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第2話

ネコばあさんの家に魔女が来たこと
タケシ
ネコばあさんの家に、魔女が来たんだって
朝食のテーブルでそう言ったのはタケシだった。
母さん
ネコばあさん、じゃないでしょ。上田さんのおばあちゃんでしょ
私の分の目玉焼きを焼いていた母さんがイライラしたようにタケシの言葉遣いを直した。
タケシ
魔女ってさあ
タケシは母さんのことなんか全く無視して続ける。
タケシ
変だよね。本物の魔女なのかな
父さん
そんなわけないだろう
新聞を読んでいた父さんがぼそっと言う。あ、聞いていたんだ。
母さん
なんなのかしら。心配ねえ。上田さんも、もう歳だし。……変なのにつかまってなきゃいいけど
ネコばあさん、は正確に言うと、「上田たばこやさんのおばあちゃん」だ。昔は何匹もネコを買っていた。それで、近所の子どもたちは「ネコばあさん」と呼ぶ。
でも、今はそんなにたくさんネコがいるわけじゃない。
一昨年、息子さんがニューヨークから帰ってきて、引き取り手を探したから、今は二匹しかいない。
それにたばこやさんも、私が生まれるずいぶん前にやめたって聞いている。今でもみんな「上田たばこやさんのおばあちゃん」って呼んでいるけれど。
タケシ
変なのって、どんなの?
タケシは興味津々といった風情で聞く。
母さん
……それはあれよ。新興宗教にはまっちゃうとか……
と母さんが答えた。
タケシ
しんこーしゅーきょー!
とタケシは素っ頓狂な声を上げた。
タケシ
空飛んだりするやつ?
……それは新興宗教というか、なんかいかがわしいマジックかなんかだと思うよ、タケシ。私の弟は時々ちょっとアホの子だ。
父さん
そんなことはどうでもいい。ほら、朝練に遅れるだろう
と父さんが、新聞の向こうから言う。
父さんの声はほんの少し不機嫌そうで、私の胸は「きゅっ」としまった。
本当は父さんは私に学校に行ってほしいんだと思う。
早く学校に行けって、言いたい相手はタケシじゃなくて私なんじゃないかな。
タケシ
はいはい
私が通っていた中学の制服を着たタケシは、口を尖らせて席を立った。
タケシ
いいなユッキは。学校行かなくて良くって
立ち上がりざまの弟のセリフに「タケシ!」と母さんと父さんの焦ったような声が重なった。
タケシ
ま、俺は部活が楽しいから行くけどね!
親が焦っているのは全く気にしない風で、タケシは私に笑いかける。屈託ない笑顔だ。
絶対モテるだろうなあ。──自分の弟だけど。
クラスに女子に向かってこんな風に屈託なく笑いかける男子がいたら、絶対惚れる。自信をもって言える。
自分の弟に惚れる気にはなれませんけどね!
──私が高校にあまり行けなくなってから、そろそろ半年近くになる。
父さんも母さんも私と話をする時にはなんだか腫れ物に触るみたいだ。でも三歳年下のタケシは時々、しらっとこういうことを言う。
タケシ
そうだ、今日行ってみるといいよ
とタケシは靴に足をつっこみながら私に笑いかけた。
タケシ
家の中ばっかりで引きこもりとかになっちゃったら困るってカウンセラーが言ったんでしょ? ネコばあさんの家だったら人に見られてもボランティアですとか何とでも言えるじゃん。行っておいでよ。魔女がどんなものか見てくるといいよ!
父さん
もういい早く行け
あんまりにも気楽な口調に、釣られて苦笑した父さんが、自分も立ち上がりながらタケシの肩をポンと叩いた。
父さん
朝練に遅れるぞ
タケシ
へいへい
父さん
ハイは一度!
タケシ
じゃね、ユッキまたね~
顔をくしゃくしゃとさせて、私の弟は中学へかけていく。
すごいなー。
タケシを見ていると、なんだかまるで学校はものすごく楽しいところみたいだ。
私が通っていたあの頃、あそこは地獄みたいだって思っていたんだけどな。
もしかしたら私とタケシは同じ世界に住んでいるつもりで全然違うものを見てるんじゃないだろーか。
こう、私には見えない何かが、あの子には見えるとか、そんな感じで。
だって、タケシの世界は本当にキラキラしてそうだ。
そう考えたらちょっと、くらっとした。
私にだけ見える世界が違うとか。
なんか三流のホラーみたいだな。