「………え、しょぼ」
無意識に僕の口から本音が漏れる。
「しょ、しょうがないじゃない!!私はまだ見習いの身なんだから、人間達が想像するような鎌は貰えないのよっ」
彼女は、僕の言葉でかなり機嫌が悪くなった。
でも、責任は僕じゃなく鎌にあると思う。
現に、そう思ってしまうほど、彼女の鎌は酷かった。
まるで、草刈り鎌を少しだけ大きくしたような見た目なのだ。
もちろん、黒光りしていて刃先が鋭く尖っているなんてこともない。
鎌は、若干錆びているし、刃は刃こぼれが酷い。
今の気持ちを例えるなら、幼少期、心から信じていたサンタクロースがいないと知った時のような、あんな気持ちだ。
死神ってカッコ悪い……。
これが僕の1番の感想だ。
「これでも、良くなった方なのよっ?!私の尊敬する師匠の、お下がりなんだからそんなこと言うと殺されちゃうわね!」
彼女は頬を赤くして、必死に弁解してきた。
今の僕には、何を言われても強がりにしか聞こえない。
「……逆に、今すぐにでも殺してほしいぐらいだけどね」
「また、そんなこと言う!呆れちゃうわ、本当」
多分、僕の方が遥かに君に対して呆れている。
そう言おうと思ったが、口に出すとまた面倒になりそうだと思い直し、口を閉じた。
「じゃあ、話を進めよう。まず、きみのそれは、きちんとした証拠ではないけど、一応死神だってことは信じてあげる。だって僕、気付いちゃったんだよ」
「何に?」
「"日本で信じられている死神の特徴"をだよ」
僕がそう言うと同時に、少し強い風が吹き彼女の髪を揺らした。
「日本ではね、死神は、主に人を自殺に導く神だと言われてきたんだよ。ま、きみは知ってると思うけど」
僕は、いつだったか本で読んだ記憶を辿りながら、彼女をじっと見つめた。
それは、彼女の全てを見透かすように、瞳の奥までだ。
そこでやっと、彼女の瞳が人間離れしたコバルトブルーだと気が付いた。
彼女はふっと目を逸らし、鎌を背中にしまった。
「……知ってるけど、それが何よ?」
僕は、そう答える彼女が、酷く恐ろしい怪物のように思えてきた。
今になって、僕は死神の恐ろしさを知った。
「僕は、今死のうと思ってた。昨日も今日の朝もそんなことはこれっぽっちも思わなかったのに、だ。それを死神の特徴と合わせて考えると、きみは僕を自殺させようと誘ったということになるじゃないか。死神が死に誘うということは、僕はどの道寿命が近い、そういうことだろ?」
僕が、彼女の言動を見逃すまい、聞き逃すまいと神経を集中させた。
僕は、彼女と僕の間に火花が散っているような感覚に陥った。
それでも、彼女は何も言わない。
痺れを切らした僕は、
「……僕を死なせに来たの?」
と繰り返した。
しかし、彼女は、
「え?何言ってるの?あなたは、95歳まで生きる予定だけど」
と怪訝そうに言うだけだった。
僕は、ただ口を開けて唖然とするしかなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。