か他の人間の横で笑って、ソイツを笑わせて、オレと交わらない人生を送るなんて、想像するのもイヤだった。
だけどさ、それは簡単に想像できちまう。
出会った合宿所で一緒の部屋になったオマエに、一体何人が会いに来たよ?
顔が広くて、知り合いが多くて、オレたちの部屋には、有名も無名も外国人も、まるで集会所のように人が集まった。
それはみんな、オマエと話したかったからだったろ?
オレなんて、コワイって言われてたんだぜ?
他のメンバーだって、人見知りだったりでさ。
なのに、いつの間にかオレたちの部屋は溜まり場みたいになってさ。
笑い声が絶えない空間だったよな。
オマエの太陽のような明るい優しさが、人を吸い寄せてんだって気付いた瞬間から、オマエが欲しくてたまんなくなったんだ。
オマエを、オレがいた元のグループに連れ込むことはできない。
オマエのメジャー志向はハッキリしてたし、インディーズやYouTuberにも興味がないのはわかってたから。
だから、オレは、焦ったし、必死になったよ。
元のグループを抜けて、オマエと一緒に生きていける場所を得るのに。
だってそうしなきゃ、オマエ、誰かとどっかに行っちまうじゃんか。
もちろんそれは全部自分のため。
オレは自分が幸せになりたかったんだ。
誰のためとか、そういうんじゃなく、あの時初めて自分のエゴ、自分のためだけに動いたんだよ。
なりふりかまってなんかいられなかった。
だってオレの人生じゃん。
1回しかない人生で、あの時動かなかったら、オマエ無しでやってく人生か、オマエと一緒にいられる人生か。
ほんとに、ぎりぎり瀬戸際だったよな。
それでも、オレの心の中にあった後ろめたさ。
仲間を裏切っちまった、って思い。
どんなに仕方ないって思っても、それは心の中の奥底に潜んでて……。
今、時が経って、かつての仲間は自分の居場所を得て、ちゃんと幸せに生きてる。
それが確認できて、オレは後ろめたさから解放された。
もう安心して幸せになれる。
オマエと。
優しい愛撫にあおられて。
甘いキスに溶かされて。
一緒に歌って、一緒に踊って。
こうして一緒に眠って。
オレの心の中のフレームには、いつもオマエが映ってる。
笑顔の中に、人生の喜びを載せて。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!