悲しみは
連鎖する
新たな悲劇が
始まった
幸せが壊れる時は
いつも
血の匂いがするのに
今日の俺は
それに
気がついていなかった
知らなかった
どうしてこの世界は
優しい人ばかりが
苦しめられるのだろう
ようやくこぼれ出た
その声は
とても
か細かった
俺は
その言葉に
跳ねるように
顔をあげた
だってその頃に
ここでは
禰豆子の目が
覚めたのだ
偶然にしては
あまりにも
出来すぎている
そのあとに続けられた言葉に
俺は
そう思った
まるで、禰豆子の怪我を
引き継いだように
外傷はない
そう考えるのが
一番自然だった
ガタッ
ドアを開け、俺は治療室へと駆け出す
あなた
あなた
あなた、起きてくれ
どうか神様
俺からこれ以上
大切な人を、何かを
奪おうとしないで
お願いします
駆け込んだ治療室には
誰もいない
俺は踵を返して
今度は入院部屋へと向かった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!