「ちょっと、待って!!」
「____………!?」
いきなり、背後から聞こえてきた叫びに、思わず柵を掴んでしまった。
せっかく死ぬ予定だったのに…。
邪魔するのは先生?_____などと呑気に振り向いた僕がいけなかった。
「だ、誰?きみ……」
危うく、屋上から転落しそうになる。
まぁ、転落はしたいのだけれど、とにかく事故みたいな死は嫌なのだ。
「私のことは置いといてっ!…全く、勝手に死のうとするなんて有り得ない。予定と全然違うじゃないっ!?ここ最近、こういう人間が増えてるから、私が落第扱いされるってのよ。もうっ、分かる?」
突然背後に現れた女の子は、マシンガンのように、僕に説教じみたことを言ってきた。
しかし、大半がよく分からない内容だ。
彼女は一体何の話をしているんだ?
まず、彼女は何者なんだ?
「……自殺希望者、ではないわよね?」
彼女は遠慮なく、僕に問いかけた。
「え、えっと…まぁ、はい…」
「はぁ?!嘘つくんじゃないわよっ。こっちはね、自殺希望者なんかじゃないのは分かってるのよ」
彼女は、犯人に自白させようとする刑事みたいなことを言った。
かと思えば、『…そうよね、自殺希望者なら私、ちゃんと届け出すもの。だから、悪いのはアイツよね』なんて呟いている。
僕はとりあえず柵を乗り越え、死ぬのは彼女がいなくなってからにすると決めた。
「…あの、さっきから、きみの言っていることがよく分からないんだけど。まず、きみが誰なのか教えてくれると、とても有難い」
僕は、ずっと気になっていたことをようやく聞く事が出来た。
話はこれを聞いてからだ。
「あー………私?私は、死神よ」
「………………………へ?」
思考が止まる。
この人は何を言っているんだろう。
そんな、昨日の夕飯のメニューを教えるようにすんなり言われても困る。
「通りすがりの死神、とでも言っておこうかしら……なーんて!」
全く面白くない。
「あ、そういえば人間に正体を明かしたらいけないんだった!ちょっと聞かなかったことにしてくれる?」
今更どうしろと……?
僕は呆れて、無言で彼女を見つめた。
「ま、そういうことだから」
_________どういうことだ。
全然理解が追いつかない。
しかし彼女はそんな僕に気づきもしない。
「あのさ、きみ本気で言ってる?制服着てないし、この学校の生徒ではないことは確かだよね。だとしたら、れっきとした不法侵入だよ」
「もちろん本気だけど。不法侵入?死神なんだから、そんなこと関係ないし」
彼女は、死神だということをもう一度言った。
僕は、面倒臭いことになってきたと、憎らしいくらいに真っ青な空を仰いだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!