拓海がそんなことを言い出したのは、突然だ。
宿題でわからないところがあるから教えろと頼まれ、部屋に行って教え終わった直後のことだった。
なんとなく、って。
あんまり明確な理由になってないような...。
好きな人かぁ。
そう言われて最初に思い浮かんだのは、青柳くん。
...いや、なんで青柳くんが最初に思い浮かぶのさ。
青柳くんは同じ図書委員で、隣のクラスで...。
友達でもなんでもない私なんて、眼中にないはずだし。
というか青柳くんはイケメンだから、私よりももっと可愛い女子が...。
って、なに考えてるんだろ私。
拓海はシャーペンでペン回しをしながら、口を開く。
私が青柳くんと一緒に帰ってる時って、いつだっけ。
しばらく考えていて、思い出した。
確かその日は二人で図書委員の当番をしてて、終わったあとに途中まで一緒に帰ったんだっけ。
あの時の、見られてたのか。
聞いといてなによその態度は。
全く、可愛くないんだから。
それこそつまんないじゃん。
てか、女子に向かってそんなこと言わないの。
あっけらかんと言う拓海に、私はため息をついた。
だからそれ、ちゃんとした理由になってないんだってば。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!