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第1話

かつおぶしはお好きですか?
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2018/05/09 15:44
黒井すず
ねぇねぇ、つかぬことを伺ってもいいかな?
城崎涼太
ん?
黒井すず
かつおぶし、お好きですか?
城崎涼太
……んんん? え? 何、それ? どういうこと???
 名前も覚えてない彼女からの突拍子もない発言の意図が、サッパリ理解できずに狼狽える。
 これが、彼女と過ごしていく日々の始まりだった。
黒井すず
え、普通に。かつおぶしはお好きですか?
城崎涼太
えー……? 嫌いではないけれど……
 呆気に取られる俺なんてお構いなし。新しいクラスになり、自己紹介もままならぬまま、不躾にかつおぶしが好きかと尋ねてきた彼女の真意は相変わらず分からない。

 ただ一つ分かるのは、突拍子もないことを真っ直ぐに尋ねてくる彼女の瞳がとても綺麗だということだろうか。
黒井すず
そうなのですか! じゃあ、これプレゼントします
城崎涼太
え……?
 俺が狼狽していることなんて気にも留めず、彼女はマイペースに会話を展開させていく。そして、俺の手に半ば無理やり握らせたのは……。
城崎涼太
って、そのままの鰹節じゃないか!!
 削り節ではなく、鰹節。そのまま節のままの鰹節。いきなりそんなものを手に握らされたら、驚くしかないだろう。というか、女子高生に鰹節という組み合わせはなかなかにギャップのある絵面だ。
黒井すず
え? お嫌いでしたか?
城崎涼太
いや、嫌いじゃないけど……
黒井すず
じゃあ、是非。お受け取りくださいませ
城崎涼太
…………はあ
 終始、にこやかに繰り広げられる会話にたじろぎつつ、適切な返し一つできなかった俺は、鰹節を成り行きながら受け取ることになった。女子高生と鰹節という組み合わせもなかなかのギャップだが、鰹節を握りしめる男子高生という組み合わせもなかなかにシュールなものだ。
 俺が鰹節を受けとったことを確認し、彼女は名前を名乗ることなく自分の席に戻っていく。終始マイペースな彼女の行動は、早くもクラス中の注目を否が応でも集めていた。

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