第7話

忘れ珠
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2020/04/27 05:52
 授業中、僕は視界の端で何かがキラリと光ったのを射止めて横を向いた。
榊原唯人
榊原唯人
な、何してるんだよ!
栗栖紗奈
栗栖紗奈
何って……観察?
 僕がギョッとして彼女をみると、彼女は日光にビー玉みたいなものを透かしながらゆっくりと答えた。
榊原唯人
榊原唯人
学校に関係ないものは、持ってきたらダメだから!
栗栖紗奈
栗栖紗奈
ふふんっ。リサーチ済みよ
榊原唯人
榊原唯人
だったらなんで……
担任の先生
担任の先生
おーい、そこ!うるさいぞ
栗栖紗奈
栗栖紗奈
すみませーん
榊原唯人
榊原唯人
す、すみません……!
 ヒソヒソと話していると、先生に気づかれクラス中の視線が僕達に集まってしまった。
 彼女といるとろくなことがない。
 僕は色々と気になることはあったけど、渋々ノートに目を落とした。
****
栗栖紗奈
栗栖紗奈
やっぱり人間の世界の空って、綺麗よね〜
榊原唯人
榊原唯人
そうかな?
 待ちに待った昼休み。
質問が山積みだ。
全部答えてもらうぞ!
榊原唯人
榊原唯人
ねぇ……………
栗栖紗奈
栗栖紗奈
あっ!唯人、何あの線!
榊原唯人
榊原唯人
ゆっ!?
 彼女は、僕の言葉を遮り、大声をあげた。
しかし、僕の名前をいきなり呼び捨てにするなんて聞き捨てならない。
栗栖紗奈
栗栖紗奈
聞いてるっ?
 学ランの袖を引っ張られ、僕は我に返る。
榊原唯人
榊原唯人
あぁ、あれは飛行機雲って言うんだよ。飛行機が通った跡
栗栖紗奈
栗栖紗奈
なるほど……
 僕が答えると、彼女はポケットから例のビー玉を取り出し空を透かした。
栗栖紗奈
栗栖紗奈
この中に、飛行機雲を閉じ込めてみたらどうかしら?青空に映える白い線。きっと師匠が羨ましがるわ!
榊原唯人
榊原唯人
うーん。それはちょっと無理だと思うんだけど、君ならできるような気もするよ
 彼女は意外にも、ロマンチストなのかもしれない。
 僕はそんなことを思いながら、
榊原唯人
榊原唯人
それってビー玉?
と聞く。
 すると彼女は、ビー玉を空に透かすのを辞め、
栗栖紗奈
栗栖紗奈
これは"忘れ珠"よ
と言った。
榊原唯人
榊原唯人
"忘れ珠"?
栗栖紗奈
栗栖紗奈
そう。昨日師匠から貰ったのよ
榊原唯人
榊原唯人
へぇ。その"忘れ珠"の詳細は?
 僕は"忘れ珠"というものに興味が湧いて、彼女に問いかけた。
沈黙の後、彼女は首を傾げ、
栗栖紗奈
栗栖紗奈
さぁ。知らないわ
と言い放った。
榊原唯人
榊原唯人
は?何も?!
栗栖紗奈
栗栖紗奈
ええ。何も
 彼女はけろりとして頷いた。
そして、
栗栖紗奈
栗栖紗奈
でも多分、"忘れ珠"とか言うくらいだから、物忘れが激しくなる珠かもしれないわね!
と続けた。
 はっきり言って意味がわからない。
仮に、"忘れ珠"が物忘れを激しくする珠だというのなら、それを使って一体何のメリットがあるんだ。
そんでもって誰が使うんだ、そんなゴミ。
榊原唯人
榊原唯人
……で、どうやって使うとかも知らないの?
栗栖紗奈
栗栖紗奈
もちろん
榊原唯人
榊原唯人
だと思った
 僕はそう言い、お弁当の卵焼きを口に入れた。
"忘れ珠"か……。
なんだか気になるな。
 僕と彼女が、やっと大人しく昼ごはんを食べ始めたその時________________
 ギギィ
 屋上の扉が開き、誰かが入ってくる音がした。

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