第16話

トラブル④ 数年後
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2022/06/07 07:39





ゆっくりお風呂に浸かって、身体のコリをほぐした。
気持ちいい。

洗った髪から水が滴るのも気にならない。


お湯を抜いて、バスタブを掃除して。
脱いだシャツで床の水気を拭き取って、上がる。
シャツはそのまま洗濯機へポン。
バスタオルで身体を拭いて、下着とパジャマを着て。
暑いから上半身はまだ裸のまま、化粧水をはたこうとした瞬間。

じゅわって、いつの間にか体内に入り込んでたお湯が漏れて、下着とパジャマを濡らす。


たまにある。
特に時間かけて愛し合ったあと。
シャワーは大丈夫なんだけど、直後に長く湯船に浸かったりすると、ゆるんだまま、すぐに閉じ切らないんだよな。


オレはむーってなりながら、もう1度、下着とパジャマを着替えた。




「あったまった?」


オマエが、観てた画面から視線を外してこっちを見る。


「うん、気持ちかった」


「髪まだ濡れてる。
おいで?」


オレはオマエのそばに行く。
オマエは、オレの首にかかったタオルを取って、オレの髪を拭く。


オレはオマエに頭を拭いてもらうのが好きだ。
ていうか、オマエになんかしてもらうのが好きだ。
末っ子ぶって甘えたの振りしてるけど、実は面倒見がいいオマエ。
瞳を覗くと、キラキラ輝いてる。
さっきまでの、情熱の交換にすっかり満足して、興奮のカケラが、まだ残ってる。
オレを可愛いって思ってるのが伝わってきて、胸の中があったかくなる。


「あれ、パジャマ替えたの?」


「お湯漏れしたもん」


「そっか、大丈夫?」


「大丈夫だけどー」


オレはゲシゲシとオマエの太もも辺りを蹴る。


「オマエのせいだかんな」


げしげしげし。


「(笑)だってもっとって言うから」


「何年やってんだよ。
あんなとこで切り上げようとしてさ。
もっと欲しいに決まってんじゃん!
わざと言わせたろ!」


「あ、わかったー?
そーなんだよねー、言わせたかったんだー(笑)」


げしげしげし。

オマエは、あはははって、明るく笑う。
オレも笑って、更にオマエを笑わせようと、くすぐってやる。
オマエは体をよじって逃げようとする。




じゃれあってたら、テレビから、


『次のニュースです。
未成年への性的暴行でプロデューサーの○○が逮捕されました」


って言う、アナウンスが聞こえた。
オレたちは、すぐ、テレビの音量を上げて注目した。


『○○は、まだ16歳の被害者に薬物を使って、都内のホテルで強制猥褻に及んだ模様。尚、類似の被害が複数あると見られ………』


「これ、あのピーじゃん?」


「やっぱクスリとか使ってたんだな」


「悪いことはできないねえ」


オレたちはお互いの目を見交わす。

危ないとこだった。

売れたい気持ちで夢中だった、あの頃。
一歩間違えば、性を食い物にする悪い大人に引っかかってたかもしれない。
変な動画を撮られて、アーティストとして成功するどころか、人生そのものを破壊することになったかもしれない。


1度踏み外した道を戻る事は、とても難しいから、ほんとに良くみんなで太陽の下を歩いて来れたと思う。


本社のオレたちの教室には、『出禁リスト』なるものが貼ってある。
キラキラの件の後、マネージャーさんが、みんなで周知徹底しようって作ってくれたもので、この人には注意、と、この話には注意、があった。


考えてみれば、アレがあったから、みんなで注意するようになったんだよな。


オレはキラキラを眺めてから抱きしめた。

相変わらず細身の、手足の長い身体。

愛しくて大切な、オレのキラキラ。

もっとずっと一緒にいられますように。



オレの願いを感じ取ったのか、オマエはオレに唇を寄せながら、


「もっとずっと、一緒にいようね」


ってささやいてきた。


返事は優しいキスに飲み込まれてしまった。






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