「…………きゅ、95歳?」
僕は無意識のうちに、言葉がポロリと零れていた。
「そうよ。私はあなたの担当死神なんだから、間違えるはずがないわ」
彼女は腕を組み、ふんぞり返った。
「僕、結構長生き……」
心の声が漏れる。
「分かったでしょ?だから、未来を変えられちゃ私が困るのよ。色々と手続きが面倒臭いんだから」
彼女はそう言うと、苦虫を噛み潰したような顔をした。
何か苦い思い出があるらしい。
「そんなこと言われたって、僕_______」
僕は言葉を濁し、俯いた。
95歳まで生きるから、なんだというんだ。
彼女が困るとか心底どうでもいいんだが。
ま、どちらにせよ、そう簡単に死ぬことは出来なさそうだ。
僕は彼女に気付かれない程度に、溜息を1つついた。
「きみの事情は分かった。そして、君が望むこともね。結局、僕が死ぬことを諦めればいいんだろう?」
_________どうせ口だけだ。
彼女が去った後にでも、ここから飛び降りればいい。
しかし、この後、意外にも彼女の勘が鋭いことに気付くのだった。
「まぁ、そういうことね。でもね、あなた、いまいち信用ないのよね〜………。ずる賢そうって言うか、なんていうか………。とりあえず私、明日から毎日ここに来るわ」
「…………………はぁ?」
これからずっと、彼女に監視され続けるというのか。
そんなの、冗談じゃない。
「さすがにそれは、止めて欲しいんだけど」
「いや、ダメよ」
僕の必死の抵抗も、彼女にあっさりかわされてしまう。
「この学校の関係者全員の記憶を最初から私がいたことに書き換えて、ついでにあなたが隣の席ってことにしておこうかしら。ねぇ、どう思う?」
彼女はまるで、旅行先を決めるかのように瞳をキラキラと輝かせた。
僕は、自分の意見が通ることは絶対にないと悟り、
「……いいと思うよ」
と、ひたすら生返事をした。
「…んじゃ、そういうことで。あ、間違っても私が消えた後に死のうなんて思うんじゃないわよ?死んだ瞬間に私に通知が来るんだからね」
…………完全に見透かされている。
僕は、彼女の綺麗なブルーの瞳に見つめられ、根負けした。
「…………分かったよ」
僕がそう言うと、彼女は満足そうに笑った。
「よろしい。それじゃあ、また明日会いましょ」
「………………」
彼女は手をヒラリと振ったかと思うと、次の瞬間にはいなくなっていた。
足元から徐々に消えていくとか、そんな感じじゃなくて、例えるなら瞬間移動する時みたいな消え方だった。
ふと、僕は今体験したことが夢だったんじゃないかと思った。
そんな都合のいいことなんて、ないんだろうけど。
僕は柵から離れ、グッと伸びをした。
これからどんな生活になるんだろうか?
彼女は本当に死神なのか?
疑問はいくらでもある。
でも、そんなことを考えていたらキリがない。
だから、確実なことだけ_________
僕が死ぬのはまだまだ先になりそうだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。