ゆっくりお風呂に浸かって、身体のコリをほぐした。
気持ちいい。
洗った髪から水が滴るのも気にならない。
お湯を抜いて、バスタブを掃除して。
脱いだシャツで床の水気を拭き取って、上がる。
シャツはそのまま洗濯機へポン。
バスタオルで身体を拭いて、下着とパジャマを着て。
暑いから上半身はまだ裸のまま、化粧水をはたこうとした瞬間。
じゅわって、いつの間にか体内に入り込んでたお湯が漏れて、下着とパジャマを濡らす。
たまにある。
特に時間かけて愛し合ったあと。
シャワーは大丈夫なんだけど、直後に長く湯船に浸かったりすると、ゆるんだまま、すぐに閉じ切らないんだよな。
オレはむーってなりながら、もう1度、下着とパジャマを着替えた。
「あったまった?」
オマエが、観てた画面から視線を外してこっちを見る。
「うん、気持ちかった」
「髪まだ濡れてる。
おいで?」
オレはオマエのそばに行く。
オマエは、オレの首にかかったタオルを取って、オレの髪を拭く。
オレはオマエに頭を拭いてもらうのが好きだ。
ていうか、オマエになんかしてもらうのが好きだ。
末っ子ぶって甘えたの振りしてるけど、実は面倒見がいいオマエ。
瞳を覗くと、キラキラ輝いてる。
さっきまでの、情熱の交換にすっかり満足して、興奮のカケラが、まだ残ってる。
オレを可愛いって思ってるのが伝わってきて、胸の中があったかくなる。
「あれ、パジャマ替えたの?」
「お湯漏れしたもん」
「そっか、大丈夫?」
「大丈夫だけどー」
オレはゲシゲシとオマエの太もも辺りを蹴る。
「オマエのせいだかんな」
げしげしげし。
「(笑)だってもっとって言うから」
「何年やってんだよ。
あんなとこで切り上げようとしてさ。
もっと欲しいに決まってんじゃん!
わざと言わせたろ!」
「あ、わかったー?
そーなんだよねー、言わせたかったんだー(笑)」
げしげしげし。
オマエは、あはははって、明るく笑う。
オレも笑って、更にオマエを笑わせようと、くすぐってやる。
オマエは体をよじって逃げようとする。
じゃれあってたら、テレビから、
『次のニュースです。
未成年への性的暴行でプロデューサーの○○が逮捕されました」
って言う、アナウンスが聞こえた。
オレたちは、すぐ、テレビの音量を上げて注目した。
『○○は、まだ16歳の被害者に薬物を使って、都内のホテルで強制猥褻に及んだ模様。尚、類似の被害が複数あると見られ………』
「これ、あのピーじゃん?」
「やっぱクスリとか使ってたんだな」
「悪いことはできないねえ」
オレたちはお互いの目を見交わす。
危ないとこだった。
売れたい気持ちで夢中だった、あの頃。
一歩間違えば、性を食い物にする悪い大人に引っかかってたかもしれない。
変な動画を撮られて、アーティストとして成功するどころか、人生そのものを破壊することになったかもしれない。
1度踏み外した道を戻る事は、とても難しいから、ほんとに良くみんなで太陽の下を歩いて来れたと思う。
本社のオレたちの教室には、『出禁リスト』なるものが貼ってある。
キラキラの件の後、マネージャーさんが、みんなで周知徹底しようって作ってくれたもので、この人には注意、と、この話には注意、があった。
考えてみれば、アレがあったから、みんなで注意するようになったんだよな。
オレはキラキラを眺めてから抱きしめた。
相変わらず細身の、手足の長い身体。
愛しくて大切な、オレのキラキラ。
もっとずっと一緒にいられますように。
オレの願いを感じ取ったのか、オマエはオレに唇を寄せながら、
「もっとずっと、一緒にいようね」
ってささやいてきた。
返事は優しいキスに飲み込まれてしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。